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デッドライフ・パラレル  作者: 蘇我烏
10/11

イキりゾンビお父さん

 イキりゾンビだった。


 私の事である。


 ゴブリンが雑魚だと聞いていた事、ゾニアに手を貸してもらっていた事、後は初めて外に出て一人で戦闘に調子を乗りまくった事の3コンボをかましてめちゃくちゃにイキった結果がリーダーゴブリンの首折りアタックだった。


 苦痛のうめき声に泣くゴブリン達を片隅に集めて、私は遠い目をした。


 今回死んだゴブリンは巣にいた半数ほどで、残り半数は奥の方で固まっていた子供を含めてまだ生きている。逃げられないようにゴブリン達の保有していた縄で縛りあげて、傷の手当も殆どされていない彼らは死んだような顔をして下を向いて静かにしていた。


 最初の狂乱ぶりはどこへやら、死の匂いに追い詰められて完全に心が折れている。


 それもそうだろう、我らがリーダーゴブリンがあろうことか素手で負けたのだ。強い怪物に巣で一番の戦士が倒されて、完全に逃げ場を失ったことを察した彼らの諦めは早かった。


 まあやけくそになった奴はほとんど即殺だったし、仕方ないよね。諦めてくれた方が仕事は早いので、助かるといえば助かる。


 死体の山を彼らの隣に並べるとますます陰鬱な空気に拍車がかかるので、ちょっと離れたところに積み上げて、私はすっかりと返り血で汚れたコートを軽く払った。


「さて、問題はここだなあ……」


 洞窟の通路の中でも湿っぽく、それでいて他の部屋と比べれば厳重に守られた部屋、というよりは檻を見つめて、私は気を重くした。


 生き残りを集めている時に気づいたが、子供も含めてゴブリンは雄しかいなかった。蟻のように女王体制なのかと思ったが、先に王部屋……おそらくはあのリーダーゴブリンの部屋を見つけた事でその考えは払しょくした。


 古今東西、私の世界でたしなまれていたファンタジーでも、こういったセンシティブな案件にゴブリン達はつきものだった。一大ジャンルとは言わないが、凌辱物といえばゴブリンとオークが二大巨頭だと思う。

 檻の中には三人の女性が精神崩壊した状態で横たわっていた。


 三人とも衣服は着ておらず、玩具兼孕み袋にされたのは目に明らかだった。太ももについた痛々しい手形や、髪を掴まれて一部禿になっている頭、顔も体も殴られて痣だらけで、見ているだけで気分が悪い。


 死なないように、という最低限のラインだけを守られ続けて尊厳から精神から丁寧に丹念に破壊されてしまったのだろう彼女たちは、誰一人として私を見て反応を返さなかった。


 さらわれてからどれくらいの期間が経っているのかは分からない。膨らんだ腹の子がいるのも考えると、相当な時間を過ごしたようにも思える。

 たった三人でゴブリン達の相手をさせられ続けたのか、あるいはもう少し人はいたけれど死んでしまったのかは分からなかった。でも、ただただ哀れな彼女達に私はなんとも言えずに困惑した。


「ーーーぉ」


 小声で、三人の内の一人、度重なるストレスで髪の根元が白くなってしまった少女がどろりと濁った眼をこちらに向けた。


「おとうさん……?」


 掠れた声がぼそぼそと呟かれて、私は一瞬どう応えたものか悩み、躊躇った後に彼女の目の前で膝をついた。

 得体のしれない体液と血で固まった前髪を丁寧に払いのけてやると、正気を失った目が歪な笑みへと崩れる。冷たいだろう手にすり寄る様は死にかけの子猫のようだ。

 ぐず、と鼻を鳴らす彼女は切れた唇を懸命に動かした。


「ラティア、がんばったよ。いたいのがんばったの、こわかったの。でもがんばったの、えらい?えらいよね?えらい?えらい?えらい?」

「……」

「おとうさん、なでて」


 請われるままに頭を撫でる、意外と小さくゾニアよりも幼いのではないだろうかと思った。


 もう少しくらい殺してもよかったかもしれない。と、私は檻の外のゴブリン達を思う。生存戦略だといえど、彼女達の有様には明確な悪意があった。


 もっと残虐で、非道な殺し方をしてやるべきだったかもしれない。彼女達の事は全く知らないけれど、私は純愛派なのでこんな風に女の子が泣いているのを見ると酷く気分が悪くなる。


「おとうさん、おとうさん。いたいよ、こわいよお、どうしていたいんだろう。おなかがいたいの、いたい、いたいよお」


 甘えたような幼声に、徐々に熱が入りだす。腹の子が動き出しているからかもしれない。


 見たところ彼女が一番腹が大きい為、臨月が近く子供の存在がはっきりと分かるのだろう。


 異変を察知した腹の子が暴れる痛みに、狂った彼女の頭のネジが不運にもかちりと嵌る音がした。


「殺して」


 目が一気に座り、甘えた子供の雰囲気から絶望のどん底に落とされた狂女の顔がのぞく。


 腹の子供が蠢く胎動に、胃液ばかりの嘔吐をして彼女は身を丸めて腹を殴った。足をばたつかせて、手かせ足かせが嵌って満足に動けないでいるくせにこちらが仰け反るくらいのた打ち回る。


 まるで寄生虫に寄生された芋虫のように、苦し気で、ぎゃあぎゃあと泣く甲高い泣き声は聞いているこちらが可哀そうになるほど悲痛に満ちていた。腹を殴られれば、中にいる子が抗議するように外目でも分かるほど腹の中から外へと蹴り上げる。

 それでまた彼女は嘔吐して、いやな悪循環を繰り返していた。


「殺して、殺してよお!やだあ!ママになりたくないよ!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!助けて!!やだあ!怖い怖い怖い怖い!!殺して!!嫌だあ!!」


 繰り返される嘔吐と苦痛で、彼女の顔が酷く歪む。助けなんて来ないと諦めきってなお、産みたくないと泣きじゃくる姿に私はそっと彼女を抱き寄せた。


 暖かくもない体だし。心臓も動いていない。だがゴブリン出ない、という事だけで彼女は安堵した顔をする。縋るように胸に涙と鼻水と涎をこすりつけて、震える声で彼女は私ではない誰かに懇願した。


「たすけてよお、おとうさん」

「ーーーわかった」


 苦しめるのは本意ではない。私からしたら彼女はイレギュラーだ。


 だから、私は苦しまないように首に手をやり、自分がやられたよりもよっぽど優しく、なるべく即死できるように首の骨を折った。


 一瞬彼女は痙攣し、目を見開いた後つう、と目尻から涙を落して最期の息を吐く。疲れ切って壊れ切った彼女の最期の顔は酷く安堵したような顔だった。


「……嫌な気分だ」


 ごりっと気持ちが落ちるのを感じる。


 暖かい体からゆっくり熱が抜けていく彼女の体を横たえて、私はそれを皮切りに残りの二人も同じように静かに終わらせてやった。


 ラティアと名乗った彼女が元気だったのは恐らく妊娠していたから一時期に凌辱がセーブされていたのだろう。その代わりに残りの二人にターゲットが集中していたせいか、彼女達は私が抱き上げて声をかけても、終ぞ反応は返さなかった。


 結果的に今回の戦果はゴブリンの死体が28、ゴブリンが12、子供ゴブリンが10、人間の女が3人、ということになる。

 外に出ているゴブリンに関しては……正直先ほどの惨劇を見ると駆逐してみたい気持ちになるが、生態系を大きく荒らすと妙な面倒ごとになるとのゾニアの忠告を思い出した。


 私は正義の味方じゃない。


 一番に優先することは、ゾニアの事で、要らない正義感で首を突っ込む事じゃない。


 生きているゴブリン達には死体をできるだけ背負ってついてきてもらい、女の死体と余ったゴブリンの死体は私が無理やり背負って連れて帰ることにした。


 土砂崩れでふさがれた入り口を一撃で吹き飛ばし、傷を負って半死半生のゴブリン達を縄で引きずるようにして洞窟へと向かう。


 行きと違い荷物が多かったので、結局のところ行きの倍以上の時間をかけてゾニアの洞窟に戻った。

 死にかけていたゴブリンが死んでいたのは知らなかった事にして、とりあえず洞窟の入り口の中に荷物を置き、私は奥の方へと入っていく。


「……あ?」


 ゴブリン人形はなにも告げていなかった。緊急の事なんかなかったはずだ。

 連絡は一切来ていなかった、で、あるのにも関わらず。


 ーーー洞窟の中はもぬけの殻になっていた。


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