表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮原少年の怪奇譚 ~桜無垢の巫女~  作者: 北森青乃
第3章 渦巻く思惑
45/49

左代守 千景

再開いたしました! 是非ご覧下さい(*'▽')

 


「とりあえず、自己紹介からしようかな? おれの名前は宮原透也。さっき君に触った通り稀人じゃない、正真正銘生きた人間だよ」


「わっ、私は……左代守(さしろもり)……左代守千景(さしろもりちかげ)


 そうだろうな。ここに来るってことは、左代守家の人間で間違いないとは思ってた。けどそうなると色々聞きたいことも増えてくる。


 他の御三家の人達はどこなのか。

 なぜ式柄家の中に居たのか。

 そして……どうして儀式が失敗したのか。


 全部を全部、答えてくれるとは限らない。でもいつ耶千さんが襲ってくるかわからない現状で、モタモタなんてしていられないよ。


「千景さんか。それじゃあ千景さん、教えてもらえないかな? まず……儀式は失敗したの?」

「ぎっ、儀式って……なんであんたがそんな事っ!」


「まぁ、村の中には親切な人も居て、色々教えてくれたんだ。50年に1度の咲送りの儀式だって事もね? ……それで?」

「ぎっ、儀式は……失敗した」


 やっぱりそうか。佐一から聞いた耶千さんと、さっき見た耶千さんはとても同一人物だとは思えない姿だった。でもこれで確定したな? じゃあ問題は……その原因。


「それはどうして?」

「なっ、なんであんたなんかに言わなきゃいけないのよ? 関係ないでしょ?」


「関係は……あるよ」

「はぁ?」


「言ったよね? おれは稀人じゃない。帰るべき場所がある。その為に……お願いされたんだ」

「おっ、お願い?」


「耶千さんを救って欲しいってね?」

「っ! やっ、耶千を!? いっ、一体誰がそんな事!」


 ん?

 その瞬間、少し目が見開いた千景さん。その表情に……何か違和感を感じる。

 それこそ、おれと遭遇してからも焦る様な表情や強気な言動を見せていた。でも、今の反応はそれよりも明らかに……動揺しているようだ。


 動揺? それなりに普通に話してたのに……急だな。てか、耶千さんの名前出した瞬間、様子が変にならなかったか?


「えっと、妹の千那って子だけど」

「千那っ!? なっ、なんで……あの子……」


 やっぱりだ。さっきまでの強気な姿とは少し違う。儀式が失敗したからこそ、俺の口からその2人の名前が出てきて驚いてるのか?


「えっと、2人の事は知って……」

「何よ! 知ってちゃいけないわけ!」


 なっ、なんだよ! 動揺してると思ったら逆ギレ? てか、そんな反応されたらなんか怪しく感じるんですけど……って待て待て、変に機嫌損ねられたらこっちが不利だ。よくわかんないけど、話を逸らそう。


「ごめんごめん。あっ、じゃあさ? 千景さん、白い着物着てるって事は、御神殿に居たんだよね?」

「……御神殿まで……知ってるの?」


「えっ、まぁ……そっ、それでさ?」

「……なに?」


「御神殿に居た他の御三家の人達ってどうしたのかなって……」

「っ!」


 また目が見開い……た? どういう事だ? ……とにかくなんか耶千さんとかの名前には敏感みたいだから、それだけは言わないようにしないと。


「いや、だって皆逃げたんでしょ? 千景さんみたいに。おれも一瞬襲われたからさ? やっ……赤い着物の女に」

「…………」


「いや、驚いたよ? だって鎌持ってさ? だから御神殿に居た他の……」

「……し……い」

「えっ?」


「し……ない……し……ない」


 し……ない?


「し……ない……しらない……」


 知らない?


「しらない……しらない……」

「えっと千景さ……」


 最初は聞こえるか聞こえないかの小さな声。それが段々と大きくなるにつれて、千景さんの様子も……おかしくなる。


「しらない……知らない……知らない知らない!」


 どっ、どうしたんだ……


「知らない! 知らない! 知らない!」


 見開いた目でおれをじっと見ていたかと思うと、突然視線を空に漂わせ……


「知らない! 私は知らない! 私は知らない!」


 両手で頭を押さえたかと思うと、その長い髪を……


「知らない! 私は……私じゃない! 私じゃない!」


 掻き毟り出した。


 はっ……はぁ?

 そのあまりの変貌っぷりに言葉が出ない。さっきの会話の中で反応を見せた、耶千さんと千那の名前は出さなかったのに関わらず、それ以上の反応を見せる千景さん。正直その理由が全然わからない。けど……


 なんだ? 名前は出してないはずなのに……髪掻き毟ってる!?


「私じゃない! 私のせいじゃない!」


 偶然にも、徐々に大きく叫ぶように発せられた声に……


 っ!? 私じゃない? 私のせいじゃない?


 その変化を感じ取れたのは事実だった。


「私じゃない! やったのはあいつだ! 私じゃない! 私のせいじゃない!」


 私じゃないって、なにをそんなに取り乱してる? しかもその言葉も、知らない……私じゃない。私のせいじゃない。やったのはあいつ? 微妙に変化してるのが気になるよ。てか、もしかして……


「あいつが勝手にやったんだ! あいつだ!」


 千景さん……あなた、なんか知ってるよね? 


「私は何もしてない! してないぃぃ!」


 目の前の人物の尋常じゃない行動。それを目にし、最初こそ驚いたものの……その言動が耳に響いた瞬間

 にどこか冷静になれた自分が居た。

 それに加えて、こうなった原因であろう耶千・千那という名前。俺の中で1つの仮説が浮き上がるのにそこまで時間は掛からなかった。


 千景さん(このひと)は……儀式がなぜ失敗したのか知ってる。

 それどころかもしかしたら……それに関わってる?


 だとしたら、ちゃんと聞きたい。けど、


「違う! してない!」


 流石にこの状態はマズい。とりあえず落ち着いてもらって……


「あいつだ! 全部あいつが勝手にやったんだ! じゅ、じゅけ……」


 ん? じゅけ……


 千景さんの口から零れた、新たな言葉じゅけ。今まで同じ単語を繰り返してきた中で、唐突に出てきたそれが耳に残るのは当然だった。だからこそ、それが何を意味しているのかを聞き漏らさないように……集中していた。そう、集中してた。けど……その先の言葉が俺の耳に届くことはなかった。


「はぁうあぁ……あ……あ……」


 その何かを言いかけた瞬間、喉から絞り出すような声を上げ始めた千景さん。そして、


「すは……なん……で……息が……」


 その声はひどく細く、掠れ……



 ボキッ!



 それは一瞬の出来事だった。

 さっきまで髪を掻き毟り、取り乱していたはずの人。大声を出して叫んでいた人。そんな人は俺の目の前から居なくなっていた。


 そう。今俺の前に居るのは、静かにその場で佇む人。


 目が見開き、口も開いたまま……まるで糸が切れた人形のように、頭がだらりとぶら下がっている……



 千景さん……だった



これから、新作と併用して更新していきたいと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ