暇
箸休め会でありヘルエスの就任のための伏線回となります。
ヘルエスは暇を持て余していた。
日々の鍛錬は再開したもののそれでも時間は有り余っておりヘルエスはジークに課せられた課題を熟すと共にグロリアの手伝いも行っていた。
「柱はこちらにお願いします。」
掛け声通りに飛行魔法で巨大な丸太を運びあらかじめ掘られた穴へ差し込み設置していく。
他のヴァンパイアの人達は設置後に丸太に開けられた穴に木材を差し込み他の柱や床板との接合をしていってる。
多重発動できるヘルエスの出力の飛行魔法さえあれば肉体労働はほぼ不要となる。
たった3日で三階建ての巨大な洋館が建てられた。
「建築業の方が向いてるのでは?」
グロリアが茶化すとヘルエスは苦笑いを浮かべた。
「かもしれませんね。まぁ転職する気はなですけど。」
この3日間は暇を潰せたのだが家を建て終わると結局暇になる。
家具等の運搬はヴァンパイアにとって朝飯前でありヘルエスの出番はないからだ。
あったとしても1日で終わる内容であり結局暇を持て余す結果になるだろう。
仕方なくヘルエスはガブン家へ帰宅することになった。
ヘルエスが家に着くとレオが出迎えて大量の書類を手渡された。
「あの、これは?」
レオは笑顔を崩さずヘルエスが逃げないように手首を掴んだ。
「王国の法律関係の書類です。ヘルエスにはこれを暗記するようにブラウン公爵からのお達しです。」
「手首掴まなくても逃げないわよ。暗記すればいいんですね。ご連絡ありがとうございます。」
抱えるのに精一杯の量の紙束を受け取り部屋まで運ぶと机の上に雑に置き捨てた。
ヘルエスは使用人に茶を水瓶に一杯用意するようにお願いをして普段着に着替え出した。
元々ヘルエスは服に無頓着だったのだがガブンに来てからレオとレオの両親からの圧力で少し服に気を使うようになったのだ。
特に課題やる時は決まって質素な黒服と決めておりこの服のボディラインに合わせて入ってる赤い線の模様がヘルエスの気に入ってるポイントだった。
サクッと着替えるとヘルエスは書類の1番上の紙を取って軽く流し読む。
そこには王家の基本的政治理念が描かれておりヘルエスはそこから意味する所を察した。
「……全部……か。」
ヘルエスは覚悟を決めて椅子に座り記憶する負担を減らすために関連する所を抜き出す情報整理から入ることにした。
使用人が飲み物の用意を済ませその後夕食の準備が終わるのを伝えに来る頃ようやくその作業が終了した。
家族と囲む夕食、それはヘルエスの数少ない幸せの一つになっていた。
ただそんな幸せなひと時が終わり部屋に戻ればそこは途端に戦場である。
覚えやすいように情報整理は行ったが渡された書類に無駄はなく何一つ量は減っていない。
抱えると精一杯の量というのは何も変わってなかった。
目を通し流れてくる情報を必死に脳に記憶していく。
生まれに受けた雷系魔法による脳改造、ブラウン家の英才教育で訓練された記憶力それらが合わさり朝日が昇り切る頃には一通り目を通し終えていた。
ヘルエス的には後これを2日ほどやれば完璧に覚えられるのだ。
結局大量の暗記如きではヘルエスの暇つぶしにすらならなかった。
3日後、暗記を終えた次の日、ヘルエスは社交界にお呼ばれしていた。
経済的な結びつきが強い家同士での社交界というのは定期的に行われておりガブンの家の者として堂々と表舞台に立てるようになった今貴族としての経験を積むことも必要ということになったのだ。
というのは建前で暇しているヘルエスをレオの母、アンティア・レオノーラ・ガブンが見兼ねてそれならばと呼び出したのである。
会議やら家同士のお堅い話し合いやらが終わり最後の催し、晩餐会会場にドレス姿で足を踏み入れるとヘルエスは周りからの注目を集めた。
晩餐会では自由な交流が盛んである。
それはつまり普段見ない顔ぶれがいた場合は注目を集めやすいのだ。
それがヘルエスだとどうなるか。
ヘルエスは既に王国での有名人となっていたためほぼ全ての視線を一度に浴びる羽目にあったのだ。
出される食事はサラダとメインの二品という簡易的な食事でしかなくその後の交流がメインで食べ終えた側から露骨にヘルエスの付近で家同士の会話をするものが増えていた。
当の本人はというと静観である。
食べ終えても何もするわけでもなく周りを観察しつつどうするか考えていた。
そしてヘルエスは諦めた。
これは逃げれないなと確信に変わったからだ。
やがてヘルエスに一言掛けたい者、名を覚えてもらいたい者、興味がある者それぞれが列を成していた。
無論ガブン家として来てる以上無碍にできないヘルエスはそれに答える他なく一人一人対処することになったのだった。




