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宮原少年の怪奇譚 ~桜無垢の巫女~  作者: 北森青乃
第3章 渦巻く思惑
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赤い月

 



 よし、いこう。

 握り締めた右手の力を抜くと、わたしは目の前を、宮原くんが行ってしまった先を見つめながら歩き始めた。


 歩いてたから、そんなに遠くへは行ってないはず。けど、耶千さんがまた襲ってこないとも言い切れない。急ぎつつ慎重に……。

 周りを見渡しながら、宮原くんが曲がって行った路地に近付いていく。その先には川があるはず、ある程度拓けた場所なら姿が見えるかもしれない。そんな焦る気持ちを抑えながら、歩いていた時だった、


「うぅぅぅ」


「あぁぁぁ」


 唸るような声から、叫び声。そんな男女の声が重なるように聞こえてきた。


 なっ、なに?

 その声がどこから聞こえてくるのか、辺りを見渡してみたけど、建物に囲まれたここからじゃよく見えないし、分かんない。けど、誰かが耶千さんに襲われてる。それだけははっきり分かった。


 やっぱり……まだ耶千さんがどこかにいるんだ。


「いやぁぁぁ」


「うわっ、あぁぁぁ」


 さっきの声が聞こえなくなったと思ったら、今度はまた別な人の声が聞こえる。しかもその声はさっき聞こえた声よりも大きい。


 えっ? 違う人の声? さっきよりも大きい……近いの?

 一気に近付いた声に、思わず身構えて辺りを見渡したけど、誰かが来る気配は感じない。それに近くにいるのは、一言も話さず後ろで立っている佐一くんだった。


 来ない……?


「わぁぁぁ」


「ひぃぃぃ」


 安心した途端、耳に入る叫び声。けど、今度はめちゃくちゃ小さくて遠くから聞こえる。


 なに? どういうこと? 襲われてるにしても場所が違いすぎない? 

 高速移動でもしない限り、ありえない動き。おかしいとは思っても、耶千さんなら有り得そうな気もする。


 でも、耶千さんが村人を襲ってるのは確かだよね。どう動いてるんだろ……それに宮原くんは大丈夫かな? そうだ! どこか見下ろせる場所とか……。あっ!

 耶千さんと宮原くんの様子が知りたくて、村を見渡せそうな場所を探していると、自分を囲んでいる家の屋根の上から御神殿が見えた。


 御神殿か……あそこからなら大体見渡せるかもしんないなぁ。あれ……なんか色……。えっ?

 確かに少し高いところにあるし、そこは村を見渡すのには丁度良い場所かもしれない。けど、わたしの目に映ったのは御神殿だけじゃなかった。御神殿の真上でこっちを見下ろす月。その色が、


 真っ赤だ……。

 さっきまで薄いピンク色に光っていた月の色が、知らないうちにまるで血で染められたように真っ赤になっていて、その月明かりが村を、わたしを照らしていた。そう、まるで血を浴びてるかのように。


「さっ、佐一くん月見て!」


「えっ? 月? ……うわっ」


 うそ……さっきまでピンク色だったのに、なんで赤くなってるの? もしかして……儀式の影響? てか、それしか考えられないよ……。

 今まで全然気付かなかった。佐一くんの様子を見る限り、佐一くんも同じなんだと思う……いつからこうなってしまったのか。けど、真っ赤な月明かりに照らされた村と、今村人が襲われてる状況。その2つが妙に重なって見えてしまって余計に気分が悪くなる。


 村人が殺されて……この月明かりみたいに村全体が血で染まる……? そういうこと? もしかして、それで式柄村は……、


「お姉ちゃん! あそこ見て!」


 不意に聞こえたその声に、


 まさか耶千さん?

 そんな不安を感じながら急いで佐一くんの方を見ると、小さくジャンプしながら上の方を指差していた。


 ん? 

 わたしはその指の先を必死になって見たけど、佐一くんが何を教えてるのか、その正体が分からなかった。


「違うよ! あっちあっち! 御神殿からずっと右の方」


「右?」


 改めて御神殿を見つめると、そこから右の方へ視線を動かしていく。


「そうそう、右代守のお屋敷に続いてる道の真ん中辺り! だれか立ってる!」


 右代守のお屋敷? あっ、たしか三家の1つだよね。たしか少し小高くなってるとこに家があったはずだけど……。そこって御神殿から道が続いてるのか……って誰かいる? 誰かが立ってるって……こんな状況で? 


「あっ! いた!」


 佐一くんに言われるがまま、急ぐように視線を動かしていくと、確かにいた。屋敷と御神殿の丁度真ん中あたりで、立っている人影。その人物は少しキョロキョロしながら、村全体を見渡しているようなそんな素振りを見せていた。


「見えた?」


「うん! 見えたよ! 佐一くんあの人誰だかわかる?」


「う~ん、ここからじゃちょっと分かんない……でも、あそこにいるってことは右代守家の人だと思うよ?」


「なるほど……」


 確かにここから見る限り、赤い月の光も邪魔して、顔まではっきりとは見えなかった。分かることといったら髪の毛が短い。それくらいだった。


「わたしもちゃんと見えないな……」


 少し目を細めて、その顔を必死に見ようとしていた時だった、その人物がいきなり、奥の方に向かって走り出した。


「あっ! 逃げた!」


「お屋敷の方だ!」


 走っていくその人物の姿を見た瞬間、わたしの心は揺れ動いてた。本当は宮原くんを捜しに行かなきゃいけない。合流しなきゃいけないのは分かってる。けど、あの走ってく人物、あの人がなぜか気になって仕方なかった。もしかして、全然関係なくってただ逃げてるだけなのかもしれない。そうなんだけど、なんか心に突っかかる感じがして……。ちゃんとした理由はない、それはわたしの……桃野真白の直感だった。


 どうしよう……。宮原くんを捜すべき? 自分の直感を信じるべき? どっち……?


「お姉ちゃん、どうするの……?」


「ん~」


 佐一くんの問い掛けに、わたしは返事ができない。


「お姉ちゃん、僕お姉ちゃんを信じるよ」


 はっ、信じる? わたしを? こんなわたしを?

 信じるって言葉その言葉を聞いた時、自分の中の何かが、何かは全然分からないんだけど、それがパンって弾けたような気がした。


 わたし……今まで自分のことあんまり信用してなかった。信じてなかったし、なんか自分の言葉に自信がなかった。みんなの意見を聞いてそれに同調して意見出して……それでもなぜかみんなには、お互いの話よく聞いてくれる真白がいると話し合いがはかどるなんて言われて……それで、自分の意見を何も言わずに同調するのが当たり前になってたんだ……。でも今は……違うよね、自分の意思で宮原くんを捜そうと思って、自分の直感であの人物が気になって、自分で自分を信用して行動できたんだ。だったら、だったら……


 自分の直感、信じてもいいよね?


「佐一くん、あの人追いかけよう! あそこまで道案内お願いできる?」


「うん! わかった! こっちに坂があるよ。付いてきて!」


 わたしは自分を信じる。自分の直感を、自分の意思で!




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