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死に損なったエーデルワイス  作者: 釘抜き
一章《返り咲く雪の花》
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12話『救わば諸共』

 不思議な現象が起きていた。

 不思議、とは漠然な言葉だが、現にこの現状を僕は不思議としか形容できない。


 身長140cmほどの栗色の髪の少女が嵐条(らんじょう)すら軽く切り裂いた砂の爪を掴みとり、僕達を守っていた。


「君は……一体……?」


 その降って湧いたような幸運の具現に、僕は知らずに問いかけていた。

 対して少女は余裕に、上機嫌に、歌うように鈴の音のような声を奏でた。


「ただのバイトですよ。鳥鞠(とりまり)探偵事務所の雑用ですっ!」


 少女は掴み取った砂の巨腕をよっと気安く引っ張り、日焼けも知らないような真っ白な脚で砂の怪腕を蹴り砕いた。

 掴んでいた砂の爪も、サラサラと少女の手の内から零れるように落ちると、アスファルトに吸い込まれていった。


友原(ともはら)花澄(かすみ)……!!」


 化野(あだしの)が忌々しげに少女の名を口の中で噛み砕いた。

 友原と呼ばれた少女は、あの悪魔相手にもまったく臆することなく、威風堂々と宣言した。


「ええ、友原です。こんにちは、五陵会のお姉さん」


「貴方は(かしら)が『欲しがって』いたから、あまり敵に回したくはないのだけれど?」


「事務所を襲った癖にどの口がほざいているんです?私の留守を狙うとは随分卑劣ですね、仁義の二文字が泣いていますよ?」


「まさか、あれは大嵐(ストーム)連合が勝手にやったことです。むしろ我々は鉄槌を下しにきただけですが」


「言い逃れもここまでくれば嫌味ですね。憤りも通り越して呆れちゃいます」


 舌戦に痺れを切らしたのか、ケダモノの触手は友原の頭を飛び越して僕に狙いを定めて突き出される。


「ここは通行止め、ですっ!!」


 少女の拳が根元からそれを拳で叩き砕くと、砂はすべて乖離して空中を舞った。

 喪服の女が鬱陶しそうに舌打ちをして、追撃を加えようとするが、対照的な白いキャミソールと紺色のホットパンツの少女は、どのような異能があるのかその全てを容赦なく叩き砕く。


「すごい……あんな強い人、グループでも見たことない……」


 エデは思わずと言ったふうに呟いていた。

 しかし、少女は高い声で僕達に指示する。


「行ってください!大丈夫です!こっちには所長がいますから!!」


 その言葉がどういう意味を持っていたのかは分からなかった。が、ひとまず友原の言葉を信用するしかない。


「……エデッ!行こう!!」


 白い髪の少女の手を三度握る。どこへ逃げるかはこれから考える。出来れば、個人を特定されるようなところは避けたいが……


「まって!!」


 と、考えながらも手を引いていこうとした矢先、エデは珍しく大きな声を出して、どこかを見つめていた。


 そこには、腹から池のように広がる血の水たまりの中で、顔を浸して溺れていた赤毛の青年の姿があった。


「嵐条……」


 明らかに致命傷だ。このままでは出血多量で、間もなく死ぬだろう。しかし、エデの異能を使えば、助けられることもまた明らかだった。

 信用していた身内に裏切られて死ぬ。それは確かに無念だろう。不憫でないといえば嘘になる。

 ……しかし。


「いいのか?エデ。コイツは五陵会に傅いて君と僕を殺そうとした男なんだぞ!?」


 僕はエデに向かって思わず声を荒らげてしまった。しかし少女の目は決意で固まっており、何があろうと揺らぎそうにはなかった。


「関係ないよ、ユタカ!目の前でこの人が死にそうになっているなら……助けられるなら……私は助けたい!!」


 目眩がするようだった。

 そうだ。これがこの少女の在り方だった。

 この少女にはマフィアなんて冷徹を強いられるはハナから向いていなかった。それだけの話だ。僕だって、この在り方に救われたのだ。


「〜〜〜〜〜っ!!」


 声にならない声を上げた後、僕は自分の砂で嵐条を担ぎ上げ、強く握ったエデの手を再度、引く。


 こうして、僕達は可視化された幸運に救われ、最初の鬼門たる大通りから逃げ果せたのだった。

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