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デッドライフ・パラレル  作者: 蘇我烏
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矛盾

 

 一瞬の間、私の頭の中で様々な可能性が飛来する。


 ここに来た直後のように彼女がさらわれた可能性、あるいは人間がいる事を確認したので、悪漢か何かに襲われた可能性、再び転移装置が誤作動を起こして彼女だけがまた別世界に飛ばされた可能性など様々だ。


 そもそもの大前提、彼女はダンジョンコアに囚われているはずではなかったのか?まさか、ダンジョンコアが割れたか、彼女が死んでしまって、それで……。


「たいさー」


 ああ彼女を探しに行かなければ、遺体はどこだ?


 私は『死体操作術』の心得はないが、彼女のアイテムボックスにいくつかあの技術に関するノートが納められているはずだ、なんとしてでも彼女を生き返さないと。


 しかし、私にできるのか?私の可愛いネクロマンサー、くそっ、こんなことならゴブリン位小粒なんだから放置しておけばよかった。


 私の落ち度だ。何を浮かれていたんだ。あそこの慰み者の彼女達を偲んでいる暇はない、今すぐにでも出発してーーー。


「大佐、ハンネス大佐」

「ちょっと待ってくれゾニア。今すぐに私はゾニアを探しにいかないと行けないんだ」


 奥の部屋の岩肌にしか見えない扉を開けて、こちらを見るゾニアに私は煩わし気に手を振って見せ、いやゾニア?


「ああ、大佐。おかえりなさい。大量ですねえ」

「ぞ、ゾニア……、ゾニア!生きていたのか!?」


 はふり、と一つ欠伸を零す彼女に、私は安堵して駆け寄った。


 小さい頭を掴んでそのまま撫でようとすると、ゾニアはまるでお父さんの長年履きつぶした革靴でも嗅いだ猫のように一気に毛を逆立てて後ろに下がると、思いっきり鼻をつまんでむせる。


 臭い、のか。


 私は臭いのか!?


 考えてみれば衛生観念などどこぞへと落としてきたゴブリンの巣窟を密閉してその中で大暴れしたのだから、返り血とか得体のしれない汁とかで汚れているので異臭がするのは仕方がない。


 が、あまりにも大げさなリアクションに柔らかな心にダイレクトアタックを決められた気分だ。リーダーゴブリンの首折りよりも効く。


「失礼しました大佐……お怪我は?」

「首を折ったけどもう直るよ」

「ああ、……あとで首を見せてください、その、軽く体を洗ってから」

「うん……」


 辛そうな顔で申し訳なさそうに言う彼女に、私はすごすごと洞窟の外で着替える事にした。


 軍服をアイテムボックスに戻して軽く体を拭くと、同じくアイテムボックスから一応必要だろうと替えの服へと着替える。軍服じゃなくてシャツにズボンと恐ろしくラフな格好だ。洞窟に似つかわしくない。軍服も別に似合ってはいなかったが。


 アイテムボックスの中は便利だ、汚れや皺を綺麗にしてくれるクリーニング機能付きである。いつでもかっこよくいてほしいとのゾニア至っての希望だが、こんな時だからこそのお役立ちになんとも悲しくなる。


 戦後処理って、大変なのだ。


 ある程度身ぎれいにして戻ると、ゾニアは洞窟外で縛られているゴブリン達を軽く確認した後、熱心に死体の検分を行っていた。


「随分なお土産ですね」

「気に入らないかい?」

「いいえ、特に人がいるのが好ましいです。人間がいる事は確定してましたが、文化やここら辺の地理はダンジョンコアでは補えませんから」


 ゾニアは息絶えたラティナと言っていた娘の亡骸を撫でた。


 一瞬だけ複雑な気持ちになるが、すぐに押しとどめる。若い女の死体は有意義に使える、肉が柔く骨が脆く、それでいて次代を繋ぐ器としての多様性を秘めている。


 ましてやこの状況だ、埋葬などといった方法で資材を無駄にするのは損ばかりでメリットがない。

 目をそらしながら、私はそういえばと一応確認のために疑問に思っていた事を口に出した。


「ところで、ゾニア、二つほど聞きたい事があるのだが」

「なんでしょう」


 私はそこで、ゴブリンの人間の女をつかった繁殖行為と、リーダーゴブリンの見せた一瞬のみの妙な強化について彼女に問うてみた。


 するとゾニアは一瞬考え込み、足元のゴブリンの死体へと死体を落とす。


 一際大きいリーダーゴブリンの死体は彼女が興味を引くかと思って死体の山のてっぺんに積まれている。


 ゾニアは顎に手を当てると穏やかに唇を開いた。


「ゴブリンに対しての生態はそこまで詳しくはわかりませんでした。おそらく、ダンジョンに召喚すれば詳しい生態情報が開放されるかと」

「そうなのか、私はもしかして知ってて言わなかったのかと」

「その場合はきちんと言いますよ。大佐、お人よしなんですから」


 私の一番の懸念である、ゴブリンの巣でのあの凌辱惨劇が彼女の思考の範疇になかったことに少しだけほっとした。


 ゴブリンの巣を襲わせたのはゴブリンの死体だけでなく、彼女達がいる事を理解しての事かと考えていたのだ。もちろん、その旨を告げられていても私はあの巣に赴いてゴブリンも女も殺していただろうが、気の持ちようが違う。


 今回は不意打ちと洞窟の閉鎖が上手く行ったからいいがゴブリン達がもう少し賢くて冷静だったなら彼女達を人質や肉盾にしていたら、間違いなく私は躊躇っただろう。ましてや、崩落が入り口だけでなく内部にも至っていた場合、彼女たちが潰れて死んでいたとかになる可能性もあった。


 そうなったら間違いなく私は落ち込む。


 彼女たちを死なせたばかりか、死体すら使えない状態にしてしまうのはあまりにもあんまりな失態だ。

 それに、やっぱり、きちんと安らかに死を迎えさせてやりたいと思うのはエゴなのだろう。


「リーダーゴブリンの強化に関しては、大佐の首を折れるほどとは思ってませんでした。ごめんなさい、情報の共有が疎かでしたね」


 ゾニアはそう言いながら、コンソール画面を手元に呼び出すと、すっとリーダーゴブリンに向けて手のひらを向けた。


 青い光が伸びて、リーダーゴブリンのデータをスキャンする。新しいウィンドウが空中に開いて、私からしたら馴染みのあるような、ないような文字列を並べた。


「これがこのゴブリンのステータスです」

「ものすごく目が滑るな」

「大佐はゲーム画面でも攻撃力とかしか見ないからですよ……」


 殴れば勝てるんだからそれでもいいだろう。


「この欄に注目してください、これがスキル。魔神と神が己の眷属に与える特別な能力になります」


 そういわれて、私はゾニアの指さす欄の部分を見てみる。


 《小鬼の致命(ラッキーゴブリン)的一撃(ストライク)》、そう書かれたスキルがリーダーゴブリンのスキル欄と記載された部分の枠を埋めていた。


「効果としては、瀕死に近づく程に威力と命中が上がる、というもののようですね」

「ああ、つまり死にかけてたからこれが発動したのか」

「他のゴブリンを見る限りこのスキルを取得しているのはこいつだけのようですね。そっちの生きている個体は分かりませんが」


 油断していた私が食らうには十分、という訳か。

 ゾニアはうんうんと頷くと、リーダーゴブリンの死体をゴブリンの死体の山から隔離した。


「これはちょっと置いておきましょう。少し試したい事があるので」

「分かった」


 取っておく死体は人間の娘三人と、リーダーゴブリンだけだ。


 後は軒並み実験に置いて使われる。


 実験、というのはまずダンジョンコアの支配するフィールドの範囲確認。ゾニアの認識に齟齬がないか、というものと、ダンジョンの死体の吸収範囲と対象の確認だ。


 前者はともかく、後者は割合と重要である。


 ダンジョンから何歩ほど出れば死体が吸収できなくなるのか、どの程度の瀕死加減で死んだとダンジョンは認識するのか、吸収するのに時間はどれほどかかるものなのか、それによって今後の動きというものが変わってくる。


 ゾニアはネクロマンサーだ。死体を全てダンジョンに還元していては、彼女を本当の意味で守る者が私しかいなくなってしまう。


 ダンジョンコアから魔物を排出させることは可能だそうだが、ゾニアに寄生した事を考えると、どこまで宿主に対して友好的か、支配権が本当にゾニアにあるのか疑わしいとの事で利用するのは最低限にすることにした。


 実はゴブリン達が全員巣に帰ってくるのを待たずに全滅させなかったのはここにもかかってくる。

 生態系を崩すのを躊躇った、というのもそうだが、ある程度の個体数を残しておくことでいざというときに簡単に狩れる生き物を用意しておくのは重要だ。


 ゴブリンは弱いが、増える事だけは定評があるらしい。ゾニアが危険に晒される事になった場合、ゴブリンを大量に狩って死体を作り、低級のアンデッドとして数を揃えたり、合成して強化してやる事で時間稼ぎが出来るようになる。


 全滅させてしまったら、死体は増えない。死体は有限な資材なのである、鮮度があり、個数に限りがある。


 無限にするにはどうしたって元になる生き物が必要なのだ。


 私はゴブリンの死体をダンジョンにばらまきながら、怯えて団子になるように隅に寄るゴブリン達を見た。


 このゴブリン達はそんな生きるための幸運からはぐれた可哀そうな連中だ。


 自業自得とは言わない。彼らだって生存するための術だったのだから。


 でもあの凌辱された女たちを見て、私は穏やかに拳を握った。見てしまった事はなしにできない、彼らには精々ゾニアの為の糧として苦しんで死んでもらう事にする。


 私が逃がした事で、どこかの娘がまた彼女達と同じ目に遭っているかもしれないという矛盾からは目を背けつつ、私は手前のゴブリンを手繰り寄せた。


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