第三百六十一話 もしかしてチュー
大殿が、怒りで我を忘れているようです。
恐らくここに居る人で、大殿が何に怒っているのか分かっている人はいないと思います。
ここは私が行くしかありませんね。
私は大殿に命を捧げています。これ以上怒らせて殺されても何も文句はありません。
「大殿! 私は大殿が何を言わんとしているのかが分かりません」
「……!? ふふふ、さすがは桃井さんだ」
大殿は、我に返り怒りを隠しました。
きっと、心の中は怒りの炎が燃えさかっているのでしょうけど、まるでわからなくなりました。
そして、私の両肩に手を置きました。その後、ゆっくり優しく力を入れます。
まっ、まさかこれは、口づけでしょうか?
べ、別に、私は嫌がりませんよ。むしろウェルカムです。
と、思ったら、私の体をくるりと反転させました。
そして、私の目線に合わせて指をさしてくれました。
私は指の先に視線を向けます。
そこには、避難している人の最後尾があります。
「避難民の最後尾ですか?」
「うむ。異変を感じませんか?」
「異変……??」
ダメです。分かりません。
皆、住み慣れた家を離れ重い荷物を背負って、足取りの重い暗い表情のかわいそうな避難民です。
「少ないんだ。福岡の街全員ならもっと人数が多いはず。もうじき福岡の街の上空になる。それで全て分かる」
大殿の言っている事が、福岡の街の上空に着くとすぐにわかりました。
福岡の街には、まだ大勢人がいます。
「竜造寺の野郎!!」
大殿がまた怒りそうになっていますがそれを、唇を噛んで耐えています。
少し血がにじんでいます。
「……!! 酷い!!」
私は、目に涙が溜まり思わず声が出ました。
「常久! 竜造寺とはどんな男だ?」
「はっ! たしか、悪い噂の絶えない政治家だったと記憶しています」
「またかーー!!!! またなのかーー!!!! また、上級国民だけが助かれば、底辺の人間はどうでもいいというのかーー!!!! ふざけるなーー!!!!」
どうやら、竜造寺様は……いいえ竜造寺は、自分たちの家族や、重臣達の家族だけを逃がして、一般の人達はそのまま置き去りにしたようです。
まるで、自分たちだけが助かるために、一般市民を最後の時間稼ぎの捨て石になるよう、置いていったようです。
「全軍、もういいぞーー!! 避難民は全員街を脱出したー!! 引き上げだーー!!!!」
福岡の街を後にして、新政府軍が進軍している国道に着くと、丁度最後まで残っている部隊が、撤退をするところだったようです。
「お前達、どこへ行く!!」
常久様が言いました。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! 殿ーー!!」
数百人の兵士達から、歓声があがりました。
どうやら安東家の生き残りの兵士のようです。
「お前達は残り、これから始まる戦いをしっかり見ておけ」
「はっ!!」
安東隊は常久様のまわりに集合し、整列しました。
「全軍ーー!! てったーい!!」
竜造寺軍は、安東隊を切り捨てて撤退を開始しました。
国道から竜造寺軍の姿が消えて、私達だけになりました。
大殿は、黒いジャージにヘルメットをかぶります。
大殿の体の向こうの景色がユラユラ、真夏のアスファルトにできる蜃気楼のようにゆれています。
遠くに新政府軍の旗が見えてきました。
「皆さん、皆さんは隊列を組んでここに居てください。もし、俺の横をすり抜けるような者がいれば捕らえてください。決して街に入れないでください」
大殿は、また一人で戦うつもりのようです。
普段の大殿は、極力手出しをしないように心がけています。
それは、悲しいですが自分が死んだ後、残った人たちで何とか自立出来る様にと配慮しての事です。
ですが、今は住民を守るため自ら戦うつもりのようです。
「おいおい、馬鹿が一人で、のこのこ出て来て何をしようと言うんだ?」
新政府軍を率いている隊長が、前に出て来て言いました。
「ふふふ、おめー達も新政府軍なら聞いた事があるんじゃねえか。俺はアンナメーダーマンだ」
「な、なにーーーー!!!! アッ、アンナメーダーマンだとー!!!! そういや五番隊が、九州にいるとか言っていたなあ」
「悪い事は言わねえ、いったん筑前を捨てて、豊前まで撤退してくれねえかなあ」
「ひゃははは、今ここには新政府軍の六番隊と七番隊がいる。ということは隊長様が二人いるんだよ。兵士も一万弱いる。てめーこそ勝ち目がねえ。お家へ帰ったらどうだーー!! アァーーッ!!」
「ひゃははははーーーー!!!!」
まわりの兵士が笑います。
「おい! ミズ、どうした?」
体の大きな男が隊をかき分けて、先頭に出て来ました。
「おお! マボリ、いいところへ来た。アンナメーダーマン様のお出迎えらしい」
「な、なにーー!!!!」
マボリという隊長は、大殿をジロジロ上から下まで何度も見ます。
ミズといわれた、隊長とはちがって慎重な性格のようです。
顔が少し緊張してこわばっています。
「ほ、本物なのか?」
マボリ隊長はミズ隊長に質問しました。
ミズ隊長も緊張した表情になり、無言のまま大殿を見つめます。
大殿はたった一人で、新政府軍の前に立ち、二人の隊長がそろっても全く恐れる様子がありません。
それどころか、さっきのオーラがより強くなっています。
ここから見ている私の目には、新政府軍全体の姿がユラユラゆれてしまってまともに見る事が出来ません。
「ありゃあどうやら本物だ。桜木さんよりやべえ雰囲気がする」
ミズ隊長はマボリ隊長に言いました。
「じゃあ、二人同時じゃねえと、勝てねえなあ」
マボリ隊長からさっきまでの緊張が溶けて無くなり、白目に血管が浮き上がり狂気を帯びた目に変わりました。
新政府軍六番隊と七番隊の隊長が、大殿との間合いを詰めていきます。
「いくぞーーーーーー!!!!!!」
二人の隊長が掛け声と共に走り出しました。
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