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第百七話 使者来訪

「とのーー!! うおっ!」


 くそーーっ! 何てタイミングだーー!!


 俺は今、名古屋城天守閣最上階を自分のプライベートルームにしている。

 窓にコインを入れると、遠くが見える双眼鏡が設置されている。

 中央に土産物屋の残骸があったので、蜂蜜さんに吸収してもらった。後に残ったのはガランとした空間だ。

 部屋は、下から見るより広く感じない。その中央で俺は、俺史上最高傑作のフィギュア、シュラに新しい白い下着をはかせてじっと見つめていたのだ。

 シュラとはオリハルコンで作った八頭身スレンダーで、美しい理想の女性型実物大フィギュアで、ゴーレム化して命を吹き込んだメイドだ。


 シュラはメイド服のロングのスカートを胸まで上げて、パンツを丸出しにしていた。

 シュラは加藤の視線を感じて、恥ずかしそうにスカートを下ろした。


「ば、ばか、おめー! ノックをしねーか!!」


「ノ、ノックと言われましても、ドアがありません」


 そうだった。ここは展望室だから、階段を上がるとそのまま部屋の中だ。ドアなどない。


「こんな所で、シュラちゃんのパンツを見つめている人が悪いです」


 後ろから、あずさの声がした。


「うわあ!! あずき、いつからいたんだー?」


「そうですねー。やっぱり、パンツは白が美しいの所からです」


「最初からじゃねえかー」


「うふふ」


 あずさが悪戯っぽく、とても嬉しそうに笑った。

 滅茶苦茶可愛いはずなのだが、今は髪で顔を半分隠しているので、その可愛い顔は見ることが出来なかった。


「で、加藤何の用だ」


「はっ、関東木田家の使者を名乗る者が訪問してきました」


「ふむ、どんな奴だ」


「はっ、鋭い吊り上がった目にメガネをかけて、インテリ風を装っていますが、あれはやばいです。何人も残忍に人殺しをした、殺人鬼のような男です。何人もワルを見てきましたが、ありゃあ格が違います」


 柳川だ。

 柳川しかいねえ。


「使者ならば、殺人鬼だろうと丁重にお迎えしろ!! 丁重とはそういう意味じゃねえからな」


「分かっていますとも」


 殺人鬼がつぼだったのか、あずさが声を出さないように我慢して笑っている。あずさも柳川と気が付いているようだ。

 肩がガタガタ震えている。




 やはり柳川だった。

 榎本、加藤、東、そして胴丸具足にアダマンタイトの剣を装備した護衛が四人で、柳川を囲み天守へ入ってきた。


「ほう、良い眺めですな。あっ、失礼しました。私は関東木田家の柳川と申します」


 柳川は、すました表情で名乗ると深々と頭を下げた。

 しばらく頭をさげたまま止まると、ゆっくり頭を上げ、もう一度景色を楽しんでいる。


「俺が、尾張大田家の大田だ! なんの御用でしょうか」


 俺は話しを合せるようにと、柳川に目配せをした。

 柳川は分かっていますよと、誰にも分からない程度に頭を少しだけ動かした。


「まあ、単刀直入に申し上げます。木田家の傘下にお入り下さい」


「な、なにーーーっ!!!」


 加藤達の顔色が変わった。

 後ろの護衛の男達が、剣に手をかけた。

 部屋が一瞬で緊迫感に包まれた。


「控えろ!! 護衛はもういい階下へ下がれ!!!」


 俺は素早く強く言った。

 具足を装備した護衛が、加藤の顔を見た。

 加藤はゆっくりと、うなずいた。

 それを見て、護衛は階段を降りていく。


「柳川殿、少し木田家について教えてもらえませんか」


「分かりました……」


 柳川は、しばらく木田家について語った。

 驚いたのは、加藤達でさえゲン一家の事を知っていたことだ。

 そして、柳川がゲン一家の柳川と分かると、加藤達の態度が急変した。

 俺の方が柳川の事を知っているつもりだったのに、こいつらの方が柳川の事をよく知っているようだった。


「あのゲン一家を配下にしておられるのか。木田の大殿とは恐ろしいお方のようですなあ」


 加藤達が、木田家の事を認めたようだ。


「誠に、すごいお方でございます。まあ、至高の殿様とはあの方を置いて他にはございません」


「や、柳川殿がその様に言われるなら、素晴らしいお方なのでしょう。ですが、我らが殿も、至高のお方です。我らが命をかけるに値するお方です。たとえ木田家と言えども、殿なら戦えば勝ちを収めることでしょう」


「ふふふ、大田様は良い家臣を持たれているようだ。羨ましい」


「加藤、榎本、東。俺は木田家の傘下に入ることに疑問を持たねえ。もともと俺は駿河の商人だ。駿河はすでに木田家の傘下に入っている。皆よろしくやっている。むしろ暮らしやすくなっているくらいだ。おめえ達は反対なのか」


「はい、俺達は、殿こそ天下を取るにふさわしいお方と思っています。木田家こそ殿の傘下に入るべきだと思います」


「ははは、買いかぶりすぎだ。加藤、さっき見ただろう。俺はオタクで変態の豚野郎だ。小心者で底辺根性の抜けない男だぜ」


「……」


 加藤達は、熱のこもった視線を俺に向けて、無言で首を振った。

 俺は頭を掻いた。


「柳川殿、俺は木田家の傘下に入ることを拒まねえ。それが尾張の為ならな、だが、尾張に住む人が少しでも悲しむようなことがあるのなら、木田家といえども断固戦う、それでも良いのだろうか」


 俺は、柳川の顔では無く、加藤達の顔を見て答えた。


「……」


 加藤達は無言で俺の顔を見つめる。


「ふふふ、決りですね」


 柳川が、笑いながら……。顔は少しも笑顔を作らず、加藤達に視線を向けた。

 これ以上、お前達程度がガタガタ言ううんじゃねえ。

 そんな迫力があった。

 加藤達はその迫力に気圧された。

 俺はそれを見てすかさず言った。


「柳川殿、よろしくお願いします」


「よかった。これで使者の役目を無事、はたすことが出来ました。それでは太田殿、木田家が持つ極秘の情報をお話しします。情報の共有ということです……」


 柳川が今度は本当の敵意の無い笑顔を俺に向けた。


「うむ、皆、少し席を外してくれ、柳川殿が何やら二人で話したいことがあるらしい」


 俺は、加藤達に階下に行くように視線を送った。

 三人は心配そうにしていたが、俺が心配はいらないと表情を作ると、ゆっくり階段を降りていった。

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