左代守 千景
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「とりあえず、自己紹介からしようかな? おれの名前は宮原透也。さっき君に触った通り稀人じゃない、正真正銘生きた人間だよ」
「わっ、私は……左代守……左代守千景」
そうだろうな。ここに来るってことは、左代守家の人間で間違いないとは思ってた。けどそうなると色々聞きたいことも増えてくる。
他の御三家の人達はどこなのか。
なぜ式柄家の中に居たのか。
そして……どうして儀式が失敗したのか。
全部を全部、答えてくれるとは限らない。でもいつ耶千さんが襲ってくるかわからない現状で、モタモタなんてしていられないよ。
「千景さんか。それじゃあ千景さん、教えてもらえないかな? まず……儀式は失敗したの?」
「ぎっ、儀式って……なんであんたがそんな事っ!」
「まぁ、村の中には親切な人も居て、色々教えてくれたんだ。50年に1度の咲送りの儀式だって事もね? ……それで?」
「ぎっ、儀式は……失敗した」
やっぱりそうか。佐一から聞いた耶千さんと、さっき見た耶千さんはとても同一人物だとは思えない姿だった。でもこれで確定したな? じゃあ問題は……その原因。
「それはどうして?」
「なっ、なんであんたなんかに言わなきゃいけないのよ? 関係ないでしょ?」
「関係は……あるよ」
「はぁ?」
「言ったよね? おれは稀人じゃない。帰るべき場所がある。その為に……お願いされたんだ」
「おっ、お願い?」
「耶千さんを救って欲しいってね?」
「っ! やっ、耶千を!? いっ、一体誰がそんな事!」
ん?
その瞬間、少し目が見開いた千景さん。その表情に……何か違和感を感じる。
それこそ、おれと遭遇してからも焦る様な表情や強気な言動を見せていた。でも、今の反応はそれよりも明らかに……動揺しているようだ。
動揺? それなりに普通に話してたのに……急だな。てか、耶千さんの名前出した瞬間、様子が変にならなかったか?
「えっと、妹の千那って子だけど」
「千那っ!? なっ、なんで……あの子……」
やっぱりだ。さっきまでの強気な姿とは少し違う。儀式が失敗したからこそ、俺の口からその2人の名前が出てきて驚いてるのか?
「えっと、2人の事は知って……」
「何よ! 知ってちゃいけないわけ!」
なっ、なんだよ! 動揺してると思ったら逆ギレ? てか、そんな反応されたらなんか怪しく感じるんですけど……って待て待て、変に機嫌損ねられたらこっちが不利だ。よくわかんないけど、話を逸らそう。
「ごめんごめん。あっ、じゃあさ? 千景さん、白い着物着てるって事は、御神殿に居たんだよね?」
「……御神殿まで……知ってるの?」
「えっ、まぁ……そっ、それでさ?」
「……なに?」
「御神殿に居た他の御三家の人達ってどうしたのかなって……」
「っ!」
また目が見開い……た? どういう事だ? ……とにかくなんか耶千さんとかの名前には敏感みたいだから、それだけは言わないようにしないと。
「いや、だって皆逃げたんでしょ? 千景さんみたいに。おれも一瞬襲われたからさ? やっ……赤い着物の女に」
「…………」
「いや、驚いたよ? だって鎌持ってさ? だから御神殿に居た他の……」
「……し……い」
「えっ?」
「し……ない……し……ない」
し……ない?
「し……ない……しらない……」
知らない?
「しらない……しらない……」
「えっと千景さ……」
最初は聞こえるか聞こえないかの小さな声。それが段々と大きくなるにつれて、千景さんの様子も……おかしくなる。
「しらない……知らない……知らない知らない!」
どっ、どうしたんだ……
「知らない! 知らない! 知らない!」
見開いた目でおれをじっと見ていたかと思うと、突然視線を空に漂わせ……
「知らない! 私は知らない! 私は知らない!」
両手で頭を押さえたかと思うと、その長い髪を……
「知らない! 私は……私じゃない! 私じゃない!」
掻き毟り出した。
はっ……はぁ?
そのあまりの変貌っぷりに言葉が出ない。さっきの会話の中で反応を見せた、耶千さんと千那の名前は出さなかったのに関わらず、それ以上の反応を見せる千景さん。正直その理由が全然わからない。けど……
なんだ? 名前は出してないはずなのに……髪掻き毟ってる!?
「私じゃない! 私のせいじゃない!」
偶然にも、徐々に大きく叫ぶように発せられた声に……
っ!? 私じゃない? 私のせいじゃない?
その変化を感じ取れたのは事実だった。
「私じゃない! やったのはあいつだ! 私じゃない! 私のせいじゃない!」
私じゃないって、なにをそんなに取り乱してる? しかもその言葉も、知らない……私じゃない。私のせいじゃない。やったのはあいつ? 微妙に変化してるのが気になるよ。てか、もしかして……
「あいつが勝手にやったんだ! あいつだ!」
千景さん……あなた、なんか知ってるよね?
「私は何もしてない! してないぃぃ!」
目の前の人物の尋常じゃない行動。それを目にし、最初こそ驚いたものの……その言動が耳に響いた瞬間
にどこか冷静になれた自分が居た。
それに加えて、こうなった原因であろう耶千・千那という名前。俺の中で1つの仮説が浮き上がるのにそこまで時間は掛からなかった。
千景さんは……儀式がなぜ失敗したのか知ってる。
それどころかもしかしたら……それに関わってる?
だとしたら、ちゃんと聞きたい。けど、
「違う! してない!」
流石にこの状態はマズい。とりあえず落ち着いてもらって……
「あいつだ! 全部あいつが勝手にやったんだ! じゅ、じゅけ……」
ん? じゅけ……
千景さんの口から零れた、新たな言葉じゅけ。今まで同じ単語を繰り返してきた中で、唐突に出てきたそれが耳に残るのは当然だった。だからこそ、それが何を意味しているのかを聞き漏らさないように……集中していた。そう、集中してた。けど……その先の言葉が俺の耳に届くことはなかった。
「はぁうあぁ……あ……あ……」
その何かを言いかけた瞬間、喉から絞り出すような声を上げ始めた千景さん。そして、
「すは……なん……で……息が……」
その声はひどく細く、掠れ……
ボキッ!
それは一瞬の出来事だった。
さっきまで髪を掻き毟り、取り乱していたはずの人。大声を出して叫んでいた人。そんな人は俺の目の前から居なくなっていた。
そう。今俺の前に居るのは、静かにその場で佇む人。
目が見開き、口も開いたまま……まるで糸が切れた人形のように、頭がだらりとぶら下がっている……
千景さん……だった
これから、新作と併用して更新していきたいと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>




