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お母さん! 尻尾は男の憧れです!

___「ホワイトシーフ城」___


 城に帰った頃にはすっかり陽が沈み、夜鳥が鳴きだしていた。

 廊下や各部屋に蠟燭で火が灯され、給仕の者が夕食の準備を初めている。

 前にいた世界ではこの時間帯は家に帰る事などなく、会社に戻って、お客さんに提案する資料を作ってたので早く夕飯を食べ、早く床に就くこの生活習慣に慣れるのに時間が掛かったが、慣れればこちらの生活スタイルの方が健康には良い。

 前よりも確実に二割増しくらいで健康っぽい気がする。


 ヴァ二アルを城に連れて帰るとヴァ二アルは「風呂に入りたい」と言ってきた。

 他人の家に来ていきなり風呂に入りたいと要求するのは些かワガママな気がしなくもない。

 友人の子供がそんな事言って来ていたら俺だったらその友人の育て方を疑うレベルだ。

 ただ、ヴァ二アルの身体から獣臭がしていたので俺は「奥行って右に風呂がある」と言って風呂に入れてあげた。


 ___「脱衣場」___


「ねえ! タオル取ってよ!」


「ああ。はいはい」


 無駄に広い脱衣場は一般家庭の主寝室くらいの大きさで、壁は外壁で使っているレンガが剝き出し、床もタイルがそのまま状態で冬の脱衣場は地獄のように寒い。

 なので、俺はそこに給仕に作らせたバスマットを敷いて冷たさを和らげ、タオルなどを置く場所がなかったので壁に板を掛けて簡易的なタオル置き場を作成した。

 それを見た給仕たちは「これはすごい!」と声を上げて俺を称賛した。


 前の世界では当たり前だった事もこちらの世界では大発明。

 周りの人間達が驚く毎にここが違う世界だと実感させられる。


「ふう~。久しぶりの風呂は気持ちいいね」


 髪をワシワシとタオルで拭きながら、生まれたての姿で目の前に現れるヴァ二アル。

 胸を見てもぺったんこ、下腹部に目をやると俺も持ってる似たような物がある。

 大方の予想に反して、どうやら、ヴァ二アルは”彼女”ではなく”彼”だったようだ。


「ん?」


 股と股の間にぶら下がっているものは振り子のように音もたてずに揺れていたかと思うと上下に動き出し、人間にはする事が出来ないような動きをしている。


「お・おい。そんなにジロジロ見るなよ... ...。は・恥ずかしい」


 ヴァ二アルは顔を赤らめ、女のような表情を浮かべて軽く抵抗。

 華奢な体や声色は完全に女だが、下にぶら下がっているものは男の印。

 しかしなんだろう... ...。

 ヴァ二アルの裸を見ていると開けてはいけない心の扉を開けてしまいそうになる。


「... ...すまん。俺の股にぶら下がっている大蛇はそんなコミカルな動きをしないからちょっと憧れちまって」


「股にぶら下がっている? ああ。尻尾のこと?」


 そう言うとヴァ二アルは器用に尻尾を動かし始める。

 ... ...尻尾。

 これは男ならだれでも一度はあればいいなと思う身体の部位。

 一部マニアからは乳袋よりも身体に付いていて欲しいと言われるほどのマニアックアイテム。


 俺は幼少の頃より怪獣映画が大好きで大きくなったら怪獣になりたいと思っていた。

 怪獣には尻尾がある。

 尻尾のない怪獣もいるが幼き頃の俺は尻尾=怪獣という認識でそれは今でも変わることがない。

 この世界には様々な種族がいる。

 エルフにも魔女にもゴーレム等などに会ったがどれも尻尾は付いてなかった。

 そして、やっと出会った尻尾がある種族。

 俺は自然と目の前の尻尾に手を伸ばした。


「____ひゃん! な・なにを!」


 急に自分の一部を鷲掴みされたヴァ二アルは驚いて、小鳥のような甲高い声で鳴いた。

 ヴァ二アルの尻尾は風呂上がりだと言うのに水気がなく、まるでラバーのような材質のものに触れているかのようで思っていたのと違った。

 

 手の平の中でウネウネと動く物体は鰻を鷲掴みしているようで若干、気持ちが悪く、他人の身体の一部に触れてしまった罪悪感を徐々に感じて来た俺は尻尾を放そうとすると背後から嫌悪感剝き出しの声が聞こえ。


「... ...花島? あなた、一体、なにをしているの?」


 血の気が引くというのは正にこのことかと自身の好奇心の高さを悔やむのだった。

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