お母さん! 異世界で性別不明のやつは大体女!
____「西の門」____
数十分ほど歩くと目的地につく前から何やら門の付近でワーワーと子供が騒いでいる声とそれにイライラした兵士達数名の声が聞こえる。
「僕はこう見えても20歳だ! 子供じゃない!」
「いや! 絶対子供! 人間の大人でそんな背の低いやついないよ!」
熱くなっている兵士の肩をたたき。
「よう。どうした? 他国の者が来たって聞いたけど? こいつ?」
俺の顔を見て、兵士は多少ホッとした様子だった。
「ええ。こいつがね。絶対に子供なのに大人だ! って言い張るんですよ!」
「ん?」
他国の者は身長が140㎝ほどでゴーレム幼女よりも少し背が高い程度。
目が大きくクリクリとしており、糸くずのようなくせっ毛で正直、大人・子供の話以前に男か女かの性別も不明な中性的な顔立ちをしていた。
足元に目線を落とすと長い旅をしてきたかのように靴はボロボロで服の所々に穴も空いている。
まあ、なんにせよ。
この国に入れてやらねばこの華奢な人間は獣に喰われてしまうだろう。
「おい! お前、僕を見下ろすな!」
「え? ああ。はいはい」
腰に手を当て、小柄なくせに強気な姿勢を見せる姿はゴーレム幼女に似ている。
俺は片膝を地面につけ、この小さな王様に対して目線を合わせた。
「あなたは一体何者なんですか?」
未知との遭遇との第一声に相応しい言葉をなげかけた。
しかも、笑顔で。
こちらが柔和な態度で対応すれば噛みつかれる心配もない。
そう、高を括っていたのが小さな王様は... ...。
「お前、自分から名を名乗れよ」
と何とも高圧的。
多少、眉間がピクピクし、ストレスゲージが緑色から黄色に変化したがここは大人の対応をしなければならない。
だって、俺は今、”国王補佐”という何とも気品がある響きの役職なのだ。
後ろにいる兵士達にも他国の者が来た際の手本を見せてやらねば。
「ええ。それは失礼いたしました。私はこの国で国王補佐をしております。花島と申します。以後、お見知りおきを」
くう~。
決まった。
これは完全にカッコイイ言い回しが出来た。
俺が女だったら自分自身に惚れてる。
後ろで事の成り行きを見守っている兵士達も俺の真摯な対応をみて自身の身の振り方を改めようとするに違いない。
「なんだ。この国の国王補佐は随分と汚い身なりをしているんだな。国王の品位すら疑うよ」
小さな王様はファッションチェックを簡単に済ませ、鼻で笑う。
確かに、異世界に来た時に履いていたジーパンとTシャツを着用している。
初めて、シルフに会った際も服装の件で嫌みを言われたのを思い出した。
「僕はシルベリア王国から来たヴァ二アル・パスだ。偏狭な地に住んでいる田舎者でもヴァ二アル家の名は聞いたことがあるだろう?」
「ヴァ二アル家? 存じ上げませんが」
「はっ!? 知らない!?」
ヴァ二アル・パスは目を点にしている。
後ろにいる兵士達の方を見てみるが知らない様子だ。
これだから、異世界の連中は「~家」って名前を出せばビビると思っているから本当にタチが悪い。
「~家」で知っているのはエマニエル家くらいだ。
「すいません。この国は100年近く他国との交流を行ってないので俗世にみんな疎くてね。で、ヴァ二アルさんは何しにここまで?」
彼の身分がどうこうというのは二の次。
先ずは彼がここまで一人で来た目的が重要なのだ。
「... ...」
ヴァ二アル・パスは顔を赤くして、何やら落ち着かない様子。
何? 何か言いにくい事でもあるのか?
「もしかして、国を追放されたとか?」
兵士の一人がこれぞニヤケ顔といった表情で横から入ってきた。
これは由々しき事態だ。
国王補佐が会話をしている最中に名前もないような兵士Aが会話に参加するなんて言語道断。
発言が増えれば彼に正式な名を付けなくてはいけないので面倒くさい。
後で注意しておかなければ。
「つ・追放なんかされてない!」
おん?
兵士の冗談とも取れる発言に過剰に反応するヴァ二アル。
これはひょっとして... ...。
「じゃあ、この国に来た目的を教えてください」
「... ...」
ヴァ二アルから返答がない。
下を向き、俺と目を合わそうともせずに小鹿のように震える姿は確かに20歳に見えない。
「おい! おい! 本当に国を追い出されたんじゃないか! ハハハ! こいつは笑える!」
兵士Aはヴァ二アルのことが嫌いなのだろう。
ワザとらしく大声で笑い、ヴァ二アルの精神力を削る。
まあ、人に言えない事情は誰にでもあるか... ...。
「おい。ヴァ二アル。もうじき、陽が暮れる。国の周辺には危険な生物がたくさんいるからとりあえず、中に入っていいぞ。理由は落ち着いたら教えてくれ」
ヴァ二アルは優しい言葉を受けて顔をあげ、目と目が合う。
先程、こいつの性別が分からないと言ったが、恐らく、こいつは女だろう。
異世界において男か女か不明な存在は大抵、女だから。
「花島さん! いいんですか!? 得体の知れない部外者を国に入れてしまって!? シルフ様に知られたら... ...」
「いい。俺が言っておく」
「... ...そうですか」
確かに、以前のシルフであれば国外から来た者をそうやすやすと国に入れまい。
ただ、今のシルフは何と言うのか。
この目の前にいる国外からの来訪者が現状を打開するカンフル剤のような者になってくれるのを僅かに期待しながら、沈みゆく太陽を背に帰路につく。




