第三百五十八話 あれ
「フンスームーー、フンスームーー」
「あのー、桃井さん。すごい鼻息で、鼻の穴がおっぴろがって、ブスな顔が余計にブスになっていますよ」
私は、どうやら興奮しすぎて、鼻息がすごいことになっていたようです。
私の方を見て、真田様が言いました。
えっ!? なんですと?
「……!?」
ブスな顔が、余計にブスになっているですってーーーー!!!!
私はきっとすごい形相で、真田様をにらんだようです。
「あっ、し、失言でした」
真田様が少しあせって謝って下さいました。
まあいいですけどね。だいたいわかっています。
でも、すごいですよねー。
女の私でも、大殿の戦いは興奮せざるを得ませんでした。
私の顔がブスになる程すごい光景でした。
大殿はやっぱり最高です。
「あっ、桃井さん。そう言えばあの子はどうしました?」
大殿は、これだけの事をしながら、呼吸が乱れていません。
それどころか、この暑い中で汗すらかいていません。
全くもって普通でいつもとかわりありません。
何事も無かったように歩いて来て、私に聞いてくださいました。
なんと、もどって一番に、私に声をかけて下さったのです!
こっ、これって、もしかしてだけど、もしかするのじゃないかしら。
「あの子?」
でも、急にあの子と言われましても私には分りません。誰の事でしょうか?
「ほら、ハーフのかわいい豪傑の女の子!」
大殿は、うれしそうな顔をしています。
「ハ、ハーフのかわいい豪傑の女の子ー?」
誰の事でしょう。全くわかりません。
「あーそうだ。ベッキーちゃん!!」
「えーーーっ!?」
どこで、そうなったのでしょうか?
ベッキーちゃんとは、戸次様の事ではないでしょうか。
今そこに拘束されている。美形ではありますが、完全に男です。どこからどう見ても男です。
「……?」
驚く私を、大殿は不思議そうな顔をして見つめます。
「あ、あの、ひょっとすると、そこで拘束されている、ベッキ様の事では無いでしょうか」
私は指をさすのは失礼と考えて、手のひらで示しました。
「えーーっ!? こ、この子が女の子なのですか?」
「えーーっ!? なんでそうなるのですかーー!!」
そ、そうか、私が大殿にすごい方がいると言ったのでした。
そのとき、ベッキーちゃんと思ったようですね。
「すごい! 俺には男にしか見えない。俺は人間の性別がパフパフしないと分らないようだ。悟空と同じなのかもしれねえ」
大殿の手が、パフパフと動いていますが女性だからやってはいけない。
そんな動き方をしています。
「ち、違います。男で合っています。合っていますよーー!」
「えっ、そうなの?」
なんだか急に元気とやる気がなくなりました。
「じゃあ、食事にしますか」
大殿は、なにかスイッチを切替えたように言いました。
もう、完全にベッキーちゃんに興味が無くなったようです。
可哀想な戸次様。
「お、お待ち下さい!!」
スケさんが慌てて言いました。
そして、本陣の上に飛び乗ります。
「どうしました?」
「はっ! あれをやらないといけません!」
「あれですか?」
「あれです!!」
「そうですね。ではお願いします」
大殿は本陣から降りようとしました。
絶対、あれの事をなんだか分っていませんね。
あれって、何でしょうか? 私にも分りません。
「大殿、どこへ行かれるのですか。そのまま真ん中にいてください」
「えっ!?」
すこーし、わかってきました。
大殿が嫌いな奴です。
「みなのものーーーー!!!!」
スケさんが大声を出しました。
しかし、声が島津隊あたりまでしか届いていないようです。
「声が届かないようだな。カノンちゃん頼む」
大殿が、そう言うとカノンちゃんは何を思ったのか、大殿の腕に抱きつきます。
美少女はいいですね。
何をやっても許されるようです。
「はい」
またあの上目遣いです。
誰に教わったのでしょうか。
こんなのおっさんなら、いちころですよね。
可愛すぎます。
「では、あれをお願いします」
スケさんが言いました。
カノンちゃんは、うなずくと大きく背をそらせて胸いっぱい空気を吸い込みました。あー、胸は小っさいです。極少です。
「一同の者、整列せよ!!!!」
「!!」
ここまでの長いやりとりで、両軍の兵士達はだいたい意識が戻っています。
カノンちゃんの声で、皆島津本陣にむかい姿勢を正します。
そして整列をして、注目しました。
「こちらにおわす御方を、どなたと心得る!? 恐れ多くも関東木田家、木田とう様にあらせられるぞ!! 木田とう様の御前である一同の者、頭が高い控えおろーー!!!!!!」
声量は多いのですが、透き通った美しい声です。
今回は、おふざけは無いようです。
「はっ!! ははああぁぁーーーー!!!!」
五千を越える兵士が、一斉に平伏しました。
大友様と戸次様が本陣から飛び降りて、平伏します。
その他の人も全て、本陣から飛び降ります。
私も飛び降りようとしましたが、大殿が袖をつかんで止めてくださいました。とても素敵な笑顔で、私を見つめてくれます。
本陣の上には、大殿とスケさん、カノンちゃん、私だけが残っているだけになりました。
本陣の上から見る景色は圧巻です。
緑の大地に、五千を越える兵士が美しく整列して、平伏する姿は、私ごときでも感動で胸が熱くなります。
カノンちゃんの顔も緊張してこわばっています。
でも、頬が高揚して赤くなっています。
何と美しい子なのでしょうか。
「スケさん、カノンちゃん、もう十分です。楽にして下さい。そして食事をしましょう。大友、俺の出す食事を食べてくれるな」
「も、もちろんにございます」
こうして、大友軍と島津軍は共に食事を始めました。
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