表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮原少年の怪奇譚 ~桜無垢の巫女~  作者: 北森青乃
第1章 宮原透也という青年
9/49

殻の中

 



「------良かったわね」

「------だな」


 パパとママの会話がうっすら聞こえる。

 そっと目を開けると、助手席に座っているママと、車を運転しているパパが見える。

 笑顔で楽しそう。


「おばあちゃん! ありがとう!」

「大事にしてね?」


 横から聞こえてきた声の先では、おばあちゃんと真言が話をしている。

 自分の身長と同じくらいの大きなワニのぬいぐるみを大事そうに抱きかかえる真言(まこと)に、それを笑顔で見ているおばあちゃん。

 どっちも嬉しそうで、見ているこっちも自然とにやけちゃう。


「-------かんに行きたいわね。真白(ましろ)覚えてる? ……真白?」


 聞こえてきたママの声にわたしは視線を戻す。


「ん? なに?」


「どうしたのよ、ボーっとして」


 ママは不思議そうな表情を浮かべながら、横目でこちらを見ている。何度かわたしを呼んでたみたい。


「ごめんごめん。なんでもないよ。それで?」


「それならいいけど……。あっ、後ろにあるママのバックからお財布取ってくれない?」


 ママはそう言うと、わたしたちの後ろの方を指差す。座席の後ろには、わたし達の荷物が入っているボストンバックやお土産が置かれている。


「うん。わかった」


「お願いね」


 わたしは体を後ろに向けると、背もたれを乗り越えるような格好ででバックを探し始める。真言のバックに、パパのリュック。その横にママのバックがあった。それを掴んで自分の座っている所に引っ張ったけど、途中でバックの肩紐がヘッドレストに引っかって、座席にもたれ掛かるようにバックが縦になっちゃった。


 まぁ、いっか。この方が探しやすいし。

 わたしはそのままバックを開けて、ママの財布を捜し始める。


 あった。

 バックの内ポケットに入っていた財布を掴むと、それをママに渡す。


「はい。ママ。」


「ありがとう。真白」


 ママは少し微笑みながら財布を受け取ると、体の向きを変えて運転しているパパとまた何かを話し始めた。


 ホントに仲良いなぁこの二人。

 その様子を見てると、しみじみ感じてしまう。二人のアツアツぶりを再確認すると、わたしはバックがまだ開けっぱなしだったのを思い出した。そしてバックのファスナーを閉める為に、体の向きを変えようとしたその時、


「ねえちゃん! ガオー」


 その声の方を見る間もなく、目の前が真っ暗になった。そして何かモコモコした肌触りの物が顔に当たって、その勢いのまま後ろの方へ倒れこむ。背中には、柔らかい感触。ママのバックの上にうまいこと倒れこんだみたいだった。


「にしし! びっくりした?」


 体全体に覆いかぶさった何かの後ろから真言の声が聞こえる。


「ちょっと、真言?」


 わたしはそう言いながら、覆いかぶさっている物を両手で掴み、少し上に押し上げる。モコモコとした肌触り、そして両側へ付き出している手。それは、さっき真言が抱き締めていた、大きなワニのぬいぐるみだった。


「もうっ、びっくりしたよ」


「へへっ、ごめんごめん」


 ぬいぐるみの横から覗きこんでいた、笑顔の真言に釣られて思わず笑ってしまう。


「ん? なんだ? あのトラック」


「ちょっと! こっち来てない?」


 前から聞こえたその声に、わたしと真言の笑顔は一瞬で消えた。


 ママとパパ? どうかしたのかな?

 そう思った瞬間だった。


「まずい! 突っ込んでくる!」


「みんな屈んで! 早く!」


 さっきまでとは違う、パパとママの言葉にわたしはぬいぐるみを少しずらして、前のフロントガラスを見つめた。その瞬間、わたしの目に眩しい光が入る。それはとても眩しく、そして段々と大きくなっていく。


「くそっ!」


「きゃあぁ!」


 パパとママの叫び声が聞こえた時、車が急に左に曲がって、それと同時に大きなブレーキ音が耳に響く。


 あれ? どうして? あんなに楽しかったのに。 みんな笑ってたじゃない?

 どうしてこうなってるの? なんで? 嫌だよ。

 嫌。こんなの嫌。嫌。イヤ。イヤ! イヤ!!



「嫌ぁ!!!」


 目を見開いた先には、見慣れたベージュのカーテン。もう上半身が起き上がっていて、呼吸は荒くなっていた。額からは汗がこぼれてる。


 わたしはその汗を右手で拭くと、その掌を少し眺める。そして視線を上げるとゆっくり辺りを見渡した。そこに広がっていたのは、いつもと変わらない自分の家のリビング。そしてそれが分かった時、わたしは思い出してしまった。


 わたしは、

 家族を失ったんだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ