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第百六十六話 心中旅行

 国道を歩いていると、腰に剣を刺した男達が数名でお互いが見える範囲に配置されている。

 この人達の姿が消えると、やっと治安が回復したと言えるのだろう。

 俺は人畜無害のオタク姿で歩いているが、女性二人と一緒に歩いている為、余計に目を付けられることがなくなり、道草が楽になった。


 桑名では露店の焼きハマグリを食べて、昼には四日市に着いた。

 四日市の名物はトンテキだが、すでに豚がいないため食べることが出来ない。まあ、ここに一匹いるけど、きっと本物の豚よりうまくないだろう。

 そろそろ、本気でお伊勢さんへ行くのか、一号線こと東海道を通って大阪へ行くのかを決めなくてはいけない。


「ねえ、あなたは何故死のうと思っているのですか」


 アラサーの美女が、四日市の町の食堂で昼飯を食べていると、唐突に聞いて来た。


「えっ、何故それを」


 はっ、しまった。

 急な問いかけに、まともに答えてしまった。

 この返事じゃあ死のうと思っていると言っているようなもんだ。


「実を言うと、私達は心中旅行中なの」


「はっ!?」


「私には、なんだか死のうと思っている人が分かるみたい。あなたには死相が出ています」


「あなた達は、自殺するつもりなのですか?」


 俺は四人の顔を見た。

 言われて見れば、どこか影があるようにも見える。

 四人とも外見はとても整っている。

 特に女性二人は、美女だ。


「はい」


 何てことだ、自殺なんかしたらもったいない。

 それぞれの事情も知らずに、失礼なことを考えているのかもしれない。


「俺は、恐らく死ぬだろうと思っているだけで、自分で死ぬ気は無いし、むしろ生きたいと思っている。たぶん、死ぬ覚悟をしたせいで、そう見えたのかもしれない」


「そ、そうだったのですか。失礼しました」


 この人は、思い詰めた顔をした、見ず知らずの俺に声をかけてくれたようだ。

 きっと優しい、いい人なのだろう。

 このまま死なせたく無いと思った。


「いえ、構いません。でも、良かったら事情をお聞かせ願えませんか」


「そ、そうですねえ。こんなことでと思われるかもしれません。でも、死を覚悟されている方になら話しても良いのかもしれません……」


 それから、しばらく考え込んでいるように黙り込んだ。

 明るく振る舞っているが、なにか重い物を背負っているのかもしれない。


「私の名前は、佐藤響子です」


「さとうきょうこさんですね」


「はい、こちらは娘の、楓音です」


「カノンさん。分かりました」


「私には、三人の子がいます。この子は長女です。他に男の子と女の子が一人ずつです」


「はい」


 きっと、レノンとシオンって感じの名前だろう。


「私は、地元で有名なお金持ちの男に目を付けられ、その男の物になりました」


「それは、無理矢理ということですか」


「もちろんそうです。『言う事を聞かなければ、どうなるか分かっているな』と脅されました」


 うん、ここまで聞いただけで酷い話しだ。

 美人に生まれると、こういうことがある。

 きっと豚みたいな顔をしたデブだ。

 でも、金を持っていたのか。


「それで」


「はい、私は言われるままにしました。その方はすでに結婚していましたので、目立たないように生活することを強要されました。そのままなら愛人で終るはずだったのですが、世界が崩壊して、あの方は地元の名士となりました。私の立場は第三夫人となりました。ふふ、あの方は正妻の他に四人夫人がいました」


「すごいなー。五人の奥さんかー」


「はい。地元の名士は良いのですが、一番ではありません。夫は娘を、さらに上の有力者に、嫁がせました。娘を政略結婚の材料にしたのです」


「それが、このカノンちゃんと言う訳か。なるほど酷い話しだ」


「はい。でも、それだけではありません。末の娘まで政略結婚に出されました」


 響子さんは、目に涙をためている。


「なるほどなー」


 それで、死にたくなった訳か。

 美人はつらいことが多いなー。


「それだけではないのです。その後、夫は体の相性が悪いと言って私の所には一切来なくなったのです。体の相性ってなんですか!!」


「へっ!?」


「私は、それでも我慢して、静かに暮らしていましたが、先日泣きながら楓音が帰って来ました。旦那が行方不明になったというのです。無理矢理好きでも無い男に嫁にやられて、今度は行方不明です。傷物になった娘には、もう未来はありません。死にたいと言うのです」


「えっ!?」


 俺はカノンちゃんを見た。

 カノンちゃんも目に涙が溜まっている。

 とても美しい娘さんだ。

 傷物といったって、再婚相手はいくらでもいるのじゃないか。

 俺は、そう考えているのだが、どうやらそうでは無いようだ。


「このまま、娘を一人で死なせたく無いので、私もお供することにしたのです」


「理由は分かりました。でも二人だけ勝手に死んでしまったら、残された息子さんや娘さんが悲しむのではないですか」


「ふふっ、それは大丈夫です。手紙を置いてきました。それに、こんな崩壊した世界では、自殺者の遺体など地元ならいざ知らず、身元が分かるはずがありません。私達は行方不明になるので、二人はどこかで生きていると思うはずです」


「そうですか。手紙にはなんて書いたのですか」


「はい、夫と離婚する旨と、探さないで下さいと書きました」


「なるほど……」


 それなら、生きているかもしれないと思うかも……。

 いや、人間は自分勝手な生き物だ、きっと生きていると信じようとするだろう。


「ところで、そちらの二人は、どういった理由で?」


 俺は、二人の話を聞いて涙ぐんでいる、男二人に話しを振った。

 まあ、二人の話しを聞いて涙ぐんでいるので、俺には男達が良い奴にしか見えない、どんな悩みを抱えているのか。

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