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第三十五話 二つの狂気

 アンナメーダーマンが激豚メイルを完成し、それぞれに引き渡しをした日の深夜。

 満月が首相官邸を明るく照らしている。

 光が全くない都市にとって、満月の光は少し離れた人間の顔の表情まで認識する事が出来た。


「あなた達、こんな所にこんな時間何の用ですか?」


 そう声をあげたのは、アンナメーダーマンとは正反対のやさしげな二十代前半の甘いマスクのイケメンだった。

 その甘い顔からは、それを見たものを一瞬で震え上がらせる狂気がにじみ出ている。

 月明かりに浮かんだその男の顔を見て、首相官邸に来た来客は。


「ヒッ」


 短く悲鳴を上げていた。


「さ、桜木! 不審者だ撃て―」


 パン、パン


 銃声が響いた。


「やれやれですねー。いきなり撃ちますか。僕じゃなければ死んでいますよ」


 右手の人差し指と親指で弾丸を二個つまんで、撃った桜木に見せている。


「嘘だろー。右手だけで弾丸を二発受け止めたのか」


 少し太った六十歳位の悪人顔の男がつぶやいた。

 だが、男は少し落ち着きを取り戻している。

 弾丸を素手で受け止める事が出来るような男が、攻撃をしてこないなら、まずは敵意が無いと判断したのだろう。


「ほらっ」


 甘い狂気をまとった男は、弾丸を桜木の足下に投げた。

 コンコンと音をたて桜木の足下にころがった。


「こ、これは、お前がやったのか」


 太った男は、まわりの死体を見て問いかけた。


「いいえ、僕も今来たばかりで驚いています。鈴木先生……ふふふ」


 狂気をまとった男は、太った男のことを知っているようだ。


「お前は何者だ」


「僕は、阿藤治良アトウハルヨシです。でも、今は邪神ハルラとお呼び下さい」


「か、神を名乗るのか。お前は」


「つぎ、お前呼ばわりしたら殺します」


 ハルラと名乗った男は、ニヤニヤ笑いながら、言葉だけは怒った口調で言った。


「なっ」


「と、言ったところで、初めて見る若造に様付けは無理でしょう。奇跡をご覧に入れましょう」


 ハルラが手をあげると、まわりに倒れている死体がユラユラと立ち上がった。


「な、何だと、死者が生き返った」


「ふふふ、さすがにそれは出来ません。それが出来たら本当の神様です。僕は邪神です。これは皆さん良くご存じのゾンビですよ」


「ゾ、ゾンビ!! そ、そんなことが……」


「簡単にできますよ、こんなことは。桜木さん少しこちらに来て下さい」


「うっ」


 桜木は、鈴木のSPなのだろうか、体のがっしりした三十代の格闘家のような男だ。拳銃を所持しているところから、警察官なのだろう。

 そんな男が、ハルラという自分より若くて線の細い男に恐怖している。


「早く来い。馬鹿め!!」


 ハルラの口調が荒くなった。

 恐らく地が出たのだろう。

 桜木は恐る恐る近づく。

 そして、ハルラの手の届く範囲につくと。


 パーーーン!!


 ハルラは桜木の頬を平手打ちした。

 さっきの銃撃の仕返しだろうか。


「これであなたは、身体能力が2倍になりました。感じますか」


「!?」


 桜木は驚いた顔をしている。

 それは、不意に平手打ちをくらった驚きでは無いようだ。

 ハルラは、相手に力を付与出来る能力があるようだ。


「左の頬を打たれたら、右の頬を出せ。確か言ったのは……誰だっけ?」


 言い終わるとハルラは、桜木の右頬を平手打ちした。


「ぐっ!」


 桜木はそれに耐えた。


「ふふふ、これで4倍です。試してください」


 桜木はその場でジャンプをした。

 軽くジャンプをしただけなのに四メートルくらい飛んでいる。


「なっ!」


 飛んだ本人が一番驚いている。

 軽いジャンプで、二階の軒先に飛び乗ることが出来る高さだ。


「ふふふ、あなた達も来てください」


 鈴木の後ろにいる男達を呼び寄せた。

 呼ばれた男達は、平手打ちに耐える為身構える。


「何をしているのですか、終りました。もう2倍になっていますよ」


「!?」


 どうやら、平手打ちは必要無いようだ


「ですが、あなた達は2倍です。4倍は僕の役に立ってからです。言っておきますが僕が死んだら、あなた達の能力は消えます。憶えておいてください」


「はっ」


 すでに男達は、取り込まれてしまったようだ。


「さて、鈴木先生。政治家は誰もが首相になりたがるというお話しを聞きましたが、あなたはどうなのでしょうか」


「……なにが、のぞみだ」


 鈴木は返事をしないで、ハルラの条件を聞いた。


「ふふふ、僕の望みは、美味しいお酒と女です。あと食事は美味しい物はいりません、餌で良いですよ」


「なっ!!」


 鈴木は驚いている。

 それでこの国を自由に出来るのなら安い物だと思っている顔だ。


「わかった。用意しよう」


「話しがはやい人で良かった。そこに首相の死体が転がっています。今、ゾンビにします。拇印でもサインでも、何でもさせますから、書類を作って下さい」


「そうだな、では暫定政府の指揮でもとらせてもらうとしよう。ふふふ」


 鈴木が恐ろしい笑顔になった。

 まるで、昔見た時代劇の悪代官のような悪い笑顔だった。


「鈴木先生の地元はどこですか」


「私の地元か、大阪だ」


「そうですか、じゃあ関東は必要無いですね。関東の死体は全部ゾンビにかえましょう。まずは江戸城でも襲わせますか」


「なっ!?」


 鈴木は、すでに後悔した。

 少しも安い買い物ではなかったのだ。


「知っていますか。僕は日本をのぞいた世界中の死体をすでにゾンビに変えました。ゾンビには、生きている者を殺せと命じています。ふふふ、楽しいでしょう」


 月明かりに照らされた、ハルラという男の顔は狂気に満ちていた。

 ニタニタ笑う口からとろりとよだれが一筋垂れる。


「桜木ー!! 生き残りが江戸城にいる。部下を連れゾンビと共に殲滅してこい!!」


 ――うわーー、何てことを言い出すんだ、この男!!


 鈴木は頭を抱えた。


「ふふふ、鈴木、諦めろ。貴様と俺は一蓮托生だ。女は美女を集めろよ。ふふふ、楽しみだ。確かここには、高級ワインがあったはずだよな。案内しろ!!」


 鈴木は、やっぱり、やめたいですと言いたかった。

 強く後悔していた。


「はい、ハルラ様!!」


 だが、それは、死を意味する。

 従うしか無いと諦めた。

 そして、諦めたら、笑いがこみ上げてきた。


「わあああはっはっはっは」


 鈴木は気が付けば大声で笑っていた。

 その顔にはハルラと同じ狂気が宿っていた。


「わあーはっはっはっはっはーー!!」


 ハルラも笑いだし、満月を背に二人の狂人の顔があやしく歪み、そのしわの影が二人の顔に恐怖の模様を浮かび上がらせていた。

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[一言] 新しい敵の出現でしょうか。 ハルラと名乗った男。 はたして。
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