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読み切りシリーズ 『ここからでも入れる保険があるんですか!?』

作者: 立花KEN太郎

「頑張れー!!」

「ファイトー!!」

「後1本!!」


 俺は中学3年生の御子柴一郎(イチロー)

 今日は剣道部の総体、つまり最後の夏ってことだ。

 俺は3年間必死で部活頑張ったおかげで、先生や部員のみんなから信頼されて、主将で団体戦の大将をやることができた。

 そして今、地区大会の決勝。

 これに勝てば、1枠だけの県大会の切符を掴むことができる。弱小校の俺たちにとって、5年振りくらいの栄誉を手にするまたとないチャンスなんだ!


「はぁ……はぁ……やあああああああああ!!!」


「つぇぁあああああああ!!!」


 竹刀を中段に構えて、互いを威圧するために俺と対戦相手が叫ぶ。

 相手は強豪校の佐藤って人、個人戦でも優勝候補の強敵だ。

 正直、分が悪い……でもここまで、安達・福田・杉本・岡田の4人が2勝2敗同本数でつなげてくれたんだ、絶対に勝って県大会に行くんだ!!


 ――浮いた面が来る。俺がここまで粘ってきて相手も焦ってるんだ、これは返して胴を打てる!!


「――めんんんんんんん!!!」


「っ、どぉおあああああああ!!!」


 パァン――!!


 決まった……完璧だ……これは1本に違いない!

 でもこの後気を抜いていたら監督にドヤされる、しっかり振り返って、相手を見て残心する!


「……っ、くっ」


 ……何だ?

 相手の人が倒れてる、足首を押さえて痛そうにしている……?

 3人の審判の旗は俺の方に上がっていて1本は確定したけど、今はこの人の方が心配だ。


「だ、大丈夫か!?」


 俺は駆け寄って声をかけたけど、佐藤は苦悶の表情で首を横にフルフルしている。


「く……ダメだ……」


「そ、そんな……」


「早く呼べ、早く!」


 審判の人が血相を変えて助けを呼ぶ声が狭い会場に響き渡る。

 審判の人、相手の味方チームと俺のチーム、前の方で見てるお偉方さん、それから後で観戦してる他の学校のヤツらと保護者の方たち、全員が佐藤に降りかかった異常事態に騒然としている。

 俺と佐藤との試合、俺が今1本取って勝ってるけど、これは……。


「ちくしょう……」


 佐藤の絞り出すようなかすれ声が俺の胸をつんざく。

 こんな、こんな終わり方ってアリかよ。

 治療すれば立てるんだろ、軽く捻っただけなんだろ!?

 このまま終われば俺の勝ちだし、確かに俺は部のみんなのために勝ちたいと思ってたけど……こんな勝ち方で納得できるかよ!

 なあ、立ってくれ、佐藤!


「こんな、時に……」


 そうだよなあ、辛いよな。

 お前だって俺と同じ、この日のために一生懸命練習してきたんだ。

 それが、不慮の怪我で、全部パーになっちまうんだ。

 そんなの嫌だろ? だから……立ってくれ、立ってくれよ。

 俺は本当の意味で、お前に勝ちたいんだ……!














「――ここからでも入れる保険があれば……!」






 ……は?


 え? は? 何? 保険? 何言ってるのこいつ?


 いや治療費の心配してる場合じゃないでしょ、目の前の試合の心配しろよ! 俺と決着つけようとしろよ!


「……あ、あのさ、今保険とかそう言う場合じゃ……」


「オレは保険に入ってないんだ! もう終わりだ!」


 諦めんなよ、多分治療費払えるよ! ――じゃなくて保険とかどうでもいいから! 早く立ってくれ!


「――佐藤!! お前まさか、スポーツ安全保険に入ってないのか!?」


 ……相手校の監督!? アンタも保険の心配してんの!?


「……はい、すみません」


「何をやっているんだ!! お前が立てないほどの捻挫、治療費は数万円は下らないぞ!!」


「そうだそうだ!」

「いつも先生が口酸っぱく言ってるのに!」

「見損なったぞ!」

「せっかく数万円を補償してもらえるチャンスを!」


 相手校私立だけど、理事長が保険会社の社長でもやってんのか? そうじゃなきゃ監督とチームメイトの全員が、怪我そのものより怪我の治療費を心配するなんて狂った事態にはなんねーだろ!? ……いやそれでもおかしいわ!

 つーか数万円って! 確かに高いけど骨折とかよりマシだろ!? 重傷負ったみたいに冷や汗ダラダラで心配すんな!!


「――御子柴!! ちょっとこっち来い!!」


 え、俺の学校の監督の三嶋先生!? 血相変えて俺のこと呼んだけど、俺何かまずいことしたのか!?


「――はい、何でしょう!?」


「あの佐藤ってヤツは!? どうなってる!?」


「見た通りです、立ち上がれないほど悪い捻挫で……というか聞いてください、あの人たちおかしいんです! この状況で何か保険がどうとか言い出して!?」


「何ィ!? 佐藤は保険に入ってないのか!?」


「……………………え? ……あ、その、そうみたいっすね……」


 相手校の面々同様に様子のおかしい三嶋先生は、俺の回答を聞いて何故かうなだれた。


「御子柴……佐藤は、もう、助からん……」


「……えええええええええ!!? い、いやいや、ただ数万円損するだけですよ!? つーか何で怪我そのものの心配しないんですか!?」


「金額の問題ではない!! 保険に入ってないことそのものが問題なんだ!!」


 どうしちゃったんですか先生!? いつものめっちゃ厳しいけど根底では俺たち生徒のことを第一に考えてくれるインテリヤクザみたいな貴方はどこに行ってしまったんですか!?


「おいみんな、俺先生が何言ってるか全然わかんねーんだけど!?」


「――はぁ!? 先生の言ってることは正しいだろ、イチロー!」

「なあ! 保険入ってないからダメ、ただそれだけだ!」

「何で御子柴先輩はそれがわからないんですか!?」

「熱でもあるんですか!?」


 ……どうしたんだ、一体。

 俺が艱難辛苦を共にしたチームメイトが、訳のわからない思想に取り憑かれている。

 何が保険だ。保険に入ってないから何だってんだ。

 今は選手生命に関わるかもしれない怪我を負った佐藤の方が心配なはずだろ。

 その点審判の人は優秀だ、ちゃんと担架で運ぶ人員を呼んできているのだから。


 ……ほら、今大人の人が2人到着し――


「ダメでした! 今から入れる保険なんてどこにも!」

「怪我した後じゃ遅いです!」


「そうだったのか、くそう……」

「やはり、ダメか……」

「救えないのか……」


 お前らもか。

 さっき人を呼んだのは今からでも入れる保険を探すため? 何だその冗談みたいな状況は。


「ああ、そんな、どうして保険が……」

「こんな残酷なことが……」

「ううう……」

「ひどい、ひどいよ……」

「救いの手は無いのか……」


 か、観客の皆さんも……。

 いや残酷なのは試合途中で怪我して続行不可能なこと! 数万円で絶望するとかいつの時代の話だよ!?

 てか誰かあいつの、佐藤の怪我の手当てしろよ! 何でみんな諦めて泣き出してるんだよ!

 ああもう俺がやる、面を外して救急セット持って、あいつのところへ……!


「おい、足首のところ見せろ! 応急処置ぐらいできる!」


「気遣いありがとう……だが無駄なんだ、俺が保険に入ってないせいで、申し訳ない……」


「そういうのマジでいいから! 無料だから素人の俺が包帯巻くぐらい!!」


「ちくしょう……こんな俺にも……」


「おいシカトすんなボケ」


「……ここから入れる保険があれば、誰か教えてくれ……!」






「――そんなキミに教えるクマ!」


 ――ええええええええええええええ!!?!!?

 2頭身のぬいぐるみのクマが喋ってる!?

 何でぬいぐるみが立ってる!? 何でぬいぐるみが喋ってる!? 何でクマ!? 何でこいつが保険のこと教える!? そもそもこいつ試合会場の中心に立ってるけど、どこから現れた!?

 もう比較的腑に落ちる点が、このクマがテ○ィベアサイズってことぐらいしかねえ!!


「あ、あなたは!」


「保険に入ってなくて、ピンチの時に助けてくれる!」


「「「「「ホケングマーーーー!!!」」」」」


 おい何さらっと「皆さんご存知の」みたいに言ってんだ周りの人たちは。つーか名前がこの上なく安直だな! 語尾もこの上なく安直だし!


「――ねえねえ困ってるクマ? 保険なくて困ってるクマ?」


「「「「「困ってるーーーっ!」」」」」


「今怪我してる男の子は保険入ってない! これは大ピンチクマね!」


「「「「「助けてーーーっ!!」」」」」


「そんな時こそ、ここからでも入れる保険を紹介するクマ!」


「「「「「ここからでも入れる保険があるんですか!!?」」」」」


「その名も『即時傷病保険』!! 怪我して5分以内なら誰でも入れて、しかも保険がすぐに下りるクマ!」


「「「「「やったーーーーーーっっ!!!」」」」」


 皆さん練習したみたいに綺麗ですね。

 つかこいつ本当に誰だよ。何で保険教えるんだよ、しかもそんな都合のいい保険。

 もうマジで意味わからん、この状況誰か説明してくれ。


「――おやあ、ノってない人がいるみたいクマねえ……そこのキミ!」


「……っ!? ……はい、全然状況が理解できないので。とりあえず、あなた誰ですか?」


「ボクの名前はホケングマクマ!」


「さっき聞いたわ! みんな知ってるみたいだけどな、俺は全く知らねえぞお前なんか!! どういう生き物で何の目的で保険を紹介してるか言え!!」


「――みんなー、説明が欲しいクマ?」


「「「「「欲しい欲しいーーーっ!!」」」」」


「というわけで教えるクマ!」


 毎回それやんなきゃダメなの?


「ボクは『ベアベア大衆保険株式会社』の営業係クマ! 保険に入ってない人に売り込んで、いざという時の保険を用意してあげる素敵な紳士クマ!」


 何一つわからない。何一つ腑に落ちない。会社すら知らないし、それも説明して欲しいところだがキリがなさそうだ。

 つーか、こんな時に売り込みに来るな!!


「……あのさ、状況わかってる? 俺とこいつ、今、試合中。こいつ怪我した、保険の紹介より手当ての方が先だろ?」


 正論を言ったつもりだったが、このクマは「わかってないな〜」という顔で人差し指を横に揺らした。


「チッチッ……どうやらキミは、保険に入ってないことの恐ろしさをわかってないようクマねえ……」


「悪い、俺部活に打ち込みすぎて勉強全然できないんだわ。バカにもわかるように教えてくれ」


「みんなー、教えて欲しいクマ?」


「「「「「欲しい欲しいーーーっ!!」」」」」


「というわけで教えるクマ!」


 早くしろや。


「えーと、御子柴くんは一生涯の医療費がどれだけか知ってるクマ?」


「え……数十万円とかか?」


「全然足りないクマ! 日本人の生涯医療費は平均約2500万円(平成25年度)クマ!」


「に……っ!?」


「でもこれは国民健康保険適用外の話! 適用すれば1〜3割の自己負担で実質500万円くらいクマ!」


「……ああ、何だ。そんなもんか」


「今感覚麻痺してるみたいだけど、500万も大金クマ! 大体カ○ーラ2台分クマ!」


「すまん、全然実感沸かねえ」


「それに、ガンや心臓病などの命に関わる重病を患えば、長期の入院費で1回300万円ほどはかかるクマ! そんな時、任意保険があれば休業補償なども併せて500万円は下りるクマ! 家族にも金銭的に迷惑をかけて安心、これが保険クマ!」


 何か決まったみたいな顔してるけど、だからと言って今お前が保険紹介してることの言い訳にはならねえ。


「おう、すごいな。でもこいつ捻挫。治療費高くても数万円なの」


「……捻挫舐めんじゃねークマ!! 重度の捻挫は内部出血、神経損傷、コンパートメント症候群、長期的には可動域障害、関節の変形、その他運動の障害を引き起こす可能性があるクマ!! 入院&リハビリ費用がどれだけかかるか分かってるのかクマアアアアアアアアアア!!!」


「う、ぐ……」


くそ、そんなに難しい言葉ばかりで捲し立てられたら、押し黙るしかないじゃないか。支離滅裂なこと言ってるのはどう考えてもこのクマなのに。

 ……ていうか、そういう重傷にならないためにまずは応急処置&病院だろうが!


「――オレに、保険を、教えて、くれるのか?」


 おいやめろ佐藤! どう考えてもこのクマおかしいぞ! 保険のことより自分の剣道人生心配しろよ! 這いずりながら手を伸ばす先はイカれたクマじゃなくて救急隊員だろ!


「もちろんクマ! さ、この契約書にサインを!」


 何か虚空から契約書が現れたぞ。魔法か呪術の類か? もうこの程度だとクマがいきなり現れたことに説明がつくから驚きが少なくなってきた。


 それより問題は、佐藤が某魔法少女みたいに危ない契約させられているという点。既に怪我の具合より保険の心配してるヤツに同情はほぼ無くなっているが、一応注意しよう。


「ま、待てよ。佐藤はまだ中学生、親御さんの同意とか必要なんじゃないか?」


「た、確かに。……母さああああああああんんんんん!!!」


 呼ぶなああああああああ!!!


「――リイチ! 保険の契約ね、ちゃんとハンコも持ってるわ!」


 持ってるんじゃねえよ! 剣道の大会の応援に実印を持ち込むんじゃねえよ!!

 そんなに用意周到なら前もって保険加入させておけ!!


「佐藤くんのお母さんクマね! これボールペン、必要事項に記入して欲しいクマ!」


「ちょ、ちょっと待て! まだ保険料支払いとか、規約とか詳しく聞いてないだろ!?」


「黙れ御子柴! オレは今大怪我を負って、今すぐ加入できるかどうかの瀬戸際なんだ! ピンチだから早くしねーといけないんだよ!」


 ピンチなのはお前の足首と頭で、早くしないといけないのは治療だろうが!


「……でも、心配よねえ。きっとお高いのでしょう?」


「大丈夫クマ、お母さん! この保険は年間掛け金もお得クマ!」


「まあ! 一体いくらかしら!」


「教えて欲しいクマ?」


「「「「「欲しい欲しいーーっ!!」」」」」


「それでは教えるクマ!」


 こいつ殴りてえ。


「中学生以下の子どもは年間1000円の掛け金! これは競合他社と比較して20%も安いクマ!」


「それは素晴らしいわ! それでこの場合いくら下りるの!?」


「この怪我の場合は足首も変な方向に折れ曲がってるし、治療費は10000円ってとこクマ! でもこれなら治療費が保険で全額負担されるクマ!」


「まあ!」


「さらにさらに! この保険は捻挫だけじゃない! 骨折、肉離れ、むちうち、アキレス腱断裂などの超重傷にも、スポーツ中に起こる怪我には全て対応してるクマ! それらも治療費全額負担! これ以上の手厚さは他に無いクマ!」


「いいじゃない! これにしましょうリイチ!」


「ああ、ハンコしてくれ母さん……」


 もう知らん。勝手に加入してくれ。

 そしてこのまま不戦敗になって俺たちに県大会出場の権利をよこせ。






「――ちょっと待った!」


 ………………誰!!?


「その保険より……当社の保険の方が、最高にクールでイカしてるワニ!」


 次はワニかよ!! 二足歩行でクマと同じくらいの大きさのぬいぐるみっぽいけど、無駄にドアのへりに寄りかかってハードボイルドにするな! 何やっても全部安直な語尾で台無しなんだよ!


「あ、あなたは!!」


「保険に入ってなくて、ピンチの時に助けてくれる!」


「「「「「ホケンワニーーー!!!」」」」」


 結局お前も安直な名前じゃねーか!!


「――お母さん、うちの『ワニワニ損保株式会社』の保険の方が、ずっとお得ワニ!」


 来るな! カウボーイハットをクイクイさせながら近寄るな!


「まあ! 一体年間いくらなのかしら!」


「教えて欲しいかワニ?」


「「「「「欲しい欲しいーーーーーっ!!」」」」」


「ならば教えようワニ!」


 こいつもグーで殴りたくなってきた。


「うちの『スポーツ総合保険』は年800円! さらに傷病時には治療費全額負担のみならず、休校時の給食費その他諸々分も支払われるワニ! どうだい、こっちの方がイカしてるワニ?」


「まあ! 200円も安いわ! これはこっちで決まりね!」


 上位互換が現れてしまった。これでは佐藤親子はワニの方の保険に加入するだろう。

 もう俺にとってはどうでもいいことだけど。


「――ま、待つクマ! 確かにそちらの方が年間の保険料は安い、だけど高額の治療費だと下りない場合があるし、それに高校生になってからは年1500円と割高クマ!」


「な、何故それを知ってるワニ!?」


「一方ボクたちの保険はどんなスポーツの傷病にも対応して、高校生からは年1100円! この先のことを見据えればずっとお得クマ!」


 おい余計なこと言うなクマ野郎! もう少しでこの地獄が終わると思ったのに!


「ぐ、しかし現在の状況に当てはめればうちの方がお得ワニ!」


「目先に囚われてはいけないクマ! こっちの方がお得クマ!」


「うちだワニ!」


「こっちクマ!」


「ああ、一体どっちを選べばいいの!?」


 もう迷わなくていいっすよ佐藤のお母さん。目瞑ってハンコ振り下ろして押された契約書の方でいいよ。


「――こうなったら、ここであったが21.226733805年目! 決着をつけてやるクマ!」


 細かいな。


「くらうクマ、レミントンM11-87スポーツマンシンセティックディア!!」


 さ、さささ散弾銃!!?


「ならばこっちも行くワニ、ベレッタA400ウルトラライト!!」


 おいいいい、保険勝負はどうした!? 急に血生臭い勝負になるな!!

 つかやめろ、流れ弾で死人が出るぞ!!


「や、やめてくれ2人とも……」


「「さ、佐藤くん!?」」


 いいぞ佐藤、止められるのは当事者であるお前だけだ!


「人は……なぜ、言葉を話すのか……それは、対話による解決をするためだ……暴力で解決しては、獣と同じだ……!」


「「……!」」


 めっちゃいいこと言ってるけど、そもそもこいつら人間じゃねーし! 普通に獣だし!


「確かに、ボクが間違っていたクマ……」


「ああ、俺たちはこんな手段でお互いに傷つけあってはいけないワニ……」


 よし、クマとワニが銃を置いた! とりあえず死者が出る事態にはならなそうだ!


「――言葉による解決、つまりラップバトルクマ! Yeahhhhhhhh!」


「そうだ、お互いを言い負かした方の勝ちだ、Foooooooooo!」


 何でだあああああああああ!!?!!?

 おい2匹ともサングラス掛けんじゃねえ、保険の内容で勝負しろよ!!


「Yeah! Yeah!」


「Yo! Yo!」


「Bear! Bear!」


「Croco! dile!」


「お前の保険は判押せん! 高額治療費支払い拒否! Bear!」


「お前の掛け金高すぎん!? 金額ご提示財布にダメージ! dile!」


「コロナで経済めちゃ後退! 蔓延防止解除しろ!」


「重症者数急増中! 感染拡大絶対阻止!」


「選択的別姓反対! ぜひ守護古き良き家族制度!」


「夫婦別姓大賛成! 役所手続き簡略せよ!」


「自国防衛急務課題! 抑止力としての核軍備!」


「非核三原則守れ! 平和憲法第9条!」


「ツイフェミなんて滅べばいい! 男性蔑視完全停止!」


「女性の人権最優先! 不当な差別女性への侮蔑!」


「坂本勇人岡本和真! 優勝読売ジャイアンツ!」


「近本光司大山悠輔! 優勝阪神タイガース!」


「共通テスト大反対! 二次で測れよ思考力!」


「思考力問題大賛成! 努力達成文科省!」


「きのこの山が至高の味! チョコ多し甘味素晴らし!」


「たけのこの里のみベスト! サクサク食感満足感!」


「親ガチャ観点同意完全! 才能環境選べない!」


「親ガチャ観点甘え判然! 当人努力棚にあげるな!」


「高齢者免許自主返納! 事故が起きれば周り巻き込む!」


「高齢者免許絶対必要! 田舎は車ないと詰む!」


 激しい戦いを繰り広げるクマとワニの足を、佐藤が掴んだ。


「もう……いい……戦わなくて……いいんだ、戦わなくて……」


 そう言って佐藤は、立ち上がり声高に叫んだ。


「俺は!! 両方の保険に加入する!!」


 はっとさせられるクマとワニ。そして両者、サングラスを投げ捨てた。


「――そうか〜、その手があったかクマ〜♪」


「こんな無意味な争い〜、もうやめるワニ〜♪」


 ミュージカルのように歌い出したクマとワニの首が折れ、中から小さなダイオウグソクムシが出てきた。

 2匹はカサカサと飛び出して、短い脚で堅い握手をした。


ダ1「両方の保険に入れば〜保険金は2倍〜♪」


ダ2「力を合わせれば〜より大きな出来事が成し遂げられる〜♪」


三嶋「そう手と手を繋いで〜♪」


相手校監督「心クロスさせれば〜♪」


福田「世界は〜♪」


相手校選手1「平和に〜♪」


佐藤「なるのさ〜♪」


 会場の体育館の大窓を突き破り、お菓子の音楽隊がゾロゾロと入ってくる。

 チョコレートの楽団員がピアノに座り、軽快な音を奏でる。


ピアノ「テッテッテッテ、テッテテッテッテ、テッテッテッテ、テッテテッテッテッ、テッテッテッテ、テッテテッテッテッ、テッテッテッテ、テッテテッテッテッ♪」


ガム「空に残された〜淡いシャボン玉は〜♪」


アメ「どこまでも登ってって〜割れてしまう〜♪」


ポテチ「そんな風にボクらの出会いも〜♪」


クッキー「消えてしまうのかな〜♪」


佐藤「――否!!」


ふがし「そう絆は消えない〜♪」


するめいか「永遠に〜♪」


昆布「春、桜の咲き誇る日も〜♪」


アイス「夏、草木が騒ぐ日も〜♪」


鯛焼き「秋、紅葉が揺れ落ちる日も〜♪」


お汁粉「冬、雪の白が照り映える日も〜♪」


相監「どんな時でもあなたを思い続けるよ〜きっと〜♪」


三嶋「夜ご飯を毎日考えるように〜♪」


全員「「「「「……そう! 手を繋いで心繋ごう〜世界はみんな兄弟さ〜♪」」」」」


ダ1「だから、一緒に行こう! 御子柴くん!」


ダ2「夢あふれる希望の未来へ!」


 2つの小さな手が差し伸べられる。

 それは本当に小さいけど、確かに大きく、暖かく、希望の未来に満ちているようで。

 輝かしい栄光への道、進むしかない……!


御子柴「そう! 俺たちはみんな地球の家族〜♪」


安達「母なる!」


福田「大地に!」


杉本「生まれ育った!」


岡田「同志たち!」


佐藤母「And I say-ay-ay-ay-ay I will be with you forever〜♪」


ドーナツ「怖くなんてないさ〜♪」


金平糖「一緒にいれば〜♪」


ダ1「保険があれば〜♪」


ダ2「保険があれば〜♪」


三嶋「どこまでも一緒に〜♪」


相監「行けるはずさ〜♪」


佐藤「俺たちの〜希望の〜♪」






全員「「「「「みーーーーーーーーらーーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーーへーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!♪」」」」」


ワアアアアアアアアアアアア!!


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!




















_ー_ー_ー_ー


「――それでは、保険証と診察券をどうぞ」


「はい」


「お預かりします。御子柴さん、本日はどうされましたか?」


「40度くらい熱があるんですけど」


















「熱ですか。今からでも入れる保険があるんですけど、いかがでしょうか?」

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