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第四百三話 真剣な眼差し

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! な、なんという美女!!」


 校庭に戻って来た原田と子分達が大げさに驚いている。

 木田家の三柱が変身を解除したのだ。

 同じくご婦人達からは、ため息がもれている。

 どうやら、信さんとスケさん、カクさんの変身を解除した姿が、かっこ良かったようだ。


「旦那様……」


 俺は信さんに数歩近づくとその顔を見た。


「八兵衛さん。予定通り昨日の朝、北海道国軍は撤退を開始しました。もうじきここにも知らせが来るのでは無いでしょうか」


 信さんはうつむいて、顔に影を落としてさみしげな表情で言った。

 どう見ても予定通りうまく行った人の顔ではない。




「おーーーい!!!!」


 北海道国軍の兵士が数人、校門から入って来た。


「あ、あんたーー!!!! く、くっさーー!!」


 ご婦人達の中から、数人が走り出し兵士達に近づき言った。

 この兵士達の奥さんなのかな。


「そっ、そうか!??」


 兵士達は自分たちの体の臭いを嗅いでいる。


「そうよ。これだけ離れているのに臭うわ。全身から、はき古した靴下の臭いが出ているー」


 ご婦人は鼻をつまんで言った。


「まあ、仕方が無いな。ずっと前線にいたからなあ。そんなことより、すぐに避難するんだ。もうじき共和国軍が来る」


「ええええーーーっ!!!!」


 成り行きを見守っていたご婦人達全体から声がした。


「……と、とうさん……」


 イルナの横に隠れていた子供の一人が言った。


「タッ、タツオーーーーッ!!!!」


 兵士の一人が子供に駆け寄って抱き上げた。


「生きていたのかーー!!!! うおおおおおぉぉぉぉーーーーー!!!!!!」

「とうさーーーーんーーーーーー!!!!!!」


 どうやら、神様のいたずらか感動の再会があったようだ。

 二人は抱き合いながら涙を流している。

 まわりからもすすり泣く声が聞こえてきた。

 こんな奇跡が起ることもある。

 やれやれだぜ。俺は厄介事の予感がしていた。


「さあ、皆、行こう。じきに籠城戦が始まる。兵士達も前線から次々帰って来るはずだ。こんな所にいたら共和国軍に何をされるか分からないぞ」


 兵士達の班長だろうか、すこし貫禄がある兵士が言った。


「ど、どうする……」


 ご婦人達が、ヒソヒソ話し始めた。

 俺の横にあずさとヒマリが近寄ってきて手をつないできた。

 二人の目に涙が溜まっている。

 二人はもうわかっているようだ。頭が良い子達だ。


「八兵衛さん、今日までありがとう。私達は行きます」


 ご婦人達の代表が、あいさつをしてくれた。


「はい。俺達のことは気にせず、思うように行動して下さい」


「ふふふ、八兵衛さんは変わった人ですね」


「ええっ!!??」


「……もう、可愛いあずさちゃんとヒマリちゃんともお別れかあ……。元気でね」


 ご婦人達の代表は視線を俺の顔から下にむけて、あずさとヒマリに合せた。


「……」


 あずさとヒマリは、上目遣いでしばらくご婦人達を見つめてから、黙ってうなずいた。

 下を向いたとき、地面に涙がポタポタ落ちた。

 きっと、楽しく会話をした人も大勢いたのだろう。

 ご婦人達がゾロゾロ兵士に連れられて校門を出て行くと大勢子供達がついていく。


「ええっ、どうして……????」


 ヒマリが驚いた。


「さっき、お父さんと再会があっただろ。両親が生きているかも知れない子供達は、お父さんに会えるかも知れないと思ったんだろうなあ……ふふふ……それでいいのだろうなあ……」


「そうか……会えるといいね」


 ヒマリは、無表情でそう言った。


「俺は行かないぜ。母さんも父さんも目の前で殺されたからね……。俺を……守るためにね。へへっ……」


 イルナちゃんが言った。

 イルナちゃんは俺の顔をじっと見つめている。

 ヒマリと違って少し笑っているように見える。

 俺はイルナちゃんをあずさとヒマリの手をつないだまま抱きしめようとした。

 面倒臭いので、三人をまとめて抱きしめた。


「別れってつらいね」


 あずさがぼそりとつぶやいた。

 あずさも両親とは別れているが、幸いなのかその記憶は失っている。

 あずさの記憶は俺と中華料理屋で、お粥を食べているところから始まっていると言っていた。

 あずさの顔を見た。ちゃんと悲しげな表情をしている。


 校門から出て行く人を見送ると、あんなに賑やかだった校庭がガランと広さを増していた。

 残った人は百人前後だろうか。

 原田達一家と、ユキちゃんとお母さんは残っている。

 子供達の姿はほとんど無くなっていた。

 ばあさんとお孫さんの姿はなかった。

 きっと、兵士が息子さんなのだろう。

 残虐大臣一家は残っている。


「おい、八兵衛! いったいこれからどうなるんだ?」


 残虐大臣が聞いてきた。


「そうですねー。北海道国の政府が、弱者救済をしてくれるのなら良いのですが、そうで無ければつらい日々が待っていますね」


「ふむ。なるほどつらい日々が続くのか」


 即答かよ!!


「おや、大臣は弱者救済をしないと判断したのですか」


 俺は意地悪く質問してやった。


「ふふふ、八兵衛。日本人の政府は、必ず弱者は切り捨てる。わかっているだろう。ふはははは」


 そうだった。

 節度をもってつつましく真面目に暮らすのは底辺の国民で、贅沢で横柄で我が儘に暮らすのが上級国民様だった。

 政府を上級国民様が牛耳っている以上、避難した人には苦しみしか無いだろう。


 ――わかっている。わかっているから俺の心は暗く沈んでいるんだ。


「あずさ、ヒマリ、イルナ、せめて残っている人達には、腹をすかせないようにしような」


「……」


 三人は無言で真剣な眼差しでうなずいた。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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