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燈凛ちゃんを応援せよ!

「最初から酔ってしまえば課金額など気にしないというライフハックでいきます」

「横山さん、その場合、配信をちゃんと見られないという残念な結果になりますよ」

「なるほど、それは盲点でした」

 

 そう言いながら横山さんはノートパソコンを机の上に置き、卓上の充電ポイントにUSBをさした。

 そして店内のWi-Fiパスワードを確認して接続、座椅子に座布団を二枚入れてスーツの上着を脱いだ。

 ここは最近増えているテレワークもできる居酒屋で、俺も仕事でランチミーティングを何度かしたことがある。

 個室でランチビール100円、Wi-Fi完備で机の真ん中には6つのUSB挿し口と電源。

 iPadで料理を注文するシステムで、頼んだ食事は廊下に置いてくれるという徹底ぶり。

 仕事が進む……のではなく、これから燈凛ちゃんの公開二次審査がプラネットTVで始まるのだ。

 片蔵はギリギリまでバイトだというので、俺と横山さんは先に集まり、食事を始めることにした。

 俺もノートパソコンを取り出してセッティングを開始する。

 これは最近購入した軽さが自慢のものだが、何より電池効率が良く、充電せず長く使えるところがいい。

 今日はマウスを繋げたほうが作業しやすそうだ。着々と準備をしていたら、横山さんがのぞき込んでいた。


「これ最新型ですね。いいな、結婚してても別財布なんですか?」

「はい、うちは共有の財布があってそこに月々入金しています。収入に応じて……という気分から俺は多めに入れてて、家で必要なものはすべてそこから落ちるようになってます。あとはすべてお互いの金なので俺は咲月さんがどれくらい持ってるのか全然知らないし、俺の預貯金も咲月さんは全然知らないと思います」

「えーーっ……それでなんの文句も言わないんですか? 将来のことを考えろとか、老後どうするんだとか」

「むしろ俺が咲月さんのために色々買いすぎて、もっとお金を大切にしたほうが良いのでは……みたいなことは言われましたね」

「カーーーーッ!!!! 幸せ話聞かされたって、そんな天然記念物みたいな女性、まっっっじでいませんよ。滝本さんが幸せそうなので俺も……と思って婚活してみましたけど、やっぱりそんな人はどこにも居ません!! 好きに生きる貴方がスキとか言ってたのに、少し仲良くなると休日は会いたい会いたいって言われて、断ると『やっぱり私のことなんて好きじゃないのね』って言われますし、最後には家の前に来てピンポーンですよ、怖すぎる!! 相沢さんみたいな女性はいません、夢、幻想、幻、このまま好きに生きます!!」

 

 そういって横山さんは俺をにらんだ。

 リアリティ溢れる話で実際あったことなのか……と思ってしまうが、更なる地雷を踏みぬく勇気はない。

 横山さんは前にいつもお菓子をくれる女性がいるとか聞いたけど、どうなってるんだろう。

 なにより大手のお菓子メーカーに長く勤めている方で、俺が見る限りイケメンで服装もすっきりしていて、女性にモテそうだが……。

 まあ俺も散々言われたことなので、これ以上何も言わない。

 俺が咲月さんに出会えたのは奇跡だということはさすがに分かっている。

 横山さんと注文したビールで先に乾杯した。

 仕事が終わり、ここから楽しみがあるビールほどうまいものはない。

 横山さんは冷ややっこを食べながら、


「俺部屋にプロジェクターとスクリーン買ったんですよ」

「おお、ついに。部屋でライブ見るのに良さそうですよね」

「正直最高ですよ。壁に突っ張り棒を立てて、そこに引っ掛けたんですけど、スクリーンの重さに耐えきれず深夜に落ちてきたんですよ」

「えっ?!」

「寝てたらドゴーーンって突っ張り棒が腹に刺さりました。スクリーンが頭に落ちてきてパソコンひっくり返って、大地震かと思って布団に丸まって泣きましたよ」

「大丈夫だったんですか?!」

「ケガは無かったんですけど、あまりの惨劇に絶句して……深夜三時ですよ? こういうときに横に彼女とか寝てたら、マジで困るなって」

「いや横山さん、それはひとりでいても困るのでは?」

「突っ張り棒抱えて眠りましたよ。あの瞬間、俺は結婚を本気で諦めましたね」

「横山さん、家を建てましょう、もうそれしかないです」

「片蔵さん、おつかれさまです」


 悲惨な話をしていたら片蔵が入ってきた。

 そしてノートパソコンを机の上に置いて、


「いや、スクリーンマジでいいですよね。俺も最近導入したんですけど、あれ結局壁にドスンと穴開けないと震度4くらいで倒れますね、本の比じゃないほど倒れやすいです」

「俺は地震も関係なく落ちてきましたね。専用スタンドにすれば良かったかな」 

 横山さんは苦笑した。

 片蔵はビールを注文して上着を脱いで、

「うちはスタンド購入したんですけど、あれ鬼くそ重たいんですよ。畳がへこんでヤバいです。仕方ないから下にダンボール置いてその上に置いたんですけど、今度はバランス崩れて横山さんみたいに腹に刺さりました」

 なぜふたりともスクリーンが腹に刺さっているんだ……と思うが、いちいち突っ込むのはやめよう。

 横山さんはビールをグイッと飲んで、

「マジで家建てようかなー。単身用ドルオタハウス。スクリーン最初から完備の完全防音の地下室、4K HDRで2200ANSIルーメンなHORIZON Proぶちこんで環境だけで50万。仕事もテレワーク増えてきたし二階は仕事場にしてサーバー完備すれば家賃補助も会社から出ますし。もうそこまでしたら婚活とかする金もなくなるし、両親も諦める気がします」

 その言葉に片蔵は目を輝かせる。

「都心ならペンシルハウスで行けそうですね。都内にしませんか。集まりやすい」

「あーー、良い気がする。家で飯作るのは嫌いじゃないんでご馳走したいし、巨大ガスバーナーも憧れるなー! 色んな設備を充実させたいですね。資料保存室も必要だな」

「横山さん会社新宿ですよね。練馬くらいまで出たらかなり広いのイケますよ」

「今住んでる荻窪が一番良いんですよね、丸の内使いたくて。でも高いからなー、永福周辺まで含めるとアリかもしれないな」

「東中野あたりいいですよ、ライブハウス多いし飲み屋もあります」

 

 ふたりはビールを飲みながらマップを開き、相場を調べ始めている。

 正直聞いてるだけで楽しい。近場にそんな家が出来たら、ライブ後の打ち上げで頻繁にお邪魔してしまいそうだ。

 俺は最初から咲月さんが好きで、咲月さんと結婚して暮らしている今を何より幸せに思ってるけど、オタク道を突き進んで好きに生きていくのも楽しいと思う。

 片蔵はスマホのアラームに気が付き、


「おっと……そろそろプラネットに入ろう、始まるぞ」

「オッケー。入った……おお、燈凛ちゃんだ。本当に燈凛ちゃんだな!」


 俺と横山さん、それに片蔵はそれぞれのパソコン画面を見て叫んだ。

 中間審査最終ルームには20人ほどの女の子が座っていた。

 その前の列の一番左側に、車いすに座った燈凛ちゃんが座っていた。

 しかし画質がかなり荒い。

 

「くっそ、これ画質これでマックスか。この画面寄れないの?」

 片蔵が叫ぶ。俺はパソコンをいじりながら、

「寄れないんだよ。こっちからサイズ変更不可。カメラが寄ってくれるのを待つしかないけど、どうかな」

「あーっ……でも燈凛ちゃんですね、片蔵さん、本当に燈凛ちゃんじゃないですか、ありがとうございます!!」

 横山さんは画面におでこをくっ付けて叫んだ。

 俺は見ながら昔を思い出す。俺が最後に燈凛ちゃんを見たのはデビュー前のデザロズの野外ライブだ。

 その後はのんちゃんがブログにアップする写真に少しだけ載っているのを見ただけ。

 すごく大人になったような……変わっていないような……。

 順番に自己紹介をして、燈凛ちゃんの順番になった。


『はじめまして。燈凛と申します! 昔はアイドルをしてたんですけどケガをしてしまって、今は車いすで生活してます。最近リハビリして杖で動けるように頑張ってます。ケガをして長く引きこもっていた時期に声優さんというお仕事を知って、やってみたいって思いました。他の子みたいに飛んだり踊ったりできないけれど、動けない分はキャラクターたちになることで補う……そんな声優になりたいです、よろしくお願いします!』


 俺たち三人は準備していたデザロズのタオルを首にかけておいおいと泣いた。

 燈凛ちゃんだ、間違いなく燈凛ちゃんだ。

 表舞台に戻ってこようとしている……ガッツのある燈凛ちゃんだ。

 すると三人同時にスマホがピンと鳴った。のんちゃんがツイートしたのだ。

 そこには『見て見て! アカリだよ!』というツイートと共にプラネットのURLが書いてあった。

 瞬く間にそのツイートは拡散され、さっきまで200人しかいなかった部屋には1000人以上が集まった。

 そして燈凛ちゃんの周りにアバターたちが並んでいく。


「よし、俺たちも並ぼう」


 俺と横山さんは頷いて初手課金を投入、そして一番左奥、静かに座っている燈凛ちゃんの横にアバターで立った。

 いつも使っているアバターに追加課金して紫のTシャツにしてきた。

 見ると横山さんはそこにさらに課金、紫Tシャツがキラキラと輝いている。

 俺は横山さんを見た。


「やりますね」

「滝本さんこそ、靴も紫じゃないですか。これ課金アイテムじゃないですね」

「実はこれ、プラネットがサービス開始した時のみ配布したレアアイテムなんです」

「情報が早い、やりますね」


 入ったルームの中でしか買えないアイテムがあり、俺と横山さんは入金額をつっこみまくりアイテムを買った。

 20人の中間審査に残っている子の中でも、燈凛ちゃんの横に一番多くのアバターが並び、キラキラと光る演出や、お花が舞った。

 燈凛ちゃんはその画面を確認して、


「わあ、ありがとうございます! デザロズの頃からのファンさんたちですね、嬉しいです」


 俺たちはそれを聞いてさらにダバダバと泣いて課金アイテムを追加購入して後ろの桜の木を立てた。

 これは効果演出が長く、燈凛ちゃんを目立たせることができる。

 それを気に入ったデザロズファンたちも桜の木を立て続けて、燈凛ちゃんの周りは桜の木だらけになった。

 アバターが並んでることもあって、みんなでお花見してるみたいだ。

 俺たちは酒を飲んで飯を食べながら、燈凛ちゃんのトークを聞いた。

 合格するといいな、本当にそう思いながら。




オタク同僚2.5はここまでとなります。

そしてオタク同僚の3巻が昨日9/16に発売されています。

WEB版を読んで下さった方が一番楽しめる構成になっていると思うので

ぜひお手に取って頂けると嬉しいです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 課金とかってわからないけど、応援しているのはわかる。 でも、デザロズの頃のファンがいっぱいきてるのね
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