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第百五十八話 勝負の行方

 声の主は二百人程の側近を引き連れて歩いて来る。

 その顔は、まるで幼い頃に見た絵本の赤鬼のようだ。ぎょろりと巨大な目をして、ひげもじゃで気の弱い子供なら泣き出すような顔だ。きっと胸毛もすごいのだろう。


「俺は、柴田軍総大将柴田権六である。あれを見ろーーー!!!!」


 その赤鬼柴田が斜め上の空を指さした。

 空は夏のような濃い青では無く、やや白っぽい青空だ。

 そこに一筋、青空に溶け込んだような雲が浮いている。

 もうじき秋から冬になる事を告げるような、弱々しい雲だ。

 戦場にいるすべての人が、手を止め、空を見上げている。


「きさまらーー!! どこを見ている!! こっちだーー!!!」


 柴田が、大声を出した。

 もう一度柴田を見ると、手が少し下がっている。

 おいおい、勝手に手の位置を修正しやあがったぜ。

 それで、どこを見ている!! もねえもんだぜ。

 俺なんか、弱々しい雲なんて、雲の感想まで思い浮かんじまったぜ! かっこわりー。


 柴田が指をさす方を見た。

 柴田の指は、柴の字が書いてある旗の場所、高い建物の上の本陣を指している。


「あ、あれは、でかい機関銃だ」


 双眼鏡をのぞきながら伊達があせっている。

 建物の上に重機関銃が四丁並べられ、銃口がまさにここを狙っているのだ。

 伊達はうろたえて、物見台から降りようと慌てている。


「動くなーー!!! 動けばうつぞーー!! わあーはっはっはっ!!」


 勝ち誇った様に笑っている。


「あんなもん、じゃあ、びくともしないのだがなあ」


 勝ち誇った柴田に気を悪くした俺は、つい小さくつぶやいてしまった。


「へっ!?」


 伊達が、俺を見て驚いている。

 これじゃあ、説明しない訳には行かない。


「下を見て見ろ」


 伊達は、物見台の上から下を見る。

 物見台の下には、テーブルが一つ置かれ、そこに三人が座っている。

 ミサとあづち、シュラである。

 ミサにいたっては、涼しそうな顔をして小指を立てて、白いカップの紅茶を飲んでいる。


「見ましたが、それがなにか?」


「ふふふ、ミサはあれで、世界の最強31ヒーローズの一人なのさ。超能力の一つにバリアがある。それにミサの専用陸鎧は紫色だ。この陸鎧もバリアを張ることが出来る。重機関銃の攻撃など全く効かんのさ」


「な、何と!」


「ぐわあはっはっはっーーー!! だが、俺は鬼じゃねえ。てめえらにチャンスをやろう。一騎打ちをしようじゃねえか。勝負の方法は、素手で戦い、相手が動けなくなるか、降参するまでだ。お前らが勝てば、兵を引き上げ、富山の半分を返してやる。俺が勝ったら、前田を返し、兵を引き上げ、六ヶ月間攻めるのは禁止だ。どうだ悪い条件じゃねえだろう」


「お、大殿、あんなことを言っています」


 伊達の目が輝いた。

 だが、自信満々の柴田を見ると、相当やりそうな気がする。

 まてよ、かえってそのほうが、指標にしやすいな。


「いくか?」


「はっ、仰せとあらば」


「わかったーー!! 一騎打ち引き受けたー、相手は俺がするーー!!!」


 少し遅かったようだ。

 ゲンが返事をして、天夕改に乗ったまま、前に進み出た。

 伊達は、涙目で俺を見てくる。


「くくくっ、おそかったみてーだな」


「そ、そんなー」




「て、てめーー! そんなロボットに乗ったまま戦う気じゃねえだろうなー」


 柴田が少し焦っている。

 確かに、乗ったままでも素手は素手だよな。


「馬鹿が、てめーらじゃあ、あるめーし、そんな汚ねー真似をするかよう」


 ゲンは、天夕改から飛び降りると、柴田の前に進み出た。


「馬鹿はてめーだ。そんなちびで、俺に勝てると思うのか! うおおおおおおおおーーーーー!!!!」


 柴田はいきなり襲いかかった。

 ゲンは、ひるむこと無く、それを避けると、殴りかかった。


 ブオン!!


 驚いた事に、柴田はゲンの攻撃を避けた。


「!?」


 二人が驚いている。

 お互い、攻撃を避けられたのが初めてのようだ。


「すげー、なかなかやるなー」


 思わず俺は声が出た。

 戦いは数十分に及んだ。

 俺の判定では、ゲンの方が優勢だ。

 お互いの顔が血だらけになっている。

 ゲンのパンチを耐えるとは、柴田は口だけでは無い相当の強さがある。


 だが、超能力などがあるようには見えない。

 これなら、織田家はハルラほどの恐ろしさは無いと感じていた。


「まてーーい!! ぜえぜえ。戦いが長引いている。第一ラウンドは終わりだ。ゆっくり休んでから、第二ラウンドにする」


 柴田は、ゲンに言った。


「まあ、良いだろう」


 二人は、ゆっくり離れると、座り込んだ。

 そして、柴田は横になると、グーグー眠り始めた。

 一時間以上眠ると、目を覚まし、近くの兵士に食い物を要求した。


「さて、第二ラウンドと行こうじゃねえか」


 柴田が悪い笑顔をした。

 ゲンは、何の疑いも無く立ち上がり、柴田に近づいた。


「うおおおおおおおーーーーーー!!!!!」


 柴田が不意をつきゲンに襲いかかった。

 だが、ゲンはそれを紙一重で避ける。


「……」


 ゲンの様子がおかしい。

 その場に座り込んだ。

 柴田の手に短刀が握られている。

 ゲンは、素手と信じ込み目測を誤ったようだ。


「死ねーーー!!!!」


 柴田が座り込んでいるゲンの胸にとどめを刺そうと襲いかかった。


「ぐはっ!」


 ゲンは口から大量に吐血した。

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