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禁書庫司書の受難  作者: 睡魔ASMRer
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身なり

 誰だ、どこかで、そう忘れようと努めていたような名前、確か……2ヶ月ほど前……。


 そこまで辿って思い出したのは海路封鎖に協力した後、ノアが使った死体の後処理の際に出会った好青年だった。


 「……うっあの子貴族だったの……。」


 「なんだ年下は嫌いか?」


 ヘルエスが珍しく小言を漏らしたのを聞き逃さなかったジークは尋ねた。


 「やはり私より年下ですか。別に年下がどうこういう気はございませんよ。そもそも私は一生結婚とは無縁の人生だろうと決めつけていたほどですから……。」


 血に濡れた私が幸せにだなんてなっていい道理はない。ヘルエスはそう考えていた。


 「負い目かなんかは知らんが小さいことに気を病むな。


 生きてる以上自身の幸せを願うことなどごく当たり前のことだ。それが叶うかどうかは別にしてな。」


 ヘルエスは見透かされたような言動を受け猫を被ることにした。


 「お気遣いありがとうございます。戦うこたばかりでしたので思いも寄らなかっただけですよ。」


 嘘半分真実半分のその言葉を吐き捨てヘルエスは平常心を装った。


 「……まぁ良い。我々も戦後処理がある。顔合わせは茶会と称して相手側に足を運んでもらうよう手筈を整えておくからお前はその時の身なりを考えておけ。その辺はアスティナお前に任せて良いか?」


 「はい。かしこまりました。」


 ヘルエスから見るアスティナは気品がありお淑やかな雰囲気を纏っていた。


 「ヘルエス、顔合わせの後書類書いて貰えばそれだけで終わりだ。

 下手な騒ぎさえ起こさなければ基本はお前を庇うことができる。」


 ジークのこの物言い、ヘルエスに悪寒が走った。


 「下手な騒ぎというのは……。」


 「お前先日のゾンビ掃討の際、街壊しただろ。魔法で……。」


 「はい。範囲殲滅する予定が少し出力調整ミスしました。」


 「庇うのにも限度がある次はないからな。」


 「はい。」


 死者は出てなかったものの自身の批判に繋がる行為が許される訳がなかった。


 先週の出来事のため魔力光の波長で個人特定まで進んでいたのだ。


 「俺からは以上だ。下がっていいぞ。」


 ヘルエスは一礼して一歩下がる。


 「ヘルエス、今から時間あるかしら。せっかくだから今日貴女の服買いにいかない?」


 要件が済んだのを確認してアスティナがヘルエスに話しかける。


 「構いませんけど一度家に寄って良いですか?お金も最低限しか家から持ってきてませんし。」


 「じゃあ店紹介だけでいいから。なんだったら私が買ってあげる。」


 「いえ。私の身なりに関わる物くらい自身で払わせて下さい。」


 アスティナの提案だけはヘルエスが即答で断った。


 「そういうわけでジークフリート卿、ヘルミウス卿、ヘルエスお借りいたします。失礼しました。」


 ヘルエスとアスティナの買い物が始まった。






 まだ日が昇り切らない午前、高名な公爵令嬢の隣を歩くにはヘルエスの身なりはあまりに貧相であった。


 だが彼女を侮る者など現れるはずもない。


 何故なら禁書狩りの際に着用していたローブと仮面を被っていたからだ。


 戦前の出来事とはいえ悪名は健在であり貴族街を歩く2人を見かけた人は本来一礼して挨拶するところをそっと顔を背けて見ない振りに徹していた。


 「……いやわかるよ。顔を見られるのは好ましくないことも……分かるけど視線が辛いわ……。」


 「すみませんアスティ。でもなんというかかこの格好自分らしくて落ち着くんですよね。」


 「ふふ。ならそれを変えて見せなきゃね。さてまずはここ!化粧品!」


 ヘルエスが連れられて来られた店は中が丸見えのガラス張りの店構えで周囲とは一線を画していた。


 「化粧ってあの化粧ですか?白粉や口紅とかのあの?」


 ヘルエスは実物を見たことがなく本でしか存在を知り得ない領域である。


 「あのってそんなに珍しいものでもないわよ?庶民的な店も増えてきて少なくとも王都では普通に流通してるわ。

 ここは私の行きつけのお店です。

 化粧品は質が悪いと見栄えもわるくて身体にも悪いからね。信用あるとこ紹介したくてさ。」


 これがアスティナがヘルエスを誘った理由であった。


 「そうだったんですね。えっと……あまりよくわからないのでお任せして良いですか?」


 「はい。任されました。お邪魔します。」


 満面の笑みを浮かべて店の扉をノックし入店するアスティナに取り残されまいとついていくヘルエス。


 入ると外から見えていたもののやはり別世界というのが真っ先に浮かんだ言葉であった。


 「はぁ種類が多いんですね。何がなんだか……。」


 「ふふ、初めてなんだからそんなものよ。ヘイリーいらっしゃるかしら。」


 「これはアスティナ公爵令嬢。ご来店ありがとうございます。只今お呼びいたしますので寛いでお待ちくださいませ。」


 受付の方が対応してくれた。


 ヘルエスは食事処でもないのに受付が存在することに戸惑っている。


 入店してもまだ慣れるには程遠かった。


 2人は椅子に座って話始めた。


 「でヘルエスは戦争で孤軍奮闘の大活躍とお聞きしておりますがどうでしたか?」


 アスティナはどこか嬉しそうに話を振ってきた。


 「どうって私自分の私利私欲のためにしか戦ってませんよ。」


 ヘルエスのこれはある意味正しかった。


 ヘルエスは自身の出生そのものに対して戦っていた。


 魔の魔女マーラウィッチ2人と戦ったのも従軍したのでさえ自身と同じ生まれの者をちゃんとした形で弔いたいがためである。


 結果的に果たすことは出来なかったものの行動原理は自己満足、私利私欲であった。


 「私利私欲ってなんか似合わないわね。」


 そう、他人からみたヘルエスは少し無欲さが見えていた。


 それは身なりからも溢れ出ており第三者からみれば半数以上は無欲そうな人間と捉えてもおかしくないほどである。


 「やはり身なりですか?」


 それはヘルエスにも薄々気がついていた。


 「そうね。それが一つね。」


 「他には?」


 「流行り廃りに弱いでしょ。」


 これもまた図星である。


 「無欲そうに見える要因ですか……あ、でも本!本なら流行り廃りは多少自身あります!アティナスって方の恋愛話が……。」


 そこまで語った瞬間にアスティナの目がほんの一瞬、泳いだところを見逃さなかった。


 「恋愛話が?というか本詳しいんだ。良いじゃん。でも目に見えないからね。」


 「……聞いちゃまずいですか?」


 「ふふ、何かしら?まずいとわかってるなら辞めた方が得策よ?」


 アスティナもヘルエスに勘付かれたことを察して警告、ヘルエスはそっとこの話題から遠ざけることにした。


 「で流行り廃りの分かりやすいのって何かありますか?」


 「そりゃ私服が1番分かりやすいわね。

 柄、形状をよく見ると同じ服を着てる人が多いのがコロコロ変わるものよ。大抵は著名人がそういうのを着ると流行り出したりするものですけどそういう情報を追っておくと美的意識のあるように見られて無欲さから遠ざかるわ。同義ではないのだけれどね。」


 「私服ですか。特に拘りないので検討してみます。」


 「後はメイクなんかにも実は流行りがあるの。まぁこっちはより著名人の真似ってのが強いから気になればでいいわよ。それでも普段出かける時はファンデーションと口紅くらいつけた方がいいわよ。」


 そうこうしているとヘイリーを名乗る店員がやってきた。

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