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禁書庫司書の受難  作者: 睡魔ASMRer
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帝国瓦解

 ケントに繋がる情報こそ途絶えたもののヘルエスには本職として聞かねばならないことが他にあった。


 「王国の禁書あなたたちが盗み出し軍事利用していることは知っています。魔導書回収だけでもさせていただいてもよろしいですか?」


 「……。」


 この問いかけは帝国軍にとってクリティカルな刺さりを見せた。


 沈黙のなかでみせた明らかな反応、そこでヘルエスは全てを察することができた。


 ヘルエスは立ち上がりその場を後にした。


 立ち去る際に腹いせとばかりに要塞内にある魔法式大砲幾つかを木っ端微塵に破壊していった。


 「何をするつもりだ貴様!!」


 「何って私は王国民で今は戦争中ですよ?これくらい当然では?」


 流石の帝国兵もこれには何も言い返せなかった。


 そもそも強すぎる彼女に対して気を荒げさせないことが唯一の対策であった。


 この要塞が帝国軍の本拠地だとしても気の済むまま、そうする他できないのだから……。


 例えその結果、要塞が沈められるとしてとも……。


 もし要塞がやられるようなら新しい要塞が本拠地に置き換わるだけではある。


 「ヘルエス、どうする?」


 ガイアは苛立っているヘルエスに平然と尋ねた。


 「そうね。とりあえずここで温存してる魔力ある程度減らしたら帰るわ。」


 今日中の決着は絶望的、故に魔力を温存する理由も特になかった。


 上級魔法・ガイルスコルグ・5連発動


 上級魔法・プロミネンスフレア・5連発動


 魔法陣の影響で拡散しようとする魔力をなんとか集約し魔法を放つ。


 範囲魔法だと拡散範囲が広がりに集約させきれない。


 並程度の使い手だとそもそも上級魔法を維持することすら困難な空間でヘルエスは要塞の顔とも言える頑強な門をも、僅か数秒で崩壊させた。


 戦争中の敵の要塞、何をどんなに壊してもここなら問題ない。


 故にヘルエスは八つ当たりするかの如く壊しまくった。


 だが気持ちが晴れることはなく壊せば壊すたびに心は凍り付き、モヤがかかっていくような気がした。


 程なくして要塞は半壊、そこで歩く厄災と化していたヘルエスの進軍は歩みを止めた。








 ヘルエスが暴れ散らかしていたその日、各地の戦地に配属されていたはずのゾンビ兵の突然の消失が起こる。


 消失方法はどれも同じで影が纏った瞬間にその場から消え失せるものだった。


 そう、帝国の主力のうちの1つが消失したわけだ。


 戦争への影響力は絶大であった。


 数的有利がまさしく反転、各地で帝国兵は敗走を余儀なくされるも退路は反転攻勢中でどこもかしこも塞がれており果たして大量の捕虜となり王国側に拘束されることとなる。


 そこで王国は帝国側に捕虜交換の交渉を持ち掛け戦力の消失により戦略変更を余儀なくされた帝国はこれを承諾、拘束されていた貴族が全員帰還できる流れとなった。


 これにより王国側の攻勢は激化、帝国領土へ一気に攻め込みより細かく陸路の封鎖が行われるようになった。


 悪化傾向が見え始めていた経済は一気に停滞、物流の停止による物価の高騰と品薄、貿易の完全停止による経済的大損失、通貨の暴落による経済不振、大量の失業者の発生と餓死者の発生、悉く悪材料が噴出することになる。


 このたった2週間の出来事は帝国の没落の岐路として歴史に刻まれることとなった。


 ただこれだけでは終わらなかった。


 王国軍の合流により陸路の封鎖がより細分化されたということは反転攻勢部隊の手が空いたということである。


 ノア率いる反転攻勢部隊は部隊を再編、各地の要塞へ侵攻を開始する。


 帝国側は防戦を敷いて向かい撃つもののノアがこれを力技で突破、更に2週間で3地点もの要塞が陥落、気づけば最前線は帝都の目前まで迫っていた。









 そこから更に1ヶ月後、戦争開始から8ヶ月が過ぎ帝都が完全に四面楚歌となったその日、王都に大量のゾンビ兵が出現することになった。


 「こいつら消えたんじゃねぇのかよ!」


 それは禁書庫の前にも現れていた。


 「……ケビン、後は私がやります。中、お願いします。」


 ヘルエスは察し魔法を放った。


 最上級魔法・イグニッションタイダルウェーブ


 ヘルエスは最難関とも言われる魔法の詠唱破棄も習得しており自由自在に炎の波で吹き飛ばすことが可能となっていた。


 「おぉ凄いけどこりゃまたお嬢が頭痛めるねぇ。」


 「数が数ですからというかあの人の五感が敏感すぎるだけですよ。


 魔法行使してる私からしたら少し明るいだけなのに……。」


 ケビンは苦笑いしながら禁書庫の中へ入っていった。


 「ヘルエス!すまん!」


 突然聞こえる怒号に魔法を放ってから中へ入って答えるとそこには本の綱引きが行われていた。


 本は半分ほど影が覆われている。


 「ケント!!」


 ヘルエスは杖を構えるものの何もできずにいた。


 ヘルエスが力を振るおうとも影に干渉することができない。


 それどころか周りの本にまで被害が及ぶ可能性があるからだ。


 「ケビン、凍らせて固定させます。耐えて!」


 初級魔法・氷結晶・十重発動


 手に無数の結晶が構築、次第に結晶同士結びつくように凍りついていった。


 これにより本と身体が一体化、更なる魔法を発動させた。


 上級魔法・エアムーブ


 ケビンを包む飛行魔法、だが地面からは浮かさずあくまで水平方向へ距離を取るかのように風が送られている。


 そこにケビンの自力が合わさり影が本を手放すことになった。


 「今のは?てかなぜ侵入できてんだよ。」


 空間魔法を外部から直接内部に繋げることはほぼ不可能に近かった。


 だがヴァンパイアの影を操る魔力なら侵入な容易である。


 「魔物の影に潜まれてからケビンの影を伝い中まで入ってきたんですね。ほんと厄介。」


 「つまりこっからいつでも狙えると?ふざけてるな。ガイア常駐させなきゃ盗まれ放題かよ。」


 「手まだいけますか?凍傷耐えて下さいね。」


 「冬支度してるんだ。余裕余裕。」


 ここで警報音が鳴り響く。


 「第三陣ですね。私対応に回るんで全力で本守って下さいね。」


 そういうと一度氷から魔力を抜き取り再度氷結晶を多重発動、今度は左手に括り付けた。


 「ナイス機転、これで槍振るえるぜ。影に有効かは知らんけど……というかこれ効くか?」


 「魔法じゃ無理です。」


 「じゃあ無理だな。」


 ケントとの禁書を巡る防衛戦が始まった。


終戦目前、長かった……。

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