禁書庫司書隊長の受難は続く
半年ぶりの投稿、失踪中も実は延々と脳内で話が繰り広げられて気持ちが悪かったです。
3話ほど纏めて予定通り今回で最終話となります。
5年後、ヘルエスはベスティア帝国の荒野にいた。
姿は晒さずに影の中から標的を掴んで離さない。
「なんだ!動けない!何が起こってやがる!」
困惑するベスティア帝国の商人は近年帝国内で話題になってる影から現れる魔女の仕業だと結論付いた。
だがどうだろう。例え正体が噂通りだとしても襲われてる現状、ましてや影に掴まれるなんてあまり体験しない出来事、冷静になれる要素足りえなかった。
困惑する男性の目の前に突如として若い女性が現れた。
これが噂に聞く魔女、だが想像していたよりずっと若く美しさすら感じてしまっていた。
そして魔女は噂通りの要求をしてくる。
「貴方、人工生命体、改造生物に関する記載のある写本、購入しましたよね?すみませんがそれ回収させていただきます。」
男は噂通りの現状、そして圧倒的実力差と美貌に恐怖を抱いていた。
「し、知らねぇ!何も知らねぇよ!お前、訴えるぞ!」
恐怖による半狂乱な叫びは女性にとっては何の意味も持たない。
影は更に伸びて商人の全身を拘束させた。
そして女性はその影から手を伸ばし積荷に隠されていた一冊の本を取り出した。
「知らない?持ってるではありませんか。
貴方がこの本にいくら突っ込んだのかは興味ないですけどね。国家の危機に関わるので情報を提供してくだされば相応の金額、お支払い致します。
交渉です。」
女性は満面の笑みを浮かべて影による拘束を解く。
これも噂通り、男は逃げる気力を完全に失っていた。
「何故その本を狙う!」
発狂気味に問いただす男、女性は笑みを崩さずに剣先を男の首へと差し向けた。
「貴方たちの国家の機関が犯した罪の清算を行なっているだけです。
別に私はこのまま貴方を国へ連行しスパイ容疑者に仕立て挙げてもいいのですよ?
ただこの本の原本、その所有者にまつわる情報を教えて下さるだけでいいのです。」
女性は脅しに使った剣を納刀し影から椅子を2つと机を取り出し男を座らせた。
恐怖心が最高潮を迎え、股間から液体が溢れ出した。
「俺は帝国の商人だ!帝国の繁栄を願う!この本にはそれだけの価値がある!分かるだろ!この本を元に軍隊が自由に作れるんだぞ!」
男はまだ興奮が冷めておらず女性が求めていることを話さない。
「えぇその本による軍隊が他国に向かないなら別に私がこうして来ることも無かったでしょうね。」
興奮冷めやらぬ男性の発言に同意を示す女性、男性は助かりたい一心で脳をフル回転させた結果、商人達の間でのみ流れている1つの不確かな噂へとたどり着いた。
「……か、関係あるかは知らねえけどここから北西、帝都の北北西に谷があるのは知ってるか?カディア峡谷!あそこら辺で人を襲う分類不明の謎の魔物が近年増えてるって話だ!俺ら商人はここ3年ほどあの峡谷に近づいた者は居ねえ!」
「まぁ良いでしょう。これ今回の情報料です。私はいつでも貴方の元へ伺うことができます。情報がもしガセならその時は覚悟して下さいね。」
女性は金貨を1枚親指で弾き飛ばして男へ投げ渡した直後魔法を発動させた。
中級魔法・電撃銃
「……おい!本の代金払うんじゃ……。」
勘違いを起こした男の意識はここで途絶えた。
彼が目を覚ますと彼は自身の布団の上だった。
「……夢……だよな?」
起きて一言、言葉を漏らす。
「あら貴方目を覚まされたのですね。
外で倒れてたのよ。旅の者が貴方を見つけて下さらなければどうなっていたことしら。」
外、彼は商談の一件を思い出した。
「そうだ!魔石!人工魔石のサンプルはどうなった!」
「疲労困憊で倒れておいてそれですか?今日一杯は寝ておいて下さいね。」
男は消化不良のような気持ちに陥っていた。
その気持ちごと水を飲み込もうと机の上のコップへと手を伸ばす。
するとカランっと音を立てて金貨が1枚滑り落ちた。
男に再び恐怖が襲う。
「……本……写本!写本はどこだ!!」
大声に反応して慌てて女が戻ってきた。
「もぉなんなんですか貴方。どの本を取りにいけば?」
「人工生命体に関する写本だ!俺の積荷にあるはずのそれ!どこだ!」
彼の妻は荷物を預かった後旦那への報告のため既に一度積荷を確認済みである。
「本なんて積荷にはなかったですよ?」
男の顔から血の気が引いてみるみる青くなっていった。
「夢じゃ……ない……夢であって欲しかった。」
ボソボソと譫言を溢す男を心配する女、微妙な空気感がそこには漂っていた。
ヘルエスは空を飛び情報にあった峡谷へと向かっていた。
人を襲う謎の魔物、その正体は上空からでも見てとれた。
そして瞬間に把握する。
これは野生の魔物ではなく作られた存在であると。
何故か、野生の生物の大きさには重力の都合上ある程度限度というものがある。
それだけの身体を支える餌、そしてそれらにかかる重力に打ち勝つ必要があるためだ。
海ならまだしも陸では中々考え難い10メートル前後のでかい奴らが眼前にいたのだ。
上空からでも一眼で分かるデカさである。
1匹残さず処分することに決め峡谷の端へと降り立った。
峡谷が洞窟へと姿を隠すまで約50キロ、戦いの時間が訪れた。
最初に出迎えたのは5メートルほどの巨体なゴリラのようなライオンのような顔つきのやつである。
噛みつこうとしてきたので裏に控える化け物共々、そのまま焼き殺すことにした。
最上級魔法・イグニッションタイダルウェーブ・三重発動
ヘルエスの杖先から放たれた炎の津波は3つへと分裂しその後合わさり1つの巨大な津波と変貌し眼前に広がる無数の化け物たちをまるまる飲み込んだ。
2つとして同じ種類などおらずまともな統率も取れていない異質な軍勢、それらに無慈悲な死が訪れた。
上級魔法・エアムーブ
焼き焦げた匂いが残る峡谷をヘルエスは飛行魔法で駆け抜ける。
死肉に守られ息の根があるやつには最上級魔法・インフェルノで包み焼き殺しながら飛び炎の津波の終着点へと降り立った。
焼け焦げた境目が目に見えて分かるところへ降り立つと空から見えていた10メートル越えの魔物達が出迎えてくれた。
総数15体、ヘルエスは剣を抜いた。
胴体下部ですら4メートル上空にある中、ヘルエスは飛行魔法で宙を飛び抜け肉薄すると魔法を発動させながら剣を突き刺した。
中級魔法・纏雷
上級魔法・召雷・五重発動
最上級魔法・ボルテックリリース
剣に電気を纏い、そこを目掛けて5本の雷が落ちそれら全ての溜まった電気が一斉に全身へと走り抜け広がった。
巨体の外と中、両方からの雷撃を受けた肉体が限界を迎えボロボロと崩れ落ちていく。
残りの14体はその光景を目の当たりにして本能的な危機感を覚えたのか一斉に様々な属性のブレスを放った。
魔法なら本来、それらに籠った魔力同士が反発し打ち消し合い最後には魔法の形態を保てず相殺されるはずである。
だがそれらブレスは打ち消し合わず反発だけしあって最後に大爆発を引き起こしたのだ。
爆発で発生した砂煙が辺を包み込んだ。
煙に人影は映らない。
周囲を見回す怪物どもの影を利用して肉薄していたヘルエスは一体目を屠ったのと同じ手で二体目も屠る。
あとはこれの繰り返しであった。
知能指数が低いこともあり対策という対策を取られることがなかったからだ。
ヘルエスが姿を見せればブレスを吐きその余波で視界が悪くなったのを逆手に取られ接近を許し屠られる。
これの繰り返しでしかなかった。
15体もの巨体がものの20分足らずで鏖殺された頃ヘルエスは事前に用意していた魔力が切れたことを知覚していた。
「この巨体ともなると魔力の消費量バカにならないわね。」
文句言いたげな独り言を吐き捨てながらヘルエスは黄色の魔石のネックレスを取り出した。
魔の魔女の心臓部にあった人工魔石である。
自身の魔力を魔石に通して魔力を自身へと循環させる。
これによりヘルエスは普段扱えない雷系統の魔法も扱えるようになっていた。
火ならそれは詠唱せずとも以前の詠唱後よりも強力な魔法も放てるようになっていた。
魔力の変質を完了させたあと再び歩を進めることにした。
道中には至る所に魔法陣やその際に使われた物資と思われるものが散見している。
15キロも進むとやがて峡谷は洞窟へと変わっていった。
初級魔法・狐火
淡く赤い光を放つ火を携えてヘルエスは更に奥地へと進む。
5、6メートルもの高さの天井、広い横幅の洞窟はどこか人為的なものさえ感じさせる空洞でありその直感は次第に確信へと変わった。
進むにつれて車輪痕、崩れぬように補強整備された洞窟、所々散らばっている古い血痕が現れたからだ。
だが黒確定的と思われた血痕はすぐに途絶えた。
恐らく締めてから荷車に積んで運んだのであろう。そう結論付けたヘルエスは構わず先へ進んだ。
そこで疑念が生まれる。洞窟、延いては補強されたあたりからまるで人工キメラが見当たらないのだ。
だが群れていた以上はこの周辺に施設なるものがある。それだけを頼りに先に進む。
10キロにも及ぶ長い洞窟は1つの鉄製扉を持って終わりを迎えた。
大当たりである。
扉は鍵がかかっており開かない、戦争時に施設巡りをしていた時と違ってダクトらしきところも見当たらない。
そんなことは今のヘルエスにとってはあまり関係がなかった。
初級魔法・狐火・3重発動
ヘルエスの背後に灯された火はヘルエスの影を引き延ばす。
設計上どうしても生まれるほんの隙間、その隙間にヘルエスの影が伸びるだけでヘルエスはありとあらゆる建物への侵入が可能となる。
かつて同族の遺体が盗まれたように……。
難なく侵入したヘルエスを迎えたのは人気のない空間だった。
通路は奥まで続きかなり広いようである。
だが本当に人がいるのか疑いたくなるほど物静かな空間はヘルエスを不安にさせる。
片っ端の部屋から必要そうな資料を回収しながら施設を回るがついぞ人と出会うことのないまま最後の部屋に辿り着いてしまった。
もう他に部屋はない、覚悟を決め部屋に入ると高貴な衣装に身を包んだ狼頭のキメラが剣片手にこれまた高そうな椅子に座っていた。
隣には目的の魔導書があった。
どうやら研究員、延いては自分自身まで創り変えたようである。
そしてこの高貴な衣装に身を包んだ人だったモノにヘルエスは心辺りがあった。
「ヘレンヴォート・ベスティア先帝子息とお見受けする。貴方のお隣にある本についてお話を伺ってもよろしいですか?」
そう彼は戦争の責任として処刑された先帝の長男である。
戦勝国であるパーナルト王国が政治的干渉を行い末弟の三男が次期皇帝へ就任、長男次男は監視付きの僻地飛ばしとなっていた。
そんな彼らは何者かの襲撃と共に3年前から行方不明である。
これらは今も尚政治的干渉を行っているノアからの情報であった。
恐らくこの施設は6年ほど前から稼働していたところに先帝子息として顔立てされたのだろう。
復讐心に取り憑かれた者の末路としてはかなり醜い姿であった。
狼の頭、猿の尾、蟹のような左腕、足は膝下から鹿のような蹄付きの足になっており背中からは猛禽類を思わせる翼が生えていた。
「……憎い……。」
ずっと黙り込んでいたキメラが口を開いた。
どうやらまだ生きており思考も出来るようである。
「憎いって……そっちが始めた戦争でしょうに……。」
ヘルエスは言葉を詰まらせた。
王帝共にかなりの死者数を出している。
その大半はヘルエスら魔の魔女の仕業ではあるがそもそも戦争が起こらなければこんなことにはなってないのだ。
宣戦布告国が何を今更、ヘルエスはそう考えていたがキメラの口から語られたのはヘルエスとは違っていた。
「……ケットラーズ、ガンディス……何故あのような戦を始めたのだ。」
ガンディス、彼は先の戦争にて軍の最高責任者であり帝国軍の最高指揮官であった。
A級戦犯としてもう既に処刑されている。
「……帝はあの戦争を望んでいなかったとでも?」
淡々と聞き返す。
「……浮ついていた。皆が、我らも浮ついていたのだ。2名の魔の魔女の存在、兵器・兵力的優位、誰に聞いても上がってくる話はこれで隣国の大国を我らが手中に、そんな声だった……。」
先帝が望んでいたかは知らないが彼らの周りの人間はそれを高望みし絆したのだろう。
絆され判断を誤った。そんなことは知ったことではない自業自得である。
だが彼のこの項垂れ具合には察するものがあった。
愛国心で愛する国を失ったのだから無理もない。
「何でもいいですけどその本回収させて貰っていいですか?魔導書の原本だということは見ればわかります。」
「……力が……力が有れば……。」
譫語のように呟く言葉で場に緊張が走る。
空白の間隙を突くような鋭い突きがヘルエスの首元めがけて飛んできた。
咄嗟に半身のみ抜剣した刃で受け太刀する。
魔法を使えばすぐに殺せるが貴重な情報源である。
初級魔法・烈風波
生け取りが理想、それを実現するために剣を魔法で弾き返したヘルエスは残りの半身も抜剣した。
初級魔法・静電撃
足止め程度と放った魔法と同時に無力化するために剣を振るう。
目掛けるは相手の持ち手である。
だが足止めは適わず簡単に弾かれてしまった。
猪のようにゴワゴワした剛毛の皮膚が軽い電気を弾いたのだろう。
加減をミスれば貴重な関係者を失う事になる。
中級以上の魔法、失血、得体の知れない臓器構造への損傷、それらを避けつつ無力化というのはあまりにも難易度が高いと言わざるを得ない。
ヘルエスは四肢狙いの純粋な剣術勝負を選んだ。
受け太刀は分が悪いため連撃による攻めで回避は初級魔法の烈風波を用いて攻め立てた。
無論相手はヘルエスの攻めに受け気味ながらも受け太刀直後などに反撃を加えてくる。
それらは風で防がれ態勢を崩したところに足元目掛けた振り下ろし、手元目掛けた切り上げを都度狙った。
これら2撃をいとも容易く防がれた事にヘルエスは作戦変更を余儀なくされた。
一部中級魔法の解放である。
殺傷性が低くだが確実な手傷を負わせられる魔法、かなり選択肢は少ないがヘルエスが得意な風系統の魔法の中に1つあった。
それは高威力な魔法をいくつも扱えるヘルエスが使う機会がなかった魔法である。
ではなぜ今回使わなかったのか、それは避けられると背後の資料に当たる危険性があり剣で方が付くならそれが最善だったからである。
いくら殺傷性が薄いとはいえ無数に放てば失血死しかねなく1発勝負である。
相手に防がせるために大振りで振りかぶり袈裟斬りを振るった。
無論それは相手に防がれ鍔迫り合いに持ち込まれる
初級魔法・烈風波
中級魔法・風刃
同時発動された魔法によりヘルエスは後ろ側へ吹き飛ばされ距離を取りつつ風の刃が相手の右足目掛けて放たれる。
当然避けようとするわけだがキメラの足は動かない、接近時に影で固定されていたからだ。
ザクっと音を立てて足元から血が流れ出した当然早く止血しないとどんどんと血が流れてしまう。
「ぐうぅ……。」
唸り声が聞こえるがヘルエスの手は止まらない次は剣の奪取である。
初級魔法・静電撃
初級魔法・烈風波・二重発動
先程抉った傷口目掛けた静電撃が相手に着弾すると同時に肘裏と足裏への烈風波により加速した突きが相手の防御虚しく剣が握られた右腕の手首へと命中した。
これにより相手は剣を落とす。
そして相手の剣を蹴っ飛ばし剣を引き抜く。
一歩下り納刀、相手がなす術なく突進してきたところを身を翻しながら足蹴りをかまして転倒させた。
動きが止まれば影の独壇場である。
相手に這わせて動きを封じ影の中に収納していた薬品を注入する。
シャルお手製の獣などを生け取りするのに使う催眠薬である。
麻痺薬は痙攣したまま死に至る恐れがありヘルエスは既に返却済みであった。
その後、傷口を縛り止血して影の中に沈めた。
「さて……資料……。」
静まり帰った空気にヘルエスの独り言が響いたのだった。
翌日ヘルエスは慌てて王国に帰還していた。
禁書を漸く回収できたのもあるがノアに報告と相談をしたらキメラの軍勢が王国に向けて進軍していると聞かされたからである。
「次から次へと……。」
ヘルエスは珍しく悪態を吐いた。
例え軍勢を処理したとしても司書として後処理への強制参加、国への報告、始末書の提出など仕事は山積みである。
禁書庫司書の奮闘は続く。
30秒ほどで考えたあまりに稚拙な物語を読んで下さった方々ありがとうございました。
今度はもっとメッセージ性を込めた話を書きたい所存です。




