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死に損なったエーデルワイス  作者: 釘抜き
一章《返り咲く雪の花》
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18話『後輩ができました。』

「ええと、とりあえず改めて自己紹介からさせてもらっていいですか?」


 栗色の髪の少女が、穏やかに提案してきた。こうしていると普通の女の子だ。化野(あだしの)の創り出した化け物の支脚を次々と叩き潰して僕達を守り切った異能使いとは思えない。……いや、きっと僕は普段の化野を見ても同じことを言うのだろう。らしくない、と。易々と人を殺す異能使いとは思えない、と。

 きっとこれまでもそうやって異能使いというのは顔を隠して僕の日常に溶け込んでいた。それが、偶然僕の目にも見えるようになっただけなのだ。


 結局僕を取り巻く環境は何も変わってなどいない。変わったのは僕だけだったのだ。ゆっくり、ゆっくりと底なし沼に体が沈んでいくように。僕は気づかずのうちにこちら側に肩まで浸かっていたのだ。


 日常と成り果てた非日常の少女は、少女らしく微笑みながら自己紹介する。改めて、聞き覚えのある名を口にする。


「私の名前は友原花澄(ともはらかすみ)鳥鞠(とりまり)さんのところでアルバイトをしている異能使いです」


 堂々とその言葉を口にした。僕にとって、この街の暗部の象徴たる『異能使い』という言葉を。


「ええと、年齢は15で、普段はこの高校に通っています!」


「え?この高校に?」


「はいっ!私は結円(ゆいえん)高校の一年生ですよ?『先輩』?」


 思わず唖然とした。

 え?この娘この高校に通ってたの?というかそれ以前にこの娘高校生だったの?この見た目で?


「……?どうしたんですか、先輩?何かおかしなところでもありましたか?」


「いや、別に何でもないんだが……君、新入生だったんだな……」


「はい!これから学校で会う機会もあるかもしれませんが、その時もよろしくお願いしますね?」


 気恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまう。顔を見ても脚を見てもこのザマではどうやってこの娘と接すればいいのだろうか。ふと横を見ると隣に居るエデが凄いふくれっつらになっていた。


「私も15歳なのにな……呼び捨てじゃなくて、先輩って呼んだ方が良かったのかな……」


 よく聞き取れずに、聞き返そうとすると、途中で嵐条が口を挟んできた。


「おいコラ、いつまでラブコメやってんだ。早くテメェらのここまで経緯を説明しやがれクソチビ」


 一文に必ず一つは罵倒を入れなきゃ死ぬ呪いでもかけられたのだろうか、嵐条は不機嫌そうに友原に向けて言った。


「あ、そうですね!私は、大嵐(ストーム)連合が攻め入ってきた時、所長に頼まれて薬局におつかいに行っていました!」


「薬局に?それって……」


「ええ、お二人の傷を手当てする為に傷薬と包帯を買いにです」


「なるほどね、ちょうどそのタイミングを狙って彼らが攻め込んできたわけか」


 と、僕の言葉に嵐条が訝しげな目付きになる。


「あ?別に俺達ゃそんなダセェこと画策してねえぞ?ポリシーに反するからなァ」


「じゃあ、君たちが彼女のいないタイミングに攻め入ってしまったのは偶然だと?」


「そりゃァそもそも俺は化野の野郎からこのチビみてえな異能使いがいることなんざ聞いてなかったからな。ただ、奴らが直前に無線で指定してきた時間に攻め入っただけでよ」


 でも、化野は友原の存在を認知していたような口ぶりだった。となると……


「やはり体よく利用されていたということだろうさ。君たちには何も知らせないで、彼女たちはカスミくんが事務所を出たタイミングで突入命令を出したということになる」


 鳥鞠がつらつらと私見を述べる。その顔にもはや事が起きた時の焦りの類は見られなかった。


「あン?となりゃァ奴らは予め事務所近くで張り込んでいて、このチビがいなくなった瞬間に俺らに司令を出したと?二度手間じゃねえか、それ」


「チビチビ言わないでくださいよ……気にしてるんですから……」


 友原の不服そうな声に耳を貸さず、嵐条はただ鳥鞠に視線を投げかけた。


「いや、その手間を省ける異能使いが五陵会(ごりょうかい)にいる、という見方の方が現実的さ。さしずめ『遠くを視る異能(クレアボヤンス)』といったところかね」


 クレアボヤンス……。即ち、千里眼。確かに、多くの異能使いを擁する五陵会ならそれくらいのことは出来てもおかしくはないだろう。


「ま、もしそうならばその異能は完全に私のものの上位互換になるから、この推測は外れていてくれた方が嬉しいのだがね」


「……そういえば、鳥鞠さんの異能ってどういったものなんですか……?」


 エデがふと聞いた。

 僕はだいたい予測がついているのだが、やはり直接本人の口から聞くのに越したことはない。


「私の異能は『地図を見る異能(マッピング)』さ。私の意思とは無関係に、私の脳内には半径2キロの円の中のみ、まるでゲームのマップのようにあたりの地図が表示される」


「それに加え、範囲内にいる人も色の着いた点のようなマーカーで表示される。ですよね、所長っ!」


「ああ、味方なら青い点(ブルーマーカー)。敵なら赤い点(レッドマーカー)。それとは別に、味方の異能使いなら白い点(ホワイトマーカー)で、敵の異能使いなら黒い点(ブラックマーカー)さ。それ以外の敵でも味方でもない人間は一般人異能使い問わずに黄色い点(イエローマーカー)で表示されるが、これはキリがないので非表示にできる」


 なるほど、つまり人畜無害な者に関しては表示すらされなくなるらしい。その機能を使って僕達を見つけたのだろう。まるでアクションゲームの簡易マップのようだ、と感じた。

 そして、何を基準にしてるのかは分からないが、この異能、相当強力じゃないか?索敵、隠密なんでもござれだ。いや、というより。

 この異能を使えば、今すぐにでも五陵会のアジトを発見することも出来るのではないだろうか?

 何故それをやらないのか、と短絡的な疑問を抱きそうになるが、途中でふと敵にも千里眼の異能使いがいるかもしれない、ということを思い出し、その疑問は氷解した。

 彼らとて、事を荒立てたくないのだろう。


「やろうと思えばそのマーカーとして表示される人間一人一人が誰なのか、というのも解析できるがね。だから君たちがそこの彼と一緒にいることを知った時は大層肝が冷えたよ」


 鳥鞠は嵐条を顎で指す。

 フン、と嵐条は鬱陶しそうに顔を背けた。


「今、嵐条のマーカーは何色なんですか?」


「それはもう真っ黒だが?」


 なんだこいつ。バリバリ敵じゃねえか。

 いつまた背中から烈風をぶち込んでくるか分からない赤毛を横目で見遣りながら、僕は話を本筋に戻した。


「ともかく、僕達が逃げて嵐条に襲撃された時、事務所ではどうなっていたんですか?」


「いやぁ、あのあとスグに無軌道少年たちが割れたガラス窓から大量に押し入ってきてね。それはそれは恐ろしかったとも」


 それにしては痩身の中年男性には傷一つないように思える。

 見れば、嵐条の顔がいっそう不機嫌そうに強張っていた。


「しばらくは一人で凌いでいたが、間一髪でカスミくんが帰ってきてね、あとはまるで水戸黄門のドラマを見ている気分だったよ」


「あっ、殺してはいませんからね!全員なんとか気絶で済ませましたから!」


 友原が顔を赤らめてフォローする。いやフォローできてるのかこれ?この娘の羞恥の基準がよくわからないが、とにかく物騒すぎるというのはわかった。


「こほんっ!……その後は所長に全員拘束してもらって、私はすぐに貴方達の元に駆けつけました!なんとかぎりぎりで皆さんを助けられましたが、五陵会は敵に回しましたかね……」


 代わって次は友原が可愛らしく咳き込んでから語り出した。普段の仕草の可愛らしさと、戦闘の時の強さのギャップが大きくてなんか恐いよこの娘。


「で、そのあとは所長の異能で貴方達を探して、合流した……という寸法です!」


 彼女らの事情はこれで以上らしいので、次は僕たちの話をした。


「……ということで、僕達は嵐条と共同戦線を組んで、化野に打倒することになりました……戦力が増えたのは喜ばしいことですが、それでもこの人数で五陵会に立ち向かえるかどうか……」


「ほお……なるほどね。化野を打倒する、か……」


「……、」


 友原が少し申し訳なさそうに黙り込む。


「いい。私から言おう」


 少女に代わって男が告げる。


「我々は、君達と共には戦えない」

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