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宮原少年の怪奇譚 ~桜無垢の巫女~  作者: 北森青乃
第3章 渦巻く思惑
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本音と建前

 



「もう……放って置いて!」


 抱いた感情のまま口から溢れ出したその言葉。それは間違いなく自分の本音だった。みんなに会いたかった。だから覚悟を決めて湖の中に墜ちたのに、目が覚めたのは天国でも地獄でもなさそうなよく分からない場所。みんなを殺した見たくもない三好剛がいて、千那って子には全てを見透かされたようなことを言われて、耶千さんになぜか狙われて、殺されかけて……ここはロクでもない場所だった。


 なんでわたしだけ……なんでこんなにも嫌な思いするの? どうして? 自分で命を捨てたから? でもあれはみんなに呼ばれたから、だからわたしはその声を追ったんだよ……ただそれだけ……。

 身に起こったことを思い出しながら、その理不尽さと恐怖にわたしは頭を抑えて、それを振り払おうことしか出来なかった。


 なんにも良いことなんてない。だったら……ここは地獄なんだ。ここでもっと苦しんで苦しんで自分の行いを後悔させる、そういう場所なんだ。あの千那ちゃんも耶千さんも、きっとここの番人なんだ。監視して陰で笑っているんだ、私たちを…………わたし達? 


 その瞬間、洞窟で寝ていた宮原くんの顔が声が浮かんでくる。


『綺麗だな……』


 寝惚けた顔。


『ふざけんな! いきなり現れて、ここにいるのも全部おめぇのせいじゃねえか!』


 千那ちゃんに向けた怒り声。消えていった場所をただただ見つめる姿。


『いやいやそういう意味じゃ……。てかおれも恥ずかしいんだから掘り返さないでよ』


 少し照れくさそうに笑った顔。式柄村を見つめる真剣な眼差し。なにかを夢中で考えている表情。


『じゃあ桃野さん。式柄村……行こうか。何があるかわからないけど、行かなきゃ始まらないから』

『桃野さん、たぶん裏側に玄関があると思う。だからおれ、ちょっと様子見に行って来るよ』

『桃野さん、ごめん。やっぱり放っておけないや』

『走れっ!!』

『あの橋だ! 走って!』


 その光景を思い出した時だった、左腕が少し温かくなった気がして、それを確かめようとゆっくりその方を見つめる。薄暗くてよく見えなかったけど、丁度二の腕の辺りになんとも言えない温かさを感じる。どうなっているかはよく見えない。けどその温かさを感じる場所、そこには思い当たることがあった。


 そっか……。違う……、違うよ……。嫌なことばかりじゃない。

 その温かさと共に、ここまで一緒に来た宮原くんの行動が、声が溢れ出す。


 宮原くんに出会えた。嬉しかった。どこか分からないところで、なぜか三好がいて……不安でいっぱいだった。けど、宮原くんに会えて嬉しくってそれだけでも十分だったのに、宮原くんはどうやったらここから帰れるのか考えてくれて……。なにも考えが浮かばないわたしを、何をしていいのかわからないわたしを引っ張ってくれて、導いてくれて。わたしは宮原くんに負んぶに抱っこだった。そして、耶千さんが目の前に現れて動けなかったわたしを必死に引っ張って、目の前を走ってくれて……。そして……


 ゆっくりと近付いてくる耶千さん。怒りに満ちたその表情に、動くことすら出来ないわたし。左足に感じる鎌の感覚が、背中を通って全身に伝わる。耶千さんがにやって笑って、鎌を振り上げて……もうダメだって下を向いた時、聞こえたんだ……。


『真白!!』


 その瞬間、宮原くんの声が頭の中に響き渡って、その声と共に胸がえぐられるような後悔の気持ちが体中に湧き上がる。


 わっ、わたし……言っちゃった……。言っちゃったんだ……。わたしを何度も何度も助けてくれた……宮原くんに言っちゃったんだ……。ひどいこと、傷付くこと。自分の思うがままに宮原くんに言っちゃったんだ……。最低だ、最悪だ。わたしは……最低な奴だ。 なっ、なんとか……謝らないと……。宮原くんに謝らないと……謝らないと……。

 両手で抱えていた頭を急いで上げてみたけど、目の前に宮原くんはもういなかった。


 い…ない…。いない……。

 その姿を探そうと、必死に辺りを見渡していた時だった、ずうっと奥の方、わたしが耶千さんから逃げてきた道を戻るように歩く宮原くんの後ろ姿が遠目に見える。けど、わたしが気付いた時、宮原くんは右の方を向いたと思うと、路地の中に進んでいく。


 あぁ……行っちゃう。見えなくなる。宮原くんが……宮原くんが……。いや……いやだよ……いなくならないで……。お願い……まだちゃんと謝ってないよ……。


「宮原くん……」


 口からこぼれた弱々しい声。必死に搾り出したその言葉は宮原くんに……届かなかった。




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