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死に損なったエーデルワイス  作者: 釘抜き
一章《返り咲く雪の花》
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14話『自信の使い道』

 目を覚ました嵐条(らんじょう)の第一声は、それはそれは粗暴なものだった。


「……馬鹿にしてンのかボンクラ」


「起き抜けにそれとかアクセルすごいね君」


 あまりに不条理に聞こえたもので、つい皮肉を返してしまった。元から不機嫌だった嵐条の眉間の皺が更に深くなった気がする。漫画とかだったらきっと「ズモモ……」みたいな効果音とともに黒い気的なものが描写されていたことであろう。

 一瞬やっちまったと思ったが、ここで怯んだら負けだと思い、嵐条の目をまっすぐ睨み返した。学校の保健室とは思えない異様な雰囲気に、エデがおろおろと焦り出す。


「……」


 嵐条は拳を握って素人にもわかるようなピリピリとした殺気を僕に向けるが、


「滅多なことは考えない方がいいよ。ここでもう一度やり合いたいなら話は別だが」


 あの異能がもう一度発現させられるかはさておき、あくまでハッタリの一環として挑発する。彼がこれで後先考えない戦闘狂なら話は変わってきたが、そうでないのは目に見えていた。


「それに、君の傷を治したのはエデなんだぞ」


 僕は後ろでお茶くみに再チャレンジしているエデを親指で指して言った。それに対し、嵐条はめんどくさそうにガシガシと赤毛を掻いて言った。


「分かってる。だからこそ馬鹿にしてんのかって聞いたんだよクソボケ。それで俺に恩を売ったつもりか豚」


「ッ!!」


 ブオッ!!という烈しい風が吹き荒れ、部屋の書類や包帯が撒き散らされたと思うと、嵐条はもはや即座に拳が届く間合いにまで距離を詰めていた。

 僕の顔はぐい、と青年の手に掴まれて、目上の嵐条の顔に向けさせられる。


「だとすりゃ笑えるほどお粗末だ。俺がそんな昔気質の任侠を通す人間に見えンのか?」


 あまりに予想通り過ぎる返答だったので、半ば笑いながら返答した。


「……恩を売る?勘違いするなよ、チンピラ。君にはもう後がないんだぞ」


「あァ?」


「君は五陵会に捨てられた。あの喪服の女が真っ先に君に攻撃したことからそれは分かりきってるだろう」


「ハッ……それこそ分かっ」


「それに、君のお仲間も全員やられてるはずだ」


 嵐条の表情が固まる。

 それは驚き故か。

 いや、実際のところは彼だってわかっていたはずだ。化野(あだしの)という無差別に災厄を撒き散らす羅刹を相手に、僕達が無傷で生き延びているという現状を鑑みれば、探偵事務所から仲間の助けが来ていたということぐらい誰でも即座に理解できて然るべきだったのだ。

 ならば、探偵事務所を襲った仲間が潰されていたことくらいすらも、理解できて然るべきだったのだ。


 しかし、彼はそれを知らぬように振舞った。知らずのうちに逃げていたのだ。

 であれば、それこそがこの男が避けたかった話題だ。つまるところ、急所。僕とこの男の立ち位置を対等に。いや、優位に保つための最後のファクターと言える。


「あのあと、僕達はタッチの差で探偵事務所の異能使いに救われた。ああ、この辺は君死にかけてたから知らないんだっけか?」


 僕はじっと嵐条の目を見返しながら追い打ちをかける。


「ついでに言えば、もうすぐ彼らと合流する。五陵会は君を切り離し、大嵐(ストーム)連合の尖兵は全員友原(ともはら)が倒した。わかるか?君は孤立したんだ」


 王手をかける。

 この現状から嵐条を無理やり味方に引き入れる起死回生の一手である。


「これは君の為に言っているんだ。いいか、僕達はエデを守り通すために化野を倒す。その為に君は協力しろ、それしか君が生き残る道はない」


 それに、と僕は付け加える。


「君も五陵会に(はらわた)煮えくり返されてるんだろうが、嵐条颯斗」


 嵐条は奥歯を噛み締め、さぞかし憎たらしそうに僕を睨みつける。


「知った様な口ペラペラペラペラ叩きやがって……舐め腐った報復、必ずくれてやらァ……」


 嵐条からまた敵愾心が漏れ出した。

 あれえ?

 またミスった?煽り過ぎた?

 と、半ば泣き出しそうになりながら嵐条の顔から目を背ける。


「だが、友原とかいう異能使いと五陵会のクソ共をぶちのめしてからにしてやるよ」


 お前は殺すのは最後にしてやるって奴だ。

 これは一種のデレだろうか、でなければお約束が発動して僕は序盤で殺されることになる訳だが。


「それは交渉成立ってことでいいのか?嵐条」


「調子乗んな。殺される順番を早められてえか?」


 とりあえず、仲良くできないタイプだということがわかっただけでも収穫だろうか。嵐条は改めてエデが頑張って入れたお茶を飲みながら言った。


「……で?何が聞きてえんだ?」


「え?」


「とぼけんな、白々しい。まさか単純に戦力として運用するために俺に協力を持ちかけた訳じゃねえだろうがよ」


 参った。こちらが握ったと思っていた主導権を完璧に取り返されている。確かに、僕が求めているのは情報源としての嵐条だ。


「……わかった」


 観念して、僕の思っていた幾つかの質問のうちの一つを口にした。


「なぜ君ほどの男が、五陵会なんて組織に甘んじている?」


「あ?聞きてえ事って……」


「一つ目だ」


 僕は制するように嵐条の眼前にピシッと人差し指を突きつける。


「五陵会の異能使いに対抗できないのはわかる。だが、それでも……」


「はぁ……あーぁ、わぁったわぁった。自分語りは好きじゃねえが、時間潰しに話してやるよ」


 そうして男はぽつりぽつりと話し始めた。

 全ての因縁の始まりを。

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