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禁書庫司書の受難  作者: 睡魔ASMRer
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顔合わせの茶会

 通された部屋は以前の執務室とは別の場所であった。


 「ここは?」


 「ヘルエス、急遽明日に日程が決まった。お前は今日ここで寝泊まりすると良い。

 身の回りのことはそこのオイト・オナ・ロッケンベルグに任せておくと良い。

 カイシェストの姉だ。」


 怒涛の情報量であった。


 「明日ってまた急ですね。オイト子爵令嬢、ヘルエスです。よろしくお願いします。」


 貴族相手ということで礼節を持って接する。


 「ご紹介賜りましたオイトと申します。

 私はトール公爵家の一使用人でございます。

 貴族としてではなく使用人として接していただけると幸いです。

 ヘルエス様には妹を助けていただいたとお聞きしております。大変ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」


 洗練さが伝わるその動き、礼節ここに極まれりであった。


 「貴女がアスティナ公爵令嬢が仰っていた使用人だったんですね。これが私の当日の服です。」


 ヘルエスは察して紙袋を手渡した。


 「お預かり致します。中はご覧になられましたか?」


 ヘルエスはどんな服かすらもまだ見てない。


 というか完全にアスティナと店側に任せており楽しみにするという思考そのものがヘルエスにはなかったのだ。


 「いえ、まだですね。」


 「なんと勿体ないです。服を見てイメージなさって下さい。気の持ち様もまるで違うものですよ。」


 勿体ない、その言葉はヘルエスにクリティカルな刺さりをみせた。


 「是非ご自分で開けてみて下さい。

 宝箱を開く様に……。」


 宝箱、ヘルエスの辞書には無い言葉、だが特別というのは聞かずとも理解していた。


 紙袋には紙箱が入っており開けると上等そうな紙が出迎えた。


 捲ってみると真紅の布が顔を出す。


 「これ……アスティの口紅の色……。」


 「よくご存知で……正しくであります。」


 どうやらオイトも服の様相は聞き及んでいたらしい。


 「化粧では似合わないのに似合うものなのですか?」


 純粋な疑問、それをオイトは任せろと自信ありげな返答で返す。


 「そのために私がおります故……。化粧の仕方1つで服に合わせることも可能でございます。」


 「すまないオイト子爵令嬢、彼女には戦う術しか教えられていない。こういうことを教えてやって欲しい。」


 「承知いたしました。ジークフリート卿……それと私は一使用人でございます。

 勤めの間は使用人として扱って下さいませ。」


 「そうだったなすまない。」


 筋骨隆々、古今無双、そんな雰囲気を纏っていたジークフリートはどこかへ行っておりヘルエスには心なしかシワがより深くみえていた。


 




 翌日、ついに顔合わせの日が来た。


 実際は昼過ぎに行われる茶会ではあるのだがそのためかブラウン家内部は朝から大忙しの様相であった。


 ヘルエスは手伝いたい気持ちが湧くものの何もするなという釘を刺されており家に置かれた実物大人形と化していた。


 「菓子の用意終わりました!」


 「テーブル、クロス用意終わりました!」


 「ティーセット、お湯、用意終わりました!」


 次々と挙がってくる報告はヘルエスの筋繊維を強張らせた。


 「緊張なさいますか?ヘルエス様、後はおめかしするだけですよ?」


 服を着せられるのも飾り物としてこの場にいるのもどれも今までのヘルエスからは考えられない事象である。


 それはヘルエスに硬さをもたらせていた。


 「えぇまぁ慣れません……。」


 返す言葉すら迷子のヘルエスに最後の仕上げのメイクが始まった。


 「下地は満遍なく、鼻の側面や下瞼、耳横などは塗り漏らしが多いのでお気をつけください。


 ファンデーションは塗りすぎ厳禁、薄く、満遍なく叩き塗って下さい。


 次に……。」


 延々と、細かく続く教えをヘルエスは覚えようと耳を立てる。


 時折くるこしょばさも次第に慣れヘルエスに集中するきっかけとなった。


 「……最後に口紅を……これはご自身で塗ってみて下さい。仕上げのひと塗りです。」


 優しく微笑みながら放たれた言葉に従いヘルエスは唇の真ん中に紅先を落としそこから輪郭に沿う様に塗り広げていった。


 「お上手ですよ。ほらこの通り……。」


 そこで漸くヘルエスは自分自身の顔を鏡で覗いた。


 まるで別人、ヘルエスの心は少しワクワクし始めた。


 「手取り足取りありがとうございます。」


 感謝の意を述べるもののどこか上の空、完全に心は鏡に移るヘルエスに支配されていた。


 「ふふ、お気に召しましたか?どんな殿方もこれで一撃ですね。」


 オイトがウィンクしてみせる。


 だがヘルエスは両目をぱちくりさせるだけでまだ早かったようだ。


 「練習すれば意外とできるようになりますよ。」


 そうこうしていると馬車が到着し茶会の時は訪れた。


 やってきたのはヘルエスの婚約者となったレオ・ケラウス・ガブンとその母親、アンティア・レオノーラ・ガブンである。


 ヘルエスは座っていた椅子から立ち上がり静かに一礼する。


 若い男の目が見るからに泳ぎ動揺しているのをヘルエスは楽しんでいた。


 いざ対面して円テーブルに設けられたそれぞれの椅子に座る。


 上座に客人のレオ、次席にアンティア、そこからジークフリートとヘルミウス、次にガブン家の使用人2名、そして末端の下座にヘルエスが座る形となった。


 円テーブルでは上座と下座は向かい合わせ、そう真正面である。


 お互いの目が合ったためウィンクが出来ないヘルエスは微笑みを送ることにした。


 みるみるうちに茹で上がったように顔を赤くし顔を背けるレオ、効果覿面だったようだ。


 「この度はこの様な機会をご用意下さり誠にありがとうございます。」


 アンティアが口上を述べ茶会が始まった。


 まずは貴族同士の情報交換、戦後のごたつきの情報交換が行われた。


 「なるほど先の砲撃の損害はだいぶ治ってらしたんですね。」


 「えぇそれも海戦を勝利に導いていただいたおかげでございます。感謝しても仕切れません……。」


 無論ここにヘルエスの入る余地などない。


 それから話はジークフリートの漂流記へ移っていった。


 「よくご無事でしたね。凄まじい生命力、レオにはジークフリート卿のような逞しく育って欲しいものです。」


 当のレオ本人はというとまだ顔の赤みが引いておらず無口を貫いていた。


 顔合わせが本当に何もせず顔だけ合わせて終わりかねない雰囲気すらヘルエスは感じ出した。


 「だがここにいるヘルエスがそんな敵兵をバッサリ倒してみせたのです。」


 ヘルミウスが見兼ねて助け船をだした。


 「お話にあったジークフリート卿を追い詰めた魔法使いは私が倒しに参り無事勝利を収めることができました。」


 ヘルエスがそれに乗っかり口を出した。


 「あら?お強いのですね。確か司書様なのだとか……レオと貴女との孫が見れたらその子もお強いのでしょうね。楽しみにしてます。」


 2人の貞操を肯定するそんな言葉はレオを正気へと引き戻した。


 「……ヘルエスさm……ヘルエスとお付き合いできること光栄に思います。」


 様付けをしかけたレオだったがなんとか踏み止まった。


 「わたくしもレオ様の様な若く逞しい方とご一緒になれることを光栄に思います。」


 礼儀正しく、そう返した。


 無論、ヘルエスは心の底では思ってないのだがレオにその言葉は刺激が強すぎたのかまたもや顔を真っ赤にしてオーバーヒートする。


 「息子が緊張しているみたいで申し訳ございません。」


 ヘルエスに向けられた謝罪を礼1つで返す。


 「お茶でも挟みながら落ち着かれて下さい。茶会ですから愉しまれていって下さい。」


 ヘルミウスが促す。


 こうして茶会はひと段落迎えたのであった。

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