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第二百四十話 痛みよりパンチラ

「あずさ」


「はい、わかりました。ヒマリちゃん準備しましょう」


「えっ!?」


 振られたヒマリが驚いている。

 おーーい。まだ俺は何も言っていないよー。

 本当にわかっているのか?


「おい、あずさ! 大丈夫なのか?」


「ええ! 和歌山へ連れて行ってくれるのでしょ? 学校には今日から行くと言ってあったので、延期の連絡をしないといけません。ちがいますか?」


 さすがは俺の娘だ。頭が良い。あっている。

 だが、悔しいので否定してやろう。


「うん、間違っているな」


「えっ??」


 さて否定してみたものの、どうしたものか。

 ここは、ひとつ思い切ってみるかな。

 かわいい子には千尋の谷に落とすって言うしな。……ちょっと違うか。

 まあ、あずさがずいぶん大人になっている。手腕を見てみたいし丁度良いだろう。


「お前をただ連れて行くわけでは無い、和歌山の事を任せてしまおうと思っている」


「えーーっ!!」


「どうだ、とうさんの名代をやってくれないか?」


「は、はい」


「とは言っても、カンリという一族は実力がわからない。こっちは俺が担当する。あずさには籠城している熊野衆の方を任せたい」


「全力でやります」


「うん、いい返事だね。信頼しているよ」


「はい」


 この後、ゆっくりお茶をしながら打ち合わせを済まし、俺は席を立った。


「古賀さん、二人のサポートをお願いします。俺は上杉一行として、先に現地に入ります」


「行ってらっしゃーい!!」


 自分たちも行けるとわかっているので、ヒマリとあずさがご機嫌で手を振っている。




 大阪南部は、まだ状況が良くわからないので、大和を経由して和歌山に入ることにした。

 どこに斥候がいるのかわからないので夕闇に紛れたい。

 大和の平城宮跡の大和解放軍本部にのんびりあいさつをしてから向うことにした。

 平城宮跡には、エマもライもノブもいて全員元気そうにしていた。

 束の間の再会を楽しみ和歌山を目指す。

 和歌山へは国道24号線を使って和歌山城を東から目指す形になる。


「おい、止まれ!!」


 さすがに山が両側から迫る場所は、関所にむいている。

 抜かりなく関所が出来ていた。

 関所を守るのは、こわーい顔の髭面達だ。

 まるで山賊だ。いや、山賊なのか。


 俺達は、上杉が黄土色のスーツを着て帽子をかぶっている。

 スケさんとカクさんは紺のスーツ。

 響子さんとカノンちゃんは紺のフォーマルスーツを着ている。何故か短めのスカートだ。

 俺だけボロボロのジャンバーとズボン、大きなカバンを両手と背中に持っている。


「あやしい奴め、何の用で何処へ行く」


 班長だろうか、偉そうな奴が後ろから現れた。

 だが、顔はどいつもこいつも同じに見える。


「私達は、あやしい者ではありません。越後の上杉家の家中の者です」


「ふふふ、あやしくねえ奴は、俺達の顔を見ておびえるもんなんだよ」


「ひゃあああーーー、恐い、恐い」


 俺はおびえて見せた。


「てめー、豚ーー!!! なめてんのかー!!」


「ええーっ!?」


 おびえて見せたのに、何故か怒ってらっしゃる。

 どうしろっちゅうねん。


「うふふ、最初から通して下さる気がなさそうですね」


「ふふふ」「へへへ」「ひひひ」


 上杉の言葉を聞くと笑い出した。

 人を小馬鹿にしたような、嫌な笑いだ。

 上杉がチラリと俺を見た。

 俺は小さくうなずいた。


「八兵衛!! こらしめてやりなさい」


「うっそおーー!!」


 俺は思わず声が出た。

 そう言う意味じゃ無いよね。

 ここは、スケさん、カクさん、こらしめてやりなさいだよね。

 俺はそう言う意味でうなずきました。

 俺がやるって言う意味ではありませんよ。

 上杉の奴、あんな男前で頭良さそうなのに、ちょっと残念な奴なのか?


「どうした。おデブちゃん、恐いのか?」


「そ、そりゃあ、もう」


 俺は首をすくめて震えて見せた。


「ひひひ」「へへへ」


「八兵衛、どいていなさい。私達がやります」


 響子さんが俺の前に出てかばってくれた。

 それを見て上杉が、驚いた顔をして震えている。

 なんで、俺みたいなチャーミングな子豚さんを見ておびえるんだよー。

 俺はカツを入れるため、上杉の尻を叩いた。


「ひゃう!!」


「……」


 な、何じゃそりゃ。

 真っ赤な顔をしてお尻を押さえている。

 だが、それで正気に戻ったのか。


「スケさん、カクさん! こらしめてやりなさい!!」


 今度は威厳を持って指示をした。

 グイッと太い眉毛をつり上げると、さすがに上杉謙信の威厳が出てくる。


「うおっ!!」


 上杉の威厳を感じてか、山賊達がたじろいだ。


「ふふふ」


 スケさんが、指をポキポキ鳴らし、余裕の笑いで山賊達に近づく。

 カクさんも続いた。


「お前らー、やっちまえーー!!」


 山賊達が襲いかかる。


「ぐはぁー」「ぐええっ」


 スケさんとカクさんが、素早くふところに入り込み、賊の腹に軽い一発を入れていく。


「くそーー!! であえーー! であえー! 関所破りだー! 全員で取り押さえろー」


 つぎつぎ、山賊が集ってくる。

 二十人ほどが走って来た。

 響子さんとカノンちゃんが参戦した。

 スカートだから中身が丸見えです。二人とも何故かすげーエッチな奴をはいています。

 でも、安心して下さい。あれは水着の上にはいているので、見ても大丈夫な奴です。


 さすがは上杉だ。まるで関心が無い様子で、見向きもしていない。

 俺は、横目でちょびっとだけ見た。

 ピンクのちびっちゃい下着なのに、その下の水着がはみ出ていない。

 まさか水着を着ていないのか、それとも水着もちびっちゃいのか。

 腹を押さえて動けなくなっている奴らまで、必死で見ている。まったく男ってやつは……。痛みよりパンチラかよ。情けねーぜ!


「くそーーっ、つえーー!!」


 次々山賊が倒れていく。


「しずまれーー、しずまれーー」


 山賊の班長が言った。

 って、お前が言うのかよーー。


「お、お見それしました。一体、あなたがたはどの様な方なのでしょうか」


「ですから、越後の上杉です。上杉謙信といいます」


「げえ、う、上杉謙信様!! でしたら最初から言ってくださいよー。俺達は新宮で清水様に拾われた新参者です。こちらからお通り下さい」


 これって、最初から上杉謙信と言っておけば良かったんじゃねえのか?

 次の関所からは上杉謙信と名乗るようにした。

 だが戦いは避けられなかった。

 こいつらは、一度負けないと納得しないようだ。やれやれだぜ!

最後までお読み頂きありがとうございます。


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