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死に損なったエーデルワイス  作者: 釘抜き
一章《返り咲く雪の花》
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17話『閑話休題』

「さて、では状況を整理しようか。少年少女」


 鳥鞠(とりまり)は、保健室に入るなり、養護教諭のデスクのチェアーに腰掛けて言った。

 こういう場合、普通空いてるソファとかに座るはずなんだけど、この人の場合やはりデスクが落ち着くのだろうか。そういえば事務所でもずっとデスクから離れていなかった気がする。


(それ以前にこの人完全に不審者だよな……)


 鳥鞠のファッションスタイルはスーツをだらしなく着崩してネクタイを緩めるというものだ。学校の先生の像とは完全にかけ離れているせいで、この場にいるだけで凄まじい異物感を醸していた。


 空いたソファには代わりに友原(ともはら)がちょこんと座っている。彼女は彼女で身長は140cmあるかないかの小柄であり、ゆったりした白い私服に身を包んでいる時点で外見的には高校生というよりは小学生の方が近いのではないかと考えてしまう。

 しかし、だとしてもあの紺色のホットパンツから伸びる脚はけしからん。小学生だか中学生だか知らないが、いくらなんでも露出しすぎではないだろうか。スカートじゃないから隠す必要が無いという安心感が逆に隙を生んでいるらしく、一周回って無防備だ。彼女は戦闘向けの異能使いらしいし、恐らく動き易さ重視でホットパンツを選択したのだろうが、あれでは選択を誤ったと評価せざるを得ない。きっと自ら危険を倍増させてることだろう。お労しや。


「あのぅー……私の足に、何かついてますか?」


「へっ?」


 栗色の髪をショートボブに揃えた少女が、不安そうに白い顔を赤らめて聞いてきた。膝の上に手をおいて、細いふとももをもじもじさせている。


 いや、違う。断じて違うぞ。ジロジロ見ていた訳では無い。化野(あだしの)との戦いであの砂の触手を消し飛ばしたあの脚がどういったものなのか観察していただけであって決して他意はない。

 と、ここまで言い訳を考えたがそれをうまく言語化できず、結局どもってしまう。


「いや、えーとだな!別に見ていた訳じゃなくて……!いや観察はしてたんだけどね……!」


「か……観察、ですか……」


 少女が細い足をもじもじさせながら両手で防御姿勢を取る。

 あっれえ?おかしいぞ。なんか友原ちゃんとの距離がちょっと離れた気がするんだがこれ幻覚かなんかなんだよな。五陵会の異能使いの攻撃なんだよな。引かれてるんじゃないんだよな。


 嵐条と交渉してる時はそんなでも無かったのに、何故いざ女の子を前にするとこのザマなのだろう。言葉を重ねれば重ねるほど首を絞められていく感じがする。


「いや、だから断じて僕は太ももに興味があった訳じゃ……いや興味はあったんだけどそれはinteresting的な意グベェッ!?」


「ユタカ落ち着いて」


 僕の横に座っていたエデの容赦なき肘が脇腹に突き刺さり、つい先程の嵐条の膝蹴りがプレイバックした。クールダウンしろという意味だろう。いくら少女の小さい体とはいえ肘打ちはちょっと流石にどうかと思うが。

 脇腹を抑えてうずくまる僕の背中に、ベッドの上で寝転がる嵐条からの「お前キモいな」というシンプル極まりない軽蔑が突き刺さり、いよいよ再起不能となる。

 エデは予想以上に僕が堪えたのがショックだったのか、オロオロとしながら僕の背中をさすってくれた。

 ……ありがとう。でも君がダメージを与えたのは背中じゃなくて脇腹なんだけどわかってんの?

 というかなんかアメとムチをテクニカルに与えられている気がするんだが、この娘天性の魔性だったりするんだろうか。


「……状況を整理したいんだけどナー……」


 若者の会話からハブられた中年男性の心の底から漏れたであろう声は宙に漂うのみであった。

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