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魔眼持ちの天才魔術師とただのスライム  作者: マウンテンストーン
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転生!失敗?

初投稿です

 真っ白な世界を俺は漂っていた。上も下も無くただただ無限に続く白の中で俺は自分がその一部に溶けて行く感覚を感じていた。恐怖はなく胸の中に転がるような寂しさだけがあった。だが、逆らうような気力も持てず、ひたすら空の中を漂い続けていた。だが突然、呼ぶ声が聞こえた。その声には具体的な言葉ではなく、また俺個人を呼んだ物でもない。ただ、その声の中にあった寂しさが俺の心に食い込んだ。虚空の中、声の聞こえる方をみると空に穴が空いていた。穴に向かって懸命にもがく。存在しない喉を振り絞り声に応える。形のない手足を振りまわし、少しでも穴に近づこうとする。一際強い声が聞こえたと思った瞬間俺は穴に吸い込まれていた。穴の中をひたすら落ちて行く感覚と共に俺の意識は遠のいていった。

 

 赤ん坊の笑い声が聞こえて俺は目を覚ました。目を開くとそこには緑鮮やかな葉をつけた木の枝が広がっており、その間からは青い空がのぞいていた。

(なんだかすごく変な夢を見てた気がする…ここは森の中か…?)

寝ぼけながら体を起こそうとして、俺は上手く体が動かないことに気づいた。困惑の声を出そうとしたが、喉がうまく動かない。目の前では短い棒か塊のようなものが動いているし、赤ん坊の笑い声は相変わらず響いていた。俺は考えを整理するため、とりあえず、周りものについて考えてみた。今俺は何か柔らかい布の寝床にいるようだ。さらに目の前で動いている棒をよく見て、それが、間違いなく赤ん坊の手であることに気づいた。

(ということはこの手の主が泣き声をあげてる赤ん坊ってことだな)

 そこまで考えたところで俺はとあることに気づいた。この赤ん坊の手は俺の視界の両端から来ている。というより、俺から生えている。声もそうだ。この声は俺自身から聞こえている。今いるここもベッドというよりこじんまりした籠のようなものだ。つまり結論は一つ。

(俺…赤ん坊になってる!)


 衝撃の事実に気づいた俺は、頭を巡らせ、こうなった理由について考えてみる。

(確か俺はコンビニに雑誌を買いに行って…ふと道路を見たら子供が道路に立っててトラックが走ってきてた。咄嗟に飛び出して子供を庇ったんだ。それですごい衝撃を感じて意識を失った。じゃあ、俺はあの時死んでてこれはもしかして転生ってやつなのか?本当にあったなんて…)

 そんなことを考えていると、手に何やらひんやりとした感覚が走った。粗相でもしてしまったのかと思いそちらを見ると何やら青い塊のようなものが籠の内側に入り込んできていた!液体とも個体ともつかない不定形のその姿は前世でゲームなどにいたとある怪物のことを連想させた。

(うわぁ!ひょっとしてコイツ、スライムか!)

 スライムと言えば一般的には弱いモンスターという印象があるが、作品によっては物理攻撃を無効化し、人間を貪る恐ろしいモンスターのこともある。いやたとえ弱いモンスターだったとしても赤ん坊でしかない俺ではどうしようもない。俺は必死で手足をばたつかせて逃れようとしたが抵抗虚しくスライムはこちらに覆い被さってきた。

(せ、せっかく転生したのにこんな死に方嫌だぁー!)

「聴き慣れん声がすると思えば…まさかこんなところに捨て子とはのぉ」

 もがく俺の耳に落ち着いた声が届いた。しわがれた手がにゅっと籠のなかに伸びてきて、スライムをむんずと掴み放り投げた。驚く俺の目にファンタジーの魔法使いのようなただならぬ雰囲気を持った白い髭の老人が写った。どうやらこの老人が助けてくれたらしい。

「なるほど、魔眼の持ち主とは。両親は手に負えなくなって捨てたというわけじゃな。これも何かの縁か…」

 老人は籠を覗き込むと慈しむような目で俺を見つめた。

(おぉ、なんだか拾ってくれそうな流れだ。しかも今魔眼って聞こえた!そんな凄そうな能力まで俺は持ってるのか?)

 昔読んだネット小説のようなとんとん拍子の流れだ。この勢いならもしかしたら俺はそれこそすごいやつになれるかもしれない。前世では暗かった俺の人生も明るい物になるかも…そんな呑気なことを考えていると今まで優しい雰囲気だった老人のこちらへの眼差しが急に険しくなった。

「んん…?なんか変じゃなぁおぬし」

(な…なんだ。急にそんな怖い顔してどうしたんだ。こっちは赤ん坊ですよ〜)

 困惑した俺はとりあえず愛想笑いしてみる。だが老人はそのまま射るような眼差しでこちらの瞳を覗き込んだ。こちらを探るように目の焦点が動き、一点に定まった。

「見つけたぞ。何か憑いとるな」

『魂を掴む』(パルマ ティス アニマ)

(がっ!あ…あぁ!えぁ!)

 俺は突然首を絞められたように息ができなくなった。見ると老人の手が半透明になり、俺の…いや、赤ん坊の体に突っ込まれていた。だが、そんなことになっているにも関わらず赤ん坊は意にも介さずけたけたと笑っていた。俺は本能的に理解した。今老人の手に掴まれたことによって俺と赤ん坊は明確に別の存在になってしまったことを。老人は俺を掴んだまま赤ん坊から手を引き抜いた。老人の手のなかで俺は肉体が存在しない寂しさと、これから起こることへの恐怖に体もないのに震えた。

「そこまで強い未練も感じんなぁ、浮遊霊か?握りつぶすこともなかろう。さっさと帰るべき場所へ帰れ」

 老人が手を離すと俺は糸の切れた風船のように空に浮きあがっていった。意識が薄れていく中でもがいてみるが浮き上がる体を止めることはできなかった。なんとか下に戻ろうと体をばたつかせていると下にいる赤ん坊と目が合った。赤ん坊はさっきまでの笑いをやめてキョトンとした顔でこちらを見つめていた。そのあどけない顔を見るとなんだか未練と恐怖が薄れて行くのを感じてしまった。

(あのまま体の中にいたらあの子の人生を乗っ取ることになっていたかなあ。そう思うとここで気付かれて良かったのかもしれない)

 あの子の人生に幸運を祈りつつ俺はこのまま大人しく成仏することにした。いまだにこちらをを見つめている赤ん坊の目は不思議な銀色をしていた。前世でも見たことのないその瞳を見て、俺はまるで吸い込まれそうな感覚に…いやおかしい。この距離でいくらなんでも目の色がわかるはずがない。俺は異常事態に気づいた。赤ん坊の体が浮かび俺の目の前まで飛んできている。俺は宙に浮かぶ赤ん坊というあまりの事態に呆然としていた。老人も俺と同じように驚き、あんぐりと口を開けていた。これは成仏しかけている俺が生んだ幻覚だろうか。それとも赤ん坊も俺と同じ亡霊だったのだろうか?そんなことを考えているうちに赤ん坊は俺に追いついていた。そして、にっこり笑いながら魂だけになっている俺をガシリと掴んだ。

「まさか、見ただけでわしの魔法を真似したのか!」

 下から響いてくる老人の驚愕の叫びを聞きながら俺はひたすら困惑していた。掴まれたせいか意識ははっきりしているがこれからどうなってしまうのだろうか。また赤ん坊の中に戻されるのか、ボールのように放り投げられるのかはたまたこのまま揉み潰されるのか。掴まれたままの俺の不安を知ってか知らずか赤ん坊は地上に降り立った。そして、あたりを見回すと何か思いついたのか無邪気に笑い、俺を握ったままハイハイでどこかに進み始めた。

(痛い痛い。擦り付けられてる感じがする!地面に!)

俺は悲鳴を上げながら、赤ん坊の考えを少しでも理解するために進行方向を見ようとする。そこには先ほど現れたスライムが転がっていた。

(ま、まさか…)

俺が赤ん坊の顔を見ると赤ん坊もこちらを見てあどけなく笑い、そして俺をスライムに押し込んだ!

(ウ、ウワー!なんだこれ、何、何?どーなってんだ?)

俺は突然現れた未知の肉体の感覚に目を白黒させた(目はないけど)。大きな袋の中に押し込まれたような感覚がするが不思議と圧迫感はなくただ頼りなさがあった。四苦八苦する俺のまえにいつの間にか髭の老人が立っていた。

「なるほど、こいつは自分で呼んだという訳か」

 老人はそう言って赤ん坊を抱き上げた。

「とんでもない魔術の才能じゃなぁ、無意識に魂を召喚するとは…正しい使い方を学ばねば災厄にもなりかねん。わしが手解きしてやろう」

 老人が赤ん坊を持ち上げ籠に戻し、一声呪文のような物を唱えると、籠はふわりと浮かび上がった。相変わらず楽しそうに笑う赤ん坊を尻目に老人はこちらに視線を向けた。俺は恐ろしくなり震えた。スライムになってしまった今、炎の魔術か何かであっさり焼かれてしまうかもしれない。

 老人は鼻を鳴らすとこちらに背をむけ、赤ん坊を浮かばせて歩き始めた。

「そう怯えんでも良いわい。あの子が望んでお前を助けたなら、わしがどうこうはせんよ」

 どうやら焼かれはしないらしい。俺は少し考えたが、赤ん坊のことがどうしても気になった。それにどうせ他に行く所もない。俺は心を決めると老人の背を体を弾ませながら追いかけていった。こうして、俺の異世界での第二の人生はが思わぬ形で始まった。


 



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