15話『裏切られるのは誰か』
「……もとより、俺たちは誰にも与してなどいなかった」
男は語る。
その始終を。
「五陵会が覇権を握るこの街で、俺たちがなお好き勝手やってたのは、俺ともう一人、大嵐連合副族長がいたからだ」
青年は、「異能が発現する前も、後もだ」と付け足す。
どうやら二人とも、ある日を境に急に同時にそれが使えるようになったらしい。
「俺たちは総勢20人程度の小さな暴走族ながら、この拳一つで今までの地位を築き上げてきた。一時期は『野火木の風神』とまで謳われたもんだ」
虚空を見つめて思い返すように、得意げに青年は、語る。それが、過去のことであると分かっていながらも、だ。
「馬鹿やって、喧嘩やってを繰り返していたあの日々は、確かに最高に楽しかった。一瞬一瞬が輝いていた。俺とアイツに異能が発現したのもこの辺りだ。一般人、異能使いの区別無くみんなボコボコにのしていたさ。だが、井の中の蛙でいられたのは僅かばかりの時間だけだった」
鳥鞠の言を思い出した。そうだ、この街にいるすべてのアウトローたちは結局……
「五陵会に目をつけられると、俺たちはもう逃げられなかった。しかし……結局俺たちは力だけがすべてだと、その時は本気でそう考えてた」
「そうして、躍起になって、五陵会の奴らを次々とボコボコにのしていって、ふと後ろを任せていた相棒に目を向けた時、そこにアイツはいなかった」
比喩的な表現だったが、それだけでなんとなく理解出来た。
つまるところ。嵐条は裏切られたのだ。
自分が最も信頼していた、副リーダーに。
「アイツは族を売って引き換えに五陵会に加入した。結局俺は、化野の奴に負けて、奴らに屈するしかなくなった」
砂使いと風使いの因縁はそんなところから既に存在していた。ならば彼が僕の異能を見て当惑していたのも素直に頷けるというものだ。
そこから先の話は読めていたが、あえてそのまま聞くことにした。
「この街で、裏社会の人間としてやっていくには、五陵会に上納金を納めねばならなかった」
よくある話ではある、と思う。
ヤクザが暴走族や低位組織を脅して上納金を得る。
暴力団というものは、人に言えない商売をしているが故に、得てして金が不足しているものなのだ。
だから、狩るのだ。
自分よりも弱い悪党を狩る。そうしてヤクザは資金を吸い取って活動費に回すのだ。
「長い、長い苦痛だった。万引き転売カツアゲ窃盗なんでもした。そうしてなんとか納めていた金と引き換えに、俺達はバイクに跨った」
その目に宿るは怒りか悔恨か。
ただただ激情を、理不尽をここにはいない誰かに吐き捨てる。
「そんな最中、あの化野の野郎が、そこの女の写真をみせて『この女を生け捕りにすれば私たちはもうお前たちに手を出さない』とか言われたら、もう選択肢なんかのこっちゃいない」
彼はエデを指さしながらそう言った。
すなわちそれがこの事件の全貌なのであった。