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第三百十二話 鹿児島名物黒豚?

「あ、あやしい者ではありません」


 最早、何を言っても無駄かなあ。


「ひゃあーはっはっはっーーー!!!」


 周りの人間達は、鋭い目つきで笑顔も見せずに声だけで笑っている。

 俺は、両手両足をロープで結ばれ、棒にぶら下げられた。


 ――こ、これって、豚の丸焼きを作るときの奴ですよね。


 俺は下にこそ火は無いが、豚の丸焼きのように身動きが出来なくされた。

 せっかく、名案が浮かんだから献策したかっただけなのだが、もう言うのをあきらめた。


 俺の策は、明日の朝夜明けと共に、新政府軍に突っ込んで、包囲をぶち抜き、国道を堂々と南下するというものだ。

 爺さんの話では、新政府軍は九州雄藩連合をすでになめきっている。

 包囲が完了した現在、もう勝ったつもりでいる。

 のんびり、朝食を取ってから、攻めて来るつもりらしい。

 爺さんが嘘を言うとは思えないし、俺もこの状況でなら、そうするだろう。


 そこで、今のうちから食事を済まし、明日の朝、新政府軍の陣から食事の準備のための煙が上がったら、一点突破を仕掛けるというものだ。

 突撃をするのなら、敵にのんびり食事などさせる必要はない。

 きっと、敵の虚を突いて成功する事は間違いないだろう。

 これを、伝えたかったのになあ。


「ちっくしょおぉぉぉーー!!!!」


 俺はあの太夫のように大声が出てしまった。


「やかましいんだよー!!!! この野郎!! てめーはあの小梅かーー!!!! 似てんなーてめーー!!」


「くそぉーー!! うるさいんだよーー!!」


「うるせーのは、てめーだーーーー!!!!!!」


 俺は、ポカスカまわりの兵士に棒で殴られた。

 島津家は血の気が多いようだ。

 俺は、黙っておく事にした。そのうち何か動きがあるだろう。




「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


 山の下から大きな喚声があがった。


「皆の者ーー!! 薩摩隼人の真の姿を見せるときは今ぞーー!! 命を捨てて生を勝ちとれーー!! 突っ込めーー!!!!!!」


 どうやら、俺の策のように敵に突っ込んだ者がいるようだ。

 バカヤロー、こんな真っ暗では、敵も味方もわからんだろう。

 いったいどこの馬鹿だ!


「おおおおーーーーー!!!!!!」


 声に呼応して盛大な鬨の声があがった。


「いったい何があった、物見を出せ!」


 家久殿が声を出した。


「と、殿! 報告します」


「うむ」


「歳久様の部隊が、ふもとの新政府軍に突っ込んだようです」


「な、何?!」


「おまえらーー!!!! 行かせてやれーー! この闇だ。同士討ちになる。道を開けて行かせるんだーー!! どうせ死地だ。明日ゆっくり殲滅すればいい。道を開けていかせてやれーー!!!!」


 今の声は、犬飼隊長だ。

 どうやら、生き残った島津歳久殿の部隊が、決死の覚悟でここを目指して突っ込んできたようだ。

 突っ込んだ先は、援軍に来ている新政府軍十一番隊の陣だったようだ。

 相変わらず犬飼隊長は判断が速い。たいしたものだ。


 松明が移動して新政府軍が花道を作った。

 その真ん中を二~三百人の人影が移動して山を登っている。

 ここで、この部隊が合流しても、ここの砦には千五百人に満たない兵士になるだけだ。

 五千人を越える新政府軍には数でも装備でも敵う事は無いだろう。


 犬飼隊長は自分の隊の、同士討ちのリスクを避けたようだ。

 十一番隊は戦闘集団と言うより輜重隊だ。

 夜中の襲撃に混乱したら、何があるか分らないと考えたのだろう。

 敵ながら、あっぱれだ。




「ひーーっ! ひーーーっ! この年でこの山はきついなあーー。敵五千より山の方がきつい」


 疲れた様子で歳久殿が陣にたどり着いたようだ。


「兄上、百メートルにも満たない山に、情けない事を言われますな」


 家久殿が歳久殿に近より声をかける。


「おっおおおーーっ! 腹を空かせた我らに豚の丸焼きか? 鹿児島名物黒豚じゃないか!」


 なにーー!! 黒豚の丸焼きだと、俺も食いてーー。


「なんじゃ!! 不細工な人間ではないか! 紛らわしい! 何者じゃ?」


 俺の事かよーー!!

 ちっきしょーー!!

 俺はヘルメットを外され、豚の丸焼きのようにぶら下げられている。

 黒いジャージまで着ている。でもふつう間違えんだろーー!!

 って、不細工でわるかったなあ!! はぁ傷つくぜ!


「兄上も、ご存じありませんか?」


「ふむ、俺の家中の者ではないなあ!」


「敵の間者か?」


「いいえ!! 私の旦那様です」


 二人の後ろのギリギリ松明の明かりが届かないところから声がした。

 数歩歩くと、その足下だけが松明の明かりに照らされた。

 どうやら女性のようだが、誰だ?


「何ものだ!!」


 家久殿と歳久殿の声がそろった。


「あら、娘の声もお忘れですか?」


「な、久美子!?」

「鬼姫殿か!?」


「はい」


 松明に照らされて、島津の鬼姫が可愛い笑顔を見せた。


「どうやってここへ? いや、それよりも旦那様?」


 俺は久美子さんの顔を驚いた表情で見つめた。


「はわわ、間違えました。私の使用人です」


 どんな間違いだよ!

 俺は皆に分るように大きくうなずいた。


「使用人?」


「これ、何をしているのです。この者を降ろしてあげなさい!」


 久美子さんが、近くの兵士に声をかけた。

 やっと豚の丸焼きから解放された。


「はぁ、やれやれだぜ」


 俺は久しぶりに大地に降り立つと、ヘルメットを拾いかぶった。


「うふふ、この者は私が加賀で、新たに配下にした十田一族の使用人です。こちらが十田一族の精鋭です」


 そう言うと後ろを振り向いた。

 そこには、いつの間にか謙之信とミサ、スケさん、カクさん、響子さんとカノンちゃんが立っていた。


「で、八兵衛さんは何をしていたのですか。まさか黒豚の真似をしていたわけでは無いですよねえ」


 久美子さんが俺を冷たい目で見てきた。


「俺は名案があったから、献策をしようとしたんだ。そしたら、こいつらひでえんだ。ポカポカ殴りゃあがってよ」


 十田一族の面々がそりゃああんたが悪いという表情になった。

 はぁーー、さいですか。

 ですよね。知り合いもいないのに突然出てくればこうなりますよね。

 考え無しで済みません。


「なるほど、では、その名案を聞かせていただきましょう」


 家久殿が俺に深く頭を下げてきた。

 おいおい、使用人と言っているのに、この人は……。


「だが、今となっては、使えません。歳久様が先にやってしまいましたからね……。まてよ、もしかすると……」


 俺はもう一度やっても、成功するかもしれないと思えてきた。


「……」


 全員が固唾を飲んで、俺の次の言葉を待った。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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