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宮原少年の怪奇譚 ~桜無垢の巫女~  作者: 北森青乃
第3章 渦巻く思惑
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その先で

 本日も読んで頂きありがとうございます!

 


 時間が巻き戻る。

 普通の生活でこんな事が起こったら、もちろん最初は驚くと思う。けど、その有り得ない現象にその内テンションが上がって、溢れ出る好奇心で顔はにニヤけっぱなしになるはずだ。

 でも今に限って言えば、そんなこと考えてる暇はない。ましてや、やるべき事が明確に分かるのなら……尚更だ。


 さて、やるべき事は決まった。というより最初から変わってはいないけどね? 


 儀式を成功させる。


 結局、耶千さんを助ける為にはこうするしかない。

 でも、おれ達が置かれた状況は結構変わった気がする。最初は儀式が失敗したってわかった時点で絶望感しかなかった。それがどうだ? おれが今居るのは、儀式が始まる前の式柄村だ。ただの憶測でしかないけど、これが剛さんが言ってた禍溢日だとしたら、巻き戻ったというより繰り返してるって言った方が正しいのかもしれない。ただひたすら失敗したであろう儀式の日を。

 もちろん耶千さんや村の人にとっては、苦痛を繰り返す地獄の様な時間。けれど皮肉な事に、おれ達にとっては1つの希望なのかもしれない。それはつまり、おれ達が最悪な状態にならない限り何度だって儀式を成功させるチャンスがあるって事なんだから。となれば……


 行くしかない……御神殿に。


「よっし」


 小さく、けどどこか心の中に響くように……そう呟いたおれは、ゆっくりと視線を上げた。

 隠れていた木の後ろに見える左代守家。それが薄いオレンジ色に染まっていて、着実に時間は進み出しているんだって再認識する。


 とりあえず、まだ儀式は始まっていない。けど、儀式が失敗するのは確実。何が出来るかはわからないけど、とにかく御神殿に行こう。ただし……誰にも見つからないように。


 ただでさえ緊張感で溢れている村。そんな時に下手に見つかって騒ぎになり、それが原因で儀式が……なんて事もあり得る。稀人を見る事自体は珍しくないであろう村人にとっても、今日という日はタイミングが悪い。それに全員が全員、真千さん達の様な接し方をしてくれるとは限らないのは……千景さんが教えてくれた。


 まずは左代守家に残ってるお婆ちゃんに見つからないように……居ないな? よし。

 誰も居ない事を確認したおれは、そっと木の陰から身を乗り出すと、そのまま家の前まで出ていく。そして御神殿まで続く道の先を眺め、誰も歩いていない事を確認して……


 行こう。


 辺りを見渡しながらも、1歩1歩御神殿に向かって足を進めて行く。


 左手には、無数の木が生い茂って……その先は全然見えない。

 そして右手には、見下ろすように式柄村が広がっている。


 丘の上からは遠すぎて良く分からなかったけど……これが式柄村か。意外とでかくないか? あそこおれ達が逃げてた場所だろ? やっぱあの川はちょうど村の真ん中を流れてるんだな。という事は、半分も村を歩いてないって事か。

 立ち並ぶ木造の建物。見れば見る程、その規模は大きく。何十人……いや? 下手をすると何百人の村太が居るのだろう。そう思えて仕方がない。だが……


 それに真千さんの言う通り、儀式前だから全然村人の姿が見えない。まぁだろうと思ってたから、この御神殿まで続く道を歩いてるんだけどさ? 遮る物もない丘の上の道をね。

 儀式の日は、家から出ずにお祈りをする。その風習が守られているのか……今となってはそれを確かめる事は不可能だった。しかし、これで1つハッキリした事がある。


 でもこれでハッキリした。やっぱり()()の村人にとって儀式はめちゃくちゃ大切な事で間違いない。だとすれば、どうして儀式が失敗した? 考えられるのは、儀式……もしくは式柄家に恨みを持つ人が何かをした。それか単純に……耶千さんがしくじった。そのどちらか。


 ただ見ての通り、村人たちの儀式に対する考え方は一貫しているようにも見える。左一が言ってた通り、耶千さんの人柄は村人達にも認知されてたようだし……

 だとすれば耶千さんがしくじった? 儀式の最中には、50年間積もり積もった恨みとかをその身に受け入れる覚悟がないといけないんだよな。正直おれにそんな覚悟があるかと言われれば答えはノーだ。想像もできない痛みに、死ぬかもしれないのを分かっていて尚、受け入れ続けるなんて……有り得ない。途中で耶千さんの心にほころびが出来てそのまま儀式が失敗ってのは十分あり得る。


 だけどそれなら、なんでわざわざ千那は俺たちに頼んだ? 初対面のおれ達が耶千さんに心の余裕を提供できるなんて難しくない? ましてや、時間が繰り返されるって言っても所詮は儀式当日。そしておそらくこの時間帯。接点を作るには急すぎるだろ。


 ……もしかしてその両方? この村についておれ達は知らないことが多すぎる。式柄家に対して儀式に対して特別な感情を抱いているのもわかる。だけど、それが村人全員とは言い切れない。


『私じゃない! 私のせいじゃない!』

『私じゃない! やったのはあいつだ! 私じゃない! 私のせいじゃない!』


 頭に浮かんだのはさっき自分の目の前で口にしていた千景さんの言葉。


 あの時は様子が激しく変わっていく千景さんに驚きっぱなしで、深く考える余裕なかったけど……今考えるとあれって、誰かが邪魔をしたって証言だよな? それに私じゃないって事は、千景さんも関わってる……

 となれば、千景さんともう1人が結託して儀式を邪魔した。それで耶千さんの心が乱れて……失敗。その可能性もあり得る。てか、そうなんじゃないか? だとすれば、問題は千景さんの言ってた()()()。誰だ? そもそもさっきの話からして、千景さんも御神殿の中に居るんだよな? 村人は外に出ないように言われてるから、もしかして……


 御三家の……人? 


 その瞬間……一気に心臓の鼓動が早くなる。背中に感じる寒気と、何とも言えない嫌な予感。その重苦しい雰囲気に、おれは居てもたってもいられず……走り出していた。御神殿をひたすら目指して。



 いっ、急げ! やばいやばい! もし千景さんの言っていたあいつが御三家の人だったら、容易に御神殿の中に入れる。()()()って言ってるから、その人物が実行犯で間違いはないとして……その人が何かをやらかして邪魔をし、それが原因で儀式が失敗。1868年にはその最悪の流れが起こったんじゃないのか? 


 それが誰かなんてわからない。おれが御神殿に行って、どうにかなるわからない。けど……けど……



「……えっ?」


 それは不意に口から零れたものだった。とにかく急がないと、そう思いひたすら走っていた視線の先。そう御神殿の扉の前。そこには誰かが居たのだから。


 その人の服装は村人ではないと一目でわかる。

 そしてそれは白い着物でもない。

 ある意味自分が見慣れているであろう服装。そして息を整えるかの様に、膝に手を当てて肩で息をしている。


 その姿は懐かしく……そして…………疑問を隠せない。


 しかし、おもむろに上体を上げ、その顔が露わになった途端……自分の疑問は驚きに変わる。

 そして思わず……口にしていた。


 なんで? どうして……どうして……ここに居るんだ?


「まっ、真白……?」 



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