供養その心情
「お、きたきた。」
ドゴオォーーンと凄まじい衝撃音と共に砂埃が舞った。
陸路を包囲していた王国軍が数人悲鳴をあげている。
ここは森の中、積荷がある中で迂回など望めないこの位置は封鎖するのに最も適していた。
茂みに隠れていても唐突に衝撃波と音が襲われると流石に驚きちらほら声を漏らしてしまったみたいだ。
「ヘルエス、もう少し静かに来れませんか。一応潜伏兵もいますので……。」
ノアは諭すがヘルエスはそれに少しイラつきを覚えていた。
海上閉鎖で脳筋思考でグダッた分のストレスが溜まっていたからである。
「で、私は何をすれば良いですか?」
呼びつけたなら要件を早く言わないか、そんな心の声を代弁するかのような聞き方である。
「怖い怖い、じゃあここから道沿いに2キロほど進むと平原に抜けるんだけどそこに帝国兵の死体転がってるからそれの焼却、お願いしていいかな?自分火の適正は無くてね。頼むよ。」
要約すると最初は事後処理のパシリであった。
「その後は?」
「日が明けてからでいいから帝都ベスティアレへの主要道路、ベスティアーレ都市道路の封鎖に向かってくれ。スドンバ出る前に手渡した地図あるかい?書き足しておくよ。」
ヘルエスは地図を返却して火葬に向かうことになった。
道路を1人歩くヘルエス。
距離が遠かったり急ぎではないのなら魔法は温存しておくことにした。
森を抜けた先には道路の端に積まれた大量の遺体が積み上がっていた。
「おぉー凄いいっぱい。」
ヘルエスは珍しく独り言をこぼした。
死して時間が経ったせいかカラスやタカが死体に群がり蝿がそこらかしこに湧いていた。
「ヘルエス様!ご苦労様です。」
王国軍の中でもとびきり若そうな若者に声をかけられた。
年齢もヘルエスと大差ないだろう。下手したら相手の方が若いまであるくらいだ。
「ご苦労様です。それは埋没穴ですか?」
若者は両手持ちのスコップを地面に何度も突き刺しては掘り返し深さ1.5メートルはあろうかというほど立派な大穴が開けられていた。
「そこらへんに骨を放置されてもあれですしね。
まぁ死臭放つ現状を改善しないと封鎖任務の邪魔でしかないですからね。」
悪態を付きながらも作業を続ける若者を横目にヘルエスは特殊魔法を発動させるために常備している魔法陣用のマーカーを取り出した。
魔石と貝殻を砕き、粉にした貝殻は焼き石灰へ、両方を混ぜ合わせて海水で固めたものである。
魔石チョークとして売られているのを戦争が始まってから向かった魔法使い専門店で購入していたのだ。
これで位置指定、範囲指定、魔法の形状指定、効果時間指定と色々指定して既存の魔法を特殊な発動のさせ方ができる。
範囲を死体を取り囲むようにぐるっと丸で囲んでから文字で始点と終点を繋ぎ指定する。
次に効果時間、死体の焼却は時間がかかる。魔力量にものを言わせて3時間で指定させるように書き込み魔力を注いだ。
書き込みは全体へ行き届くために均等に内縁に接する四角形やその対角線、三角形等を書き込んである。
その全てに時間指定の魔言入りである。
最後に今回使う魔法の詠唱文を魔法陣の内側に魔言で書き込む。
後は魔法陣に触れながらいつも通り魔法を発動させるだけだ。
特殊最上級魔法・インフェルノ
範囲を囲むように火柱が走った途端に死体を覆い尽くして余りあるドーム状の炎が展開された。
「はい!おしまい休憩。」
作られた穴のヘリに座り燻製肉を齧り出す。
「凄え……。」
若者も穴掘りの休憩に移り会話が始まった。
「ヘルエス様は何というかかっこいいですね。魔法の腕っぷしも強くて、芯も強くて、美人で!」
ヘルエスは話半分に聞き流しながら答えた。
「ありがとうございます。ですけど私なんて生まれた時から血に塗れてましたからそんな力、褒められたものじゃないですよ。」
「あーなんか……その、すみません。でもヘルエス様が味方でとても頼もしいっす!」
若者から向けられる純粋無垢な視線にヘルエスは耐え難かった。
「墓石代わりの岩探してきます。」
逃げるようにヘルエスはそう残して立つ。
「え、なんでこんな侵略者共弔うんすか?」
その発言はあまりに無邪気で単純に何故なのか知りたがっている様子だった。
ヘルエスは再度座り直した。
「敵に命を投げ出されたことあります?殺そうと決めていた敵に……。」
「殺したんすか?」
「自害しました。少し話してから……。」
ヘルエスは昨日の出来事を思い出す。
「侵略してきて自害って謎すぎて訳がわからないです。」
「彼らもある意味戦争の被害者ですし。私もあの時は訳がわからなかった。なんでそうなるのか、だけど彼女には過去が無かった。それで少し同情した。
自分の生まれも碌に知らないまま戦争始まって戦闘に参加させられて終いには私に徹底的に追い詰められて……。
戦闘狂でもないものには生きるのを諦めるには充分だったんじゃないかって……。
そう思うと例え敵でも、弔いはするべきな気がするんです。
それが殺し合いした敵であろうとも……。」
「なんかカッケーっす。」
「はいはい終わり終わり。私は墓石探してきます。」
またヘルエスは純粋無垢な視線に耐え難くなって今度はその場から逃げた。
数刻後、ヘルエスが岩に飛行魔法をかけて戻ってきた。
もう数十分すれば焼却は終了するだろう。
「ただいま戻りました。穴も完璧ですね。」
1.5メートルだった穴の深さは2メートルまで深くなっていた。
「ヘルエス様のご活躍を思えばこれくらい造作もございません!その石どうやって掘るんすか?というかヘルエス様掘れるんすか!?」
「相当面倒な手順踏めばいけると思いますけどやってみないことにはなんとも……。」
ヘルエスはそういうとチョークを取り出して石と石の周りに魔法陣を描き始めた。
石には魔法の着弾点を細かく点で字を書くように指定させる。
魔法陣にはその点目掛けて水弾が放たれるように設定した魔法を書き込んだ。
書き終える頃には焼却は終わっていた。
特殊中級魔法・水弾
点一つ一つに3発ずつ水弾が魔法陣より放たれて掘られていく。
「魔法……凄え……。」
その光景は若者にはとても刺激的に映った。
魔法が終わる頃、若者はつい口走ってしまう。
「ヘルエス様!好きです!付き合ってください!」
それは唐突の告白であった。
「え?……ごめんなさい。私にはやるべきことがあります。せめて戦争終わってからで良いですか?というか私貴方の名前すら知らないんですけどそういうのって政略婚を除けば互いの事を深く知り合った仲の話じゃないのですか?」
ヘルエスは丁重に断った。
内心カレンのことで頭一杯でそれどころではなかった。
「す、すみません。なかったことに……はならないですね。忘れて貰えないっすか?口走っただけなんすよ。あ、俺レオ・ケラウス・ガブンと申します。」
慌てて発言を修正した後、規律正しそうに挨拶をした。
その後2人で骨を穴の中へ丁寧に並べていき土を被せ墓石を刺した。
その後、身元につながりそうな物品を墓石周りに並べていって火葬終了である。
レオと別れノアに仕事を終えたことを報告に向かった。
「やぁヘルエス。遅かったね。まぁあれだけの死体燃やそうとしたらそうなるか。これ地図ね。朝まで休んでいいよ。軍のテントまだ案内しようか?」
ヘルエスは魔力もかなり浪費しており警戒せずに寝られるならそれに越したことはないためその案に乗ることにした。
「ヘルエス様、こちらでございます。」
反転攻勢軍、軍隊長が名乗りでて森の中にある野営地へ着いた。
女性はヘルエスただ1人である。
ヘルエスは落ち着かなかった。
だからこその提案をする。
「見張り等は任せて良いんですよね?私は篭りますよ?もし用がある場合はノアを寄越して下さい。」
そう言い付けてチョークで1つの巨大な魔法陣を描いた。
残った魔力全部突っ込んで魔法を発動させる。
特殊上級魔法・フロストエッジ
氷の棘を迫り出し攻撃する魔法に形状を与える。するとどうだろう迫り出したのは氷の城だった。
出入り口などは当然ない。
完全個室である。
上級魔法・ガイルスコルグ
天井に空気穴をこじ開けた。
最後に地面の氷を溶かし寝床を確保する。
「んな滅茶苦茶な……。」
目の前で起きた光景をまのあたりにし軍隊長は口が塞がらなかった。




