第三百八十八話 感動の涙
俺は服が破れたのでついでに、黄色いジャージに着替えた。
そして、闇市の屋台の空いているスペースに移動した。
そこで黄色いジャージの大きなポケットから、いつもの祭り用の鉄板焼きの屋台を出した。
後ろに食材用の巨大な冷蔵庫も出した。
屋台の前には、食事用のテーブルとイスを置いた。
「ユキちゃん、お母さん、おなかの具合はどうですか?」
「え、あ、はい。おかげさまで調子が良いです」
お母さんが答えてくれた。
「じゃあ、今度は少し栄養のある物を食べましょう」
俺は冷蔵庫から、タレに絡めた羊肉の薄切りと野菜を出して、たっぷりの羊肉と野菜を炒めた。
良く炒まったところで皿に取り、半熟の目玉焼きを焼いて、一つずつその上に置いた。
「はい!!」
あずさとヒマリが、屋台の前で良い笑顔と良いタイミングで両手を出す。
俺はその手に、一つずつジンギスカンを渡した。
そして、テーブルに座ると、「いただきます」をして四人で食べ始めた。
俺は続けて鉄板一面に同じ物を大量に焼き始めた。
「おい、大臣あんたも食べな、そして若い衆、あんた達も食べるんだ!!」
「うおおぉぉぉーーー!!!! すげーー肉だーー!!!!」
歓声があがった。
あたりにいいにおいが広がると人が集って来る。
さっき、パンツを見せてくれたご婦人方も来てくれた。
「今日は開店記念だ。全品無料。食べて行ってください」
屋台の前にすぐに行列が出来た。
俺は、ジンギスカンの他に、焼きそばと、お好み焼きも焼き始めた。
「あの、お手伝いします」
ユキちゃんのお母さんが言ってくれた。
「お母さんはねえ、お好み焼き屋さんで働いていたんだよ」
ユキちゃんが自慢そうに言った。
「では、お願いします」
「あの、火のかげんはどうすれば?」
「この鉄板は、青いでしょう。未来の鉄板なんです。言葉で言えばやってくれます。ここからこっちは強火とか、こっちは弱火とか、保温なんてのも大丈夫ですよ」
「すごいですね!! じゃあ、ここを強火にして! ……ふふっ、本当だ熱くなってきた!」
「お母さん、少し任せてもいいですか? 後ろの食材は自由に使ってもらって大丈夫です。全て無料で食べてもらってください。ユキちゃんにも沢山食べてもらってください。お母さんも時々休んで食べてくださいね。二人のメイドを置いて行きますから」
俺は、シュラとフォリスさんを手で示した。
「はい!!」
「俺は、ちょっと筋を通しに行ってきます。シュラ、フォリスさん! ユキちゃんとお母さんをお願いします」
俺が言うと、シュラとフォリスさんがうなずいてくれた。
すぐにあずさとヒマリが俺の横に来て上目遣いで見つめて来る。
俺は、大きくうなずいた。
そして、食事中の恐いお兄さんのところに近づいた。
「お兄さん達、親分さんにあいさつがしたい、案内を頼めるか?」
すぐに少し貫禄のある、強面の兄さんが立ち上がってくれた。
しかし、相変わらずこえー顔だよなあ。こいつら。
だが、その兄さんも緊張した顔をしている。
普段なら、俺はいやな笑いで見下される豚顔なのだが、今回は先に実力を見せているので、見下されることはなかった。
「で、では、八兵衛さん。ご案内します」
「よろしくお願いします。おーい、大臣様一緒に行きますよーー!!」
「は、はいぃーーーー!!!!」
大臣が、走って来た。
「……ここです。ここで少しお待ち下さい」
案内されたのは、闇市からさほど離れていない、高い塀にかこまれた純日本風の建物だ。敷地が広い。
恐いお兄さんは中に消えた。
「赤穂さん、ここであっていますか?」
俺は、小声で聞いてみた。
「はい、間違いありません」
すぐに耳元に返事が返ってきた。
恐いお兄さんは、すぐに帰ってきた。
「どうぞ、中へ」
中に入ると、広い土間の奥に和室があり、和室には十人程の男が立っている。幹部だろうか。その奥の正面に初老の太った貫禄のあるおっさんが座っている。
最初緊張した顔をしていたが、俺達の姿を見るとニヤニヤしている。
どうやら、俺を取るに足らない男と思ってくれたようだ。
「俺は、越後の商人十田家の使用人八兵衛と申します。闇市で店を開かせて頂きたくご挨拶に参りました」
「わざわざ越後からこんな所まで……」
少し疑いのまなざしを向けてくる。
だよなーー。あやしいよなあ。
「はい。それで、もし出店を許して頂けるのなら、利益の六割をお納めいたします。そう言うようにと旦那様より申し使っております」
「ほう、六割だと……ふむ……まあ、別にかまわんだろう。こっちが損するわけでもねえ」
「あ、ありがとうございます」
俺は、長居は無用と、くるりと出口にむかった。
「親分、あいつらはなめない方がいいと思います」
「ば、ばっかヤロー!!!! びびらせやあがって、あんな豚に、何が出来ると言うんだ。ぼけがーー!!!!」
ガンと殴る音が聞こえた。
「ぐはっ!!」
どうやら案内してくれたお兄さんの忠告を聞く気は無いようだ。
俺達は建物を出た。
案内のお兄さんは、出てこなかった。
「おい! 八兵衛さん、六割も納めたらやって行けねえだろう」
大臣が心配している。
「いえいえ、大丈夫です」
「くひっ」
あずさが、もうわかったのか笑った。
ヒマリはまだわかっていないのか「????」状態である。
再び闇市に戻ると、大変な騒ぎになっていた。
近所中に噂が広まり、大勢が押しかけている。
広場に入りきらない位の人が集っている。
これ程、困っている人が多いということなのだろう。
「は、八兵衛さーーん!!!! 助けてくださーーい!!!!」
ユキちゃんのお母さんが悲鳴を上げた。
俺は臨時に屋台を三つほど増やし、ヒマリとあずさと俺で屋台を新規オープンした。
お客さんは、家族に食べさせるためか、鍋を持参してお持ち帰りが多かった。
俺はここでも、感動していた。
「私はジンギスカン二人分」
「私はジンギスカン三人分」
「あの、もっと頼んでも良いですよ」
ユキちゃんのお母さんが言った。
「何を言っているんだい。私達が欲張ったら、他の人の分が足りなく成るかも知れないじゃ無いか。必要な分だけでいいよ!!」
一人のおばあさんが言うと、まわりに並んでいる婦人達がうなずいている。
日本人はこんな時でも、きちんと行列を守り、必要な分しか持って行かなかった。涙が出るくらいうれしかった。
人が、いなくなった頃にはあたりが真っ赤になっていた。
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