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「画のモデルだそうです。最初はそれほどの頻度ではなかったのですが、次第に宗方先生の行く先々に現れるようになったらしくて。この前の個展にも姿を見せたとか」
「まあ…」
奥さんは右手を口に当て、大きな瞳を見開いた。
「そんな女性が…」
「その…実は…男性なのです」
「え?」
奥さんが戸惑った。
「どういうことですか?」
どうやら彼女は、世事に疎いらしい。
「最近は珍しくないです。裸体の画のモデルとして宗方先生と出会い、恋愛感情をもってしまったのでしょう」
「そんな…」
奥さんは絶句した。
「宗方先生は、その男性とは穏便にことを収めたい意向で、警察ではなく、私に白羽の矢が立ったのです」
「そうですか…大丈夫でしょうか?」
「お任せください。前にも似たケースを扱ったことがありますから」
奥さんの顔が青ざめてる。
妙なことに、それがまた彼女の美しさを増して、艶っぽく感じさせた。
いかん、いかん。
依頼者の妻に惹かれて、どうする?
「あ。済みません。すっかり、話し込んでしまって。主人の様子を見てきます」
奥さんが立ち上がり、リビングから出ていった。
とにかく、宗方先生と詳しい話をしないと。
知人からの又聞きだけでは、手が打てない。
画家は、どのくらい集中力が続くものなのか?
俺の視線がふと、裏返された、たくさんの写真立てに止まった。
息子さんの事故か…。
つらかったろうな。
何か、深い意味があるというでもなく、俺は立ち上がった。
単純な好奇心で、写真立てに手を伸ばす。
裏返して、写真を見た。
テレビで見た宗方先生が写ってる。
隣は奥さんか…。
おや?
奥さんじゃないな。
違う女性だ。
次の写真も。
次の写真も。
全ての写真が、さっきの奥さんとは違う、同一の女性だ。
息子さんが写ってる写真が無いな。
これはいったい?
背後に気配がした。
振り返ると、何かが俺にぶつかってきた。
奥さんだ。
奥さんが、いつの間にか部屋に戻って、俺にぶつかってきた。




