20話『暴力に区分はない』
ふと目を横にやると、肩を刃渡り30cmほどの白柄の短刀が貫通していた。
これまで色々な方法で殺されかけてきたが、実の所、鋭利な刃物で貫かれるというのは意外にも初めてだった。
「づ、ァァァあああああああああああああああああああッッッ!?」
初めて貫かれて分かったこと。
荒々しく切り取られた岩のように人を殺傷する砂の触手とは違い、人を殺す為だけに磨かれ、人の肉を裂くのに特化した鋭刃は、痛いというよりは冷たいという感触があった。
まるで体の中に氷を差し込まれた様な異物感。灼熱のマグマのように溢れ出る血液と、それをそばから冷やしていく冷たい刃のギャップに、体調を崩しそうになるほど揺さぶられた。
「ユ、タカ……!?ユタカ、ユタカ……ッ!!」
しつこい耳鳴りに掻き消されて、少女の声がよく聞こえない。
異物は肩に突き刺さったまま。抜こうにも、少しでもその白木の柄を動かすだけで体の内側から小さな虫に食い破られていくような痛みが全身を走り抜ける。
霞む視界に目を凝らし、その短刀が飛んできた方向を見ると、黒い影が三つ見えた。
一人一人が、真っ黒な喪服に身を包んだ男たち。
直感で、これが化野の手先であることがわかった。
「……ッ!!クソ、エデ……!奴ら、化野の……!」
「喋らないでっ!!今治すから!ゆっくりと呼吸をして!!」
ぷしっ、と傷口からホースの切れ口から水が飛び跳ねるように血が笑えるほど出ていく。
「肩に……どうしよう、無理にでも抜くしか……でも……」
エデは僕の肩口に突き立てられた短刀の柄に触れようとするが、過剰に痛がる僕を見て抜いてしまうか逡巡しているように見えた。
この傷口を塞ぐには刃物を抜くしかないが、しかし彼女は僕が苦しむ行動を取りたくないらしい。
しかし、奴らは待ってはくれなかった。
彼らは喪服のジャケットの内側に隠していた60cmほどの脇差を取り出した。
────まずい、奴らはお構い無しに襲いかかってくる。
「エデェェええええええええええッ!!」
喪服に身を包んだ無個性のうちの一人が振り下ろした斬撃を、僕はどこからか発現した砂の触手で受けとめた。
男達はすこしざわめくが、それでも止まらない。
三人の内の一人が短刀を投擲してきたが、それも砂の触手で打ち払う。
いける。どうやら敵は三人とも異能使いではなく、ただの暗殺者であるらしい。ともかく、嵐条のような無茶苦茶な怪物ではないだけマシだ。
喪服の男達のうち、先程短刀を投擲してきた奴と切りかかってきた奴が同時に攻撃してきたので、エデを庇いたちながら砂を操る。
「よし……ッ!!」
この触手の防御は嵐条でさえ攻めあぐねたものだ。異能を持たない普通の人間の攻撃など通るはずがない。
「このまま全員……ッ!!?ッ??!?」
と、ほくそ笑んだ瞬間に、右ふくらはぎに短刀が突き刺さった。
「あ……?」
その足に体重をかけていた僕は膝から屈するように地面に体を落とした。足の空いた穴からどくどくと果汁が溢れ出てくる。
────うまい。
意図的に僕の注意をそらさせて死角から確実に当てられる攻撃をする。
団体戦に慣れているのか、そもそも人を殺していくことに慣れているのか。
これが思考して戦う敵の厄介さだ。
右足に突き刺さった短刀をどうにかしようとしていると、今度は男のうちの一人の蹴りが僕のみぞおちにめり込んだ。
「がッ……!!」
侮った。
敵が異能使いじゃないことに油断した。
それが敗因だった。
(ああ、クソ。ようやく決心がついたのに……こんなところで、こんなやつらに……)
喪服の男のうちの一人が膝を屈する僕の顔に目掛けて強烈な回し蹴りを浴びせた。
これで終わったと、そう考えているうちに気づいてしまった。
僕の背後に隠していたはずのエーデルワイスの手の感触が無くなっていたことに。
────そして。
僕をかばって真正面から回し蹴りを受けた白い髪の少女が、その場に崩れ落ちた。




