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百三十七話 ロボット三原則

 ドン!!!


 口径の大きな銃の引き金が引かれた。

 構えてから発砲までが速い。

 熊田がボスを恐れているようだったが、こういうところだろう。

 この男には恐らく、かわいそうとか、痛そうとかそういうものが、欠落しているのだろう。

 ちゅうちょ無く銃を発砲した。


 パンとか生やさしい音では無い、腹にズシンとくる音だった。

 シュラの体は吹飛び、五人の黒服が開けた壁の穴に飛び込んで行った。

 だが、ボスの様子がおかしい。

 見ると顔中が真っ赤だ。

 最初、鼻血が出ているだけなのか? そう思ったが違っていた。


 どういう角度で弾が飛ぶとそうなるのか分からないが、シュラの胸を押さえている腕にあたり、最高の胸の曲線にあたりそうなったのか。

 弾丸が砕け、散弾のようになりボスに命中していた。

 そのうちの二つが、ボスの目玉を貫き頭蓋骨をも貫いたのだろう。

 両目から血が出ている。


 まるでこれまでの悪事を、反省して泣いているようだ。

 床にゆっくり崩れ落ちるように倒れる様は、スローモーションのようだった。

 倒れたボスの顔のまわりに血の水たまりが広がっていく。


「キャーーーッ!!!」


 シュラが起き上がって来て、この光景を見て悲鳴を上げた。

 シュラが無事で俺はホッとしている。

 シュラの全身は、オリハルコン製で、この世界のどの金属より固い。

 異世界でも、加工が出来ない金属なんだそうだ。

 ドワーフのみがその技術を持っているとか。


「無事なのか? よかった!」


「マスター、ロボット三原則がー!!」


「はぁーーっ」


 誰だよ。シュラにそんな、くだらないことを教えた奴わ。


「ウッ、ウッ」


 シュラは泣いているのか、肩をふるわせている。


「シュラ、よく聞いてくれ。俺はシュラを、ロボットなんて思ったことは無い。今日だって、ミサと二人で行動していると思っていた。ちゃんといつも、シュラは一人と数えているぞ。あずさ、ヒマリと同じ俺の大事な娘だと思っている。いまだってどれだけ心配したか」


 そもそも、シュラはゴーレムでロボットじゃねえ。


「マ、マスター! ……オトウサン!」


 シュラは駆け寄って抱きついて来た。

 考えてみれば、この世に生を与えたという点では、シュラは本当の娘なのかもしれない。


「体は大丈夫か? 痛いところは無いか?」


「ハイ! オトウサン」


「うん、それは良かった」


 ゲンは、いつもの様にこの光景を黙って見つめている。


「悪党共、この建物は伊達家治安隊が完全に包囲した。降参して出てこい!!!」


 外から声が聞こえた。

 窓から見ると、二十人くらいで取り囲んでいる。

 後方に三十人ほど整列し、その後ろに隊長が立っているようだ。

 隊長の横に恐い顔をした男が四人、ニヤニヤしている。


 おいおい、そいつらの方がどう見ても悪党だろうがよう。


「やれやれだぜ! ゲン行ってくる。二人を頼む」


「ああ。兄弟! ほどほどにな」


「ちゃんと手加減はしてやるさ」


「あ、あ、あんた達は馬鹿なのか。五十人以上はいるぞ」


 まさかの熊田が、俺達を心配している。

 ゲンの視線が熊田に向いている。


「ははは、兄弟を取り押さえるのに、五十人では無理だ。銃を持っていても五十人程度では歯が立たない」


「な、なんだって。このデブが、いや、この方がそんなに強いのか?」


「ふふふ、こっちは正義のヒーローアンナメーダーマンだからな。悪党の肩を持つ子達に、少しお仕置きだ」


 俺はそう言うと、一人で階段を降りて外に出た。

 外に出ると、さっき倒した悪党達が、どこかに武器を隠して、まだ倒れている。まるで僕達は何もしていないのに、こいつらが勝手に暴力を振りましたと、言っているようだ。

 とっくに気が付いているはずなのに。名演技だ。

 俺が整列している治安隊の前に進み出ると、治安隊が棒を構えた。


 治安隊の武器は棒だった。

 良く見ると元は掃除道具だった物まである。

 まあ、人数で取り押さえるには丁度良さそうだ。


「ふん、悪党が、両手を挙げて、そこに座れ」


 俺は治安隊の隊長の言うまま、両手を挙げて座った。


「なあ、聞いてくれ」


 俺は言う通りにして、事情を説明しようとした。


「たわけーー!! 問答無用だー。ひっとらえろーー」


「おうっ!!!」


 棒を持った隊員達が走り出した。

 おいおい、事情ぐらい説明させろよなーー。

 大人は、人の話を聞きゃあしない。

 俺は、こういう場合に必ず事情を聞こうと心に誓った。


 隊員達は、頭の上から棒で俺を押さえ込むと、隙間から押さえていない隊員が突いてきた。

 情け容赦ない突きは俺じゃ無ければ、重傷だろう。

 いや、死んでしまうかもしれない。


「やれやれだぜ!! もう少し加減ってものを考えやあがれ!!」


 俺は頭を押さえつけている棒に手を当て、ゆっくり押し上げた。


「うお、こ、こいつ、反抗する気だ! 駄目だもっと力を入れろ、はねかえされるぞーー!!」


「ふんっ!!」


 俺は、少し力を入れて棒を押し上げた。


「わああああーー!!」


 押さえつけていた隊員が、棒が上に押し上げられ、万歳をして後ろによろけた。

 それに巻き込まれ、突いていた隊員も後ろによろける。


 近くにいる隊員の胸から、いつもの掌底で張り手だ。

 棒を持ったまま万歳をしているので、押しつけていた方の隊員は掌底が当てやすい。やってくれと言わんばかりだ。


「げふっ!!」


 次々、数メートルずつ吹飛んでいく。

 肋骨に大ダメージだろう。


「きゃーーーっ!!!」


 調子よく吹飛ばしていると、二階の社長室から悲鳴が聞こえた。

 俺は、聴力を限界まで引き上げ社長室に集中した。

 アンナメーダー、イヤーだ。

 体が勝手に反射で隊員の胸を張り飛ばしている。だから、意識はすでに社長室に集中している。集中しているが、他事もしているので、全集中ではない。


 ――いったい何があったのだろうか?

最後までお読み頂きありがとうございます。


「面白かった!」

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