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第百八十二話 再会

 損害の確認が終ると、ただちに部隊の編成が行われた。

 この時爺さんは、奪った階級章を監察の隊員に渡したようだ。


 敵の体勢が整わないうちに戦いたいのだろう、このまま再度出陣が決まった。目標は瀬田川にかかる橋のようだ。

 敵の主力が京都にいるため、留守番の兵だけと考え、一気に奪うつもりのようだ。

 ここを奪われれば、物資の補給が出来なくなるので、羽柴軍は京都からの撤退を余儀なくされる。重要な任務だろう。


「また出陣かー」


 爺さんがぶつくさ言っている。

 俺達は、相変わらず集団の後ろの方でゆっくり進む。

 前方で少し喚声が上がったが、すぐに静かになり、京滋バイパスの橋はすぐに奪い終った様だ。

 俺達のようなやる気の無い奴らは留守番に選ばれ、京滋バイパスの守備を命じられた。


「金城ー! 金城ー!」


 十一番隊の副隊長が誰かを探している。


「おい、じじい!! お前が金城じゃねえのか!」


 副隊長が、爺さんを怒鳴りつけた。


「おお、そうじゃ。そうじゃった。わしが金城だった忘れておった」


 そ、そんな奴はいないだろう。

 自分の名前がわからないなんてよー。ありえねーー。


「頼りねーなー。まあいい! ここの守備は金城に任せる。ほれ階級章だ付けておけ」


「えっ!?」


「えっ、じゃねえ。あんたは手柄を上げた。軍曹に昇進だ。丁度ここを任せる奴もいねーしな。ここの守備を任せるということだ。失敗は十一番隊の全滅を意味する。重要な役目だ! 頼むぞ」


「はぁーーっ、無理じゃ、出来ん」


「無理じゃねえ、命令だ。わかったな。頼んだぞ」


「まっ、待ってくれ」


「ふふふ、心配なら、その新人を副官にすればいい」


 そう言うと行ってしまった。

 残ったのは、一番役に立たそうな、数十人だった。

 ブルとチンの姿もあった。


「アンちゃんどうする?」


 ど、どうすると言われてもなーー。

 だが、副隊長は何で俺に手伝えと言ったんだ。

 まさか、爺さんを助けるところを見られていたのか。

 たいしたことは、していないつもりだったけど、目立ってしまったのか。


「じゃあ、バリケードの修復でもしましょうか」


「そうじゃな! よーーい!! 全員立てーー!! 全員バリケードの補修をするんだー」


「なにーーっ、爺! なんでてめーが指図しているんだ」


「はっはっ、これを見よ。わしがここの指揮官じゃ。お前達の上官様だー!」


 すげー、この爺さんも、偉くなると手に負えなくなるタイプだ。

 さっきまでの羽柴軍の陣だった所を、手直しして新政府軍の陣として使用する。


「アンちゃん行くぞ」


 そう言うと、爺さんは足軽を働かせたまま宿舎に向った。

 足軽用の物より上等なテントが、一張りだけ有って目立っている。

 中には上等な机と椅子がある。

 爺さんはそこにふんぞりかえって座った。


「ひゃはは、一度やってみたかったんじゃ」


 爺さんは、上機嫌だ。

 机の引き出しを次々開けて中を見る。


「ちっ、しけとるのー。食い物が入っとらん」


 机の上に地図が開いて置いてあった。

 見たら、この橋の北にも橋が有り、そちらの方が重要性は高そうだ。

 恐らく、この橋は見捨てられて何事も起きないだろう。

 さっきのは副隊長の脅かしの様に思える。


 爺さんはと言うと、椅子にふんぞり返って座ってはいるが、手がアル中の様に震えている。

 まあ、面白いので教えてやらないでおこう。

 そんなに、最重要な所を俺達みたいなものに任せるはずもない。

 当たり前の、はなしだ。


 最前線では喚声が止まない。羽柴軍も必死なのだろう、犬飼隊長の苦労が伝わってくる。

 だが、我が金城隊は何事もなくのんびりしている。

 爺さんは、緊張が解け、震えも止まり、とうとう居眠りを始めた。




 日が傾きかけた時、若い隊員が飛び込んできた。


「た、大変です」


「うおっ、おはようございます」


 爺さんは、居眠りからさめて、とっさにあいさつをしている。


「ぷっ」


 入ってきた若い隊員が笑っている。


「どうしました?」


 仕方が無いので爺さんのかわりに俺が聞いてやった。


「はっ、兵士がやって来ました」


「なななっ……」


 爺さんに緊張が走り、どんぐり眼の目玉が、さらに見開かれ落ちそうだ。それに加え、両手が信じられないほど震えている。

 まるで、手を洗った後で水を吹き飛ばしているように見える。


「何人ぐらいですか?」


「はっ、千人は超えています」


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁーーー!!!! 死ぬーー! 死ぬのは嫌じゃーー!!!!!」


 おいおい、爺さん、あんたが一番長生きしたはずだろー。


「ぶっ」


 また、若い隊員が噴き出した。

 敵兵が来たにしては落着いている。


「おい! 出迎えが遅い!!!」


 怒りながら男が入ってきた。


「井上隊長!!」


 入ってきたのは十二番隊の井上隊長だった。


「シュ、シュウさん」


 遅れて入って来たのは、スケさんとカクさん、響子さんとカノンちゃんだった。


「ど、どうぞ」


 爺さんは席を立ち、井上隊長に席を譲った。


「何故ここへ」


「ははは、犬飼からの依頼だ。それに、街道の守備はもともと十二番隊の仕事だ。ご苦労、ここはまかせて前線に戻って良いぞ」


「へっ!?」


 爺さんの目玉が落ちそうなほど飛び出した。

 思わず若い隊員が、爺さんの目玉を受けとめようと手を差し出した。

 せっかく楽が出来ると思ったのに、半日で終ってしまったようだ。

 だが爺さん、あんたに班長は無理だ。

 あんなにいちいち、うろたえていたら、寿命が縮んじまうぜ。


「なるほど」


 井上隊長は、机の地図を見て何かを感じたようだ。


「ここはスケさんに任せる。足軽は百人でいいだろう」


「カクさんと響、カノンはこの爺さんと一緒に残りの足軽を連れて前線に入ってやってくれ。俺は木津川へ戻る」


「はっ!」


 カクさんが代表をして、返事をした。

 響子さんとカノンちゃんの目玉がぴょんぴょん弾んでいる。

 声を出していないのだが、目玉がうるさい。


 井上隊長は数人お供を連れて、すぐに宿舎を出た。

 さすがは隊長を任されることはある。状況判断が的確で速い。

 カクさんは、井上隊長がいなくなるのを確認して戻って来た。


「シュ、シュウ様!!」


 響子さんとカノンちゃんが抱きついて来た。


「ま、まだ、数日しかたっていませんよ」


「ふふふ、一日千秋と言う言葉もございます。あいとうございました」


 なーーっ、響子さんかわいいなー。

 って、おい。俺みたいなもんに、そんなことを言っちゃあ本気にしちまうぜ。

 大体免疫がねえからよー。


「あんちゃんとあんたらは知り合いなのか」


「そうです」


「よかったのう。再会出来て」


 爺さんは涙ぐんでいる。

 憎めない爺さんだぜ。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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