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宮原少年の怪奇譚 ~桜無垢の巫女~  作者: 北森青乃
第1章 宮原透也という青年
4/49

充実+刺激=

 


 玄関の前に停まってる軽トラには、もう親父と母さんが乗っていた。荷台のあおりに手を掛けて飛び乗ると、足を延ばして座り込む。

 しばらくするとゆっくりと軽トラが動き始めたけど、その間おれは黙って玄関のほうを見つめていた。今までそんな経験もないし、そういった類のものも実際に見た事なんてない。それだけに忘れたくても、簡単に忘れるなんて到底無理だった。


 軽トラはゆっくりと坂を下っていく。速度が上がるにつれて、体に感じる風が強くなるのを感じる。おれはあおり部分を片手でしっかりと掴むと、


 あれはなんだったんだ? おれの腰ぐらいまでの身長に、着物姿……見間違いにしてははっきりと見えすぎだ……

 軽トラが徐々に山の中に入っていく間、答えの出ない疑問をひたすら考えていると、いきなり頭が後ろの方に引っ張られて、すぐさまその反動で前によろめく。少し驚きながら辺りを見渡すと、そこには林檎畑が広がっていた。

 軽トラの減速にもブレーキも分からないくらい、さっきのことを考え込むなんて、原因は分かっているのに解決できないことが歯痒くて仕方ない。


 そんなグダグタな気分のまま、おれはゆっくりと立ち上がると荷台から飛び下りる。目の前には少し傾斜のある林檎畑が広がり、その上には森。さらに上には山が続いていて、頂上らしき部分が見える。


 ……あれ? うちの畑ってこんなに林檎の木多かったっけ? 


「ん? どうかしたか?」

「いや……木多くね?」


 運転席から降りた親父にそう言うと、林檎畑の方を指をさす。


「これでも昔より少なくなったんだぞ。それに毎年手伝いに来てるだろ?」

「そうなんだけどさ……」

「とにかくさっさとやろう。透也! お前も三脚取りに来い」


 親父はそう言いながらおれの肩を軽く叩くと、小屋の方へ向かって歩き出す。おれもその後を追って小屋の中へ。反射シートや手籠が綺麗に収納してある中、


「ほれっ、あとこれは母さんのだな」


 渡されたのは、6尺と4尺のアルミの三脚。軽くて地面に掛けやすい優れ物だ。おれは渡された三脚を両手に抱えると、軽トラのところに向う。


「よしっ! じゃあ下からやってくか」

「はいよー」


 小屋から自分の三脚を担いで来た親父はそのまま傾斜を降り、畑の1番下にある林檎の木に向かって行った。おれと母さんもそれに続く。


 作業中はさっきのこと忘れないと。余計なこと考えてると三脚から落ちたらやばい。集中集中……そう自分に言い聞かせると、


「よしっ!」


 両手で自分の頬をパシッと叩く。そして、三脚を広げ葉取りの作業に取りかかった。




 どのくらいの時間が経ったんだろうか。畑には携帯用のラジオの音だけ響いている。葉っぱは少し取るだけで良いって親父は言ったけど、本数が本数だからざっと見る限り3分の1が終わったくらいだ。


「ちょっと休憩するか」


 親父のその言葉、待ってました。

 梯子から降りる親父を確認すると、おれは三脚から素早く下りる。汗で少しベタベタだし、何より喉がカラカラだった。

 そのまま軽トラの方へ向かうと、助手席に置いてあった小さめのクーラーボックスから炭酸飲料を取り出す。キャップを開けて、大きく3口ほど飲み込むと火照った体に染み渡ってめちゃくちゃ美味しい。

 一息ついたところで、辺りを見渡してると目の前に広がってる、畑の上にある森の様な場所が目に入った。


 あそこって……


「親父、この畑の上ってどうなってるの? 森が見えるけど」

「ん? 畑の上にはすぐ砂利の道路があって、そこからさらに上にいく道があるはずだけど、そっから先はただの行き止まりだぞ? 高い岩の壁みたいなやつがあって地層ってやつのが丸見えになってる。それだけだ」


「まじ? 親父は行ったことないの?」

「んー。そりゃ小さい頃は探検だっていって、見に行ったりしたさ。だけど、ほんとに行き止まりで他になんにもないんだ。何回か行ったらそりゃ飽きるべ。母さんも見たよな?」


 親父はそう言うと母さんに話しかける。母さんは何回か頷きながら、


「そうねえ。確かに行き止まりだったけど、あんなにはっきりしてる地層を見たときは、ちょっと感動したけどね」

「そんなにすごいの?」

「見る人によってはね」


 母さんは少し笑いながら、親父の方に視線を向けていた。それに気付いたのか、親父はばつが悪そうに咳払いをして、すぐに林檎畑の方を眺める。


 地層か……

 別に興味があるわけじゃないけど、母さんが言うくらいだから、どんなのか少しに興味が湧いてくる。


「ちょっと行ってきていい?」


 それがどんなものなのか、見てみたくなって親父に問い掛ける。


「いっ、いいけど、ホントにそれしかないぞ?」

「そうだと思うけど、なんか気になっちゃって。すぐ行って戻ってくるよ」


 おれは親父にそう言うと、畑の上に向かって指をさす。


「じゃあ、葉取りやってるから、早く戻ってこいよー」

「はやく来るのよ?」

「はいはい、わかったって」


 親父と母さんはそう言い残すと、休憩を終えて作業をしている木の方へ向かって歩き出した。その姿を確認すると、おれは森の方に向かってゆっくり歩き始める。


 実際に歩いてみると、傾斜が結構きつい。地味に太腿にもくるし、走ったら良い練習になりそうだ。そんなキツさに耐えていると、親父の行っていた砂利の道路に辿り着いた。畑に沿って横に伸びている道路の幅はは車1台分あるかないか、そのくらいの道幅しかない。タイヤの跡を見る限り、結構車が通っているのみたいだけど、車同士行き合ったらどうするんだろう。まぁ、そんなことどうでもいいか。


 道路挟んだ向こう側には、傾斜地が段上になっている。いわいる段々畑のみたいだけど、そこに林檎の木は1本も生えてなくて、雑草が無造作に伸びているだけだった。


 林檎やめちゃった所か……。

 そんなことを思いながら少し畑沿いを歩いていくと、上の方に続く畑道を見つけた。さすがに車は通れない位の道幅で緩やかな坂、砂利と少し雑草が生えている坂道を躊躇なく進んでいく。

 両側には、木の生えていない元林檎畑が広がっていて、高齢化とかで林檎農家の数が少なくなったという話を実感させられる。


 そのまま少し歩いていくと、拓けた場所に辿り着いた。地面は砂利から土に変わり、その拓けた場所を取り囲むように、目の前には剥き出しの地層が壁となって立ち塞がっていて、その上にはおれが林檎畑から見ていた森が広がっている。4mくらいかな? 目の前に行くとその壁はより一層高く感じた。


 なるほど、あそこからは森まで道が繋がっていると思ったけど、あの位置からだと丁度この地層の部分が見えないのか……。

 そんなことを考えながら、目の前の岩の壁をゆっくり眺める。確かにでかいし、はっきりとした層が見えていてその歴史を感じるには申し分ないと思う。そして、そのまま辺りを隈なく見渡していた時だった、取り囲んでいる壁の一部に穴みたいなものが開いてるのを見つけた。 


 穴……? というより洞窟? 岩の切れ目? 

 不思議に思い、その穴の方へ向かう。徐々に近づくにつれて、それは穴というよりむしろ洞窟といった方が正しいような気がした。入口は意外と大きくて、壁の中に空洞みたいなのが続いている様に見える。


 その前に辿り着くと、ゆっくりと中を覗いてみる。どうやら入口からすぐに左に曲がって空洞が続いていて、緩やかな下り坂になっているみたいだ。そしてそこから真っすぐ続くその先に、うっすらと光のようなものが見える。


 光? じゃあこの壁の向こう側に繋がってる? てことは……ここ完璧に洞窟じゃん! 親父のやつ、なにもないなんて言ってたけどあるじゃんか、しかもとびっきりのやつが。もしかして隠してたのか? 

 その瞬間、一気に気持ちが踊りだす。


 めちゃくちゃ気になるな……行ってみようかな? 

 そう思ったけど中は結構暗くて、一体どういう状態なのか全くわからない。入口から差し込む光だけじゃ、せいぜい1mほど先までしか見えない。いくら真っすぐとはいえ足元が見えないのは危ないし、どうしてこういう時にスマホを持ってこなかったんだろうと、自分の運の悪さに落胆してしまう。


 それにもしかしたらホントに親父も知らないのかもしれない。親父の性格上、隠す前に自慢しそうだしな……それか危ないから入るなって釘を刺すか。それにおれが上の方見に行って来るって言ったのに、止める気配もなかったし。だとしたら、結構最近出来たのかな? 地震とかそんな感じで……


「んー、考えても仕方ないし今日は帰って、また改めて来るか。葉取りは今日だけって言ってたっけ……だったら明日だ。明日来よう!」


 おれはそう呟くと、洞窟の外へ出るともう1度入口の部分とその周りをじっくり見渡した。


 それなりに充実した夏休みだけど、さらにでかい楽しみが現れたなぁ。

 この洞窟の先にはどんな景色が広がっているのか、それともただの岩に囲まれたところなのか。歴史を感じる古い物があるのか、謎の集落があるのか、それともただの石ころしかないのか。考えるだけでめちゃくちゃ楽しみだった。


 佐藤は絶対連れて来れない。連れて来たら絶対に洞窟の中で岩が崩れて下敷きになるとか、そんな感じのことが絶対に起こる。それだけは絶対に嫌だ。佐藤には自慢話をお土産にしておこう。


「よし、戻るか!」


 自然と笑みがこぼれる。洞窟のことや探索のことを考えるだけで、体が高揚して高まるテンションを感じながら、おれはその場を後にした。



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