帝都侵入
ヘルエスは真っ暗な視界の中にいた。
なにも見えない、いや見えてるものが黒いモヤというべきだろうか。
ヘルエスは浮遊感にも似た不思議な感覚に浸っていた。
しばらくするとガイアの声が聞こえてきた。
「帝都ついたよ。とりあえず適当な路地裏に出るから出たら後はよろしく。」
声が終わると帝都の端にある路地裏に放り出される。出た先は酔い潰れた老人の隣だった。ガイアはヘルエスの影に入ったままでヘルエスは軽く走った後、跳躍した。
初級魔法・烈風波・二重発動
足裏に発動させると同時に跳躍、これだけで屋根上へと降り立つ。
屋根上にて軽く帝都を見渡す。
小高い丘に街並みが建てられており1番高いところには宮殿が建っていた。
土地が高い位置に立地していればしているほど地価も高く住まう人の位も高い圧倒的、そして絶対的な身分の差、その象徴が中央に聳え立つ宮殿ともいえる。
名をベスティアーレ宮殿、ベスティアに栄光を組み合わせた名前である。
だが目的地は宮殿ではない。
円形に広がる路地裏、それに沿う様に屋根上を走り移動していく。
「あそこで良いかしら。左手前の木の根元にある茂みでいいかしら。」
指定したのは広葉樹の根元に植えられていた低木の樹木である。
密集した枝葉は隠すのに適していた。
上級魔法・ハイドミストフィールド
薄い霧が周囲に散布される。
それは普通の人には何も変わらない光景でしかない。
魔法が扱えれば魔力光で霧自体が光って見え魔法の行使がバレるがここは低層住宅街である。そんなところに魔法が扱えるものなど皆無である。
霧はただの霧では無い。散布後自身の周りに少し濃いめの霧を纏わせ、薄い霧に濃い霧を紛れ混ませることにより濃い霧に纏った者を見えなくさせる魔法である。
だがいくら魔法で姿を隠しているとはいえ音を立てるわけにはいかない。
そこでガイアがヘルエスの影を木陰に伸ばして茂みの奥から釘の様な剣を地面に突き刺した。
それを見送ったヘルエスはその場をすぐ離脱した。
「良かったの?あれシャルから貰ったものでしょ?」
なぜ刺したのかヘルエスはその理由が分かっておらず尋ねた。
その物が魔力を纏っていることまでは分かったもののその代物がなんなのかまでは分からなかったのだ。
「あぁあれね。魔力を溜められる剣なんだよ。
影操作可能な魔力をあれに溜めれば刺した先で魔力操作が可能になる。俺が使えばあの場にいつでも移動できて物も運べる。
んでこれの出番さ。」
そう言うとガイアはヘルエスの影の中から一つの布をを投げて寄越した。
それを見てヘルエスは全てを察した。
「なるほどこれは中々強い手ね。封鎖の本来の目的はこれのためか。」
「だな。あとは君の好きなようにどうぞ。」
ヘルエスはその言葉を待っていたかのように帝都の中央部に向けて走り出した。
向かった先は宮殿から少し降りたところに構えられた帝国軍総本部、ベスティア要塞である。
「おいおいそれ敵本拠地だぞ!」
影からの忠告が来るが意に止めず要塞の正門に到着した。
「何者だ!」
門番2人が揃って槍を構える。
いきなり全速力で少女が走ってきたらそう言う反応にもなるだろう。
だがここは要塞である。
相手と問答などする必要もなくヘルエスは魔法を放った。
上級魔法・ガイルスコルグ・二重発動
門番の頭を容赦なく吹き飛ばした。
「ヘルエス、流石にそれは……。」
「好きにして良いんでしょ?あんたも覚悟決めなさいよ。」
ガイアは再度忠告するがヘルエスに黙らされるのだった。
要塞内は慌ただしくなる。
2匹の鼠の対処のため。
だが対処出来ようものなのか。
ヘルエスとガイアが鼠とするならたかだか蚊程度の存在に……。
果たして帝国軍は司令部に集結、自ずとヘルエスもそこに招かれることとなった。
「どうぞお茶です。」
「お断りいたします。」
ヘルエスは出されたお茶を突き返した。
「ご用件は?」
「ケットラーズ・ビン・トットランを探しております。行方知りませんか?」
「奴は昨日、辞任書を提出、その後、軍を辞めた。今は軍部規定違反の犯罪者として捜索中である。
それ以上のことはこちらから申せる内容はない。」
ヘルエスは大した情報が出なかったことに憤りを覚えていた。
だが魔法は放てない。
要塞内は範囲魔法に対して制限をかける魔法陣に覆われていたからだ。
入って魔法を放つタイミングで気付いていた。
「匿ろうものならここにいる中から数人の首吹き飛ばしますよ?」
制限はあくまで範囲攻撃、単発を狙い撃ちにする魔法はいくらでも放つことができる。
そちらは防ぐのは容易なためそう易々と放てるものではないが脅しとしては充分である。
「これが提出された辞任書だ。」
奥から辞任書が運ばれてきた。
「これを信じて引き返せと?本気で吹き飛ばしますよ?」
これ本物だから帰れよっと言われているようでヘルエスは怒りが込み上げてきた。
「お前がここに来るまで5分もかかっておらん。書類、押印、書文、準備するのは不可能だと付け加えておこう。」
これに関してはヘルエスも理解していた。
故にどうしようもない怒りが込み上げているのである。
「奴の住所等は?」
「こちらが犯罪者に対してそれらの働きを怠るとでも?」
八方塞がりである。
情報が完全に途絶えた瞬間だった。




