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お母さん! ゴーレム幼女の亡骸を抱いて

「______うわあああ!!!!」


 ゴーレム幼女の無残な姿を見て、俺は絶叫し、その場で尻餅をつく。

 大きな声を出したからか、カラスは暴れ、ゴーレム幼女の身体を意味もなく突き刺す。

 俺はすぐに立ち上がり、窓から身を乗り出し、カラスを払い、ゴーレム幼女を中に入れようと腰のあたりを掴むと絵具を潰したような気持ちの悪い感触が手に伝わる。


「いてえ! やめろぉ!」


 カラスは獲物を横取りされると認識したのか激しく攻撃を仕掛ける。

 早く、ゴーレム幼女を部屋の中に入れてやりたいのだが、何かに固定されているのかこちら側に引き込めない。


「これか?」


 カラスの羽根が辺りを舞う中、ゴーレム幼女を見るとどうやら手に鉄のくさびのようなものが撃ち込まれて固定されていることに気が付いた。

 少し力を入れて引っ張っただけなのにその小さな掌の中心に打たれたくさびは掌を裂くようにして中指と薬指の間で止まっている。

 

 あと少し力を入れれば小さな掌は裂け、今よりももっと血が噴き出すだろう。

 しかし、この状況で四の五の言っている時間も、心の余裕もなく、歯を食いしばり、ゴーレム幼女を抱き抱えたまま部屋の中に倒れるようになだれ込んだ。

 

 ______っぱつん。

 

 人間の皮を引きちぎったのは当然に初めてでそれはまるで茹でたばかりのソーセージを手で割るかのような少し気持ち悪い感触だった。


 エサを取られたカラスが襲い掛かってくるので、近くにあった木の棒で応戦。


「あ! おい! やめろ!」


 飛んでいるカラスに夢中になっていて、ゴーレム幼女に目を向けると数匹のカラスが群がり、髪を強引に引っ張ったり、耳を乱雑に引きちぎろうとしている。

 俺は大きな声を出しながら木の棒でカラスを殴り続け、数匹のカラスを撃ち落としたところで他のカラスはやっと逃げていった。


「______こいつ! この! 野郎!」

 

 既に事切れているカラスの亡骸を執拗に木の棒で殴る俺を見てか、それとも口癖の一貫としてなのか大丈夫オジサンが「大丈夫?」と声を掛け、俺は正気を取り戻して、一番やるべきことを行う。


「おい! ゴーレム幼女! 大丈夫か!?」


「... ...」


 マンションの中は電気がない為、薄暗く、ゴーレム幼女を中に入れようと必死で彼女の状態というものはあまり詳しく見ていなかった。

 太陽にかかっていた雲が取れたのか、窓からギラギラとした陽が差し込み、ゴーレム幼女の身体を包み込むように照らすと損壊状況がハッキリと分かり、俺はその場で吐いてしまう。


「___うおえええ!!!」


 左足はまるで何かに引きちぎられたかのように胴体から無くなっており、あまりの力が加わったのか腰骨のようなものが露出。

 右足は辛うじて原型を留めているのだが、右足首の甲には穴が開いており、掌に打たれた楔がここにもあった事が伺える。

 両腕と赤く染まった服の脇から見える胴体には無数の内出血と両の掌にある楔の痕。

 

 ____俺は直感的に拷問をされたのだと悟った。


 そして、何かのメッセージがあるのか、それとも、これはゴーレム幼女をこんな目に遭わせた奴の性癖なのか、”身体の損傷とは対照的に顔には傷一つない”。

 頭皮や耳が赤くなっているが、恐らく、これは先ほどのカラスが付けた傷。


「... ...花島」


 質問するようにも呼びかけるようにも捉えられる言葉を微かに吐いたのはゴーレム幼女。

 まさか、こんな状態で喋る事が出来るなんて。

 そして、その呼び掛けに対して俺は「ごめん」と返答。

 何があったとは聞けなかった。それを言われるのも辛かったし、一番は聞きたくなかった。


「... ...花島」


 俺の声が聞こえていないのか、どうやら、ゴーレム幼女は意味もなく、俺の名前を呼んでいる。

 

「ここだ! ここにいるぞ!」


 マンション中に響くほどに声を張り上げるが、鼓膜が潰れているのか、ゴーレム幼女はひたすらに俺の名前を連呼するのみ。

 

「ここだって!」


 俺は損傷が少ないゴーレム幼女の手首に優しく触れると。


「... ...あはは」


 とゴーレム幼女は笑った。

 手を握って欲しいのか右手の人差し指だけを微かに動かし、俺の右手を絡ますと握り返したいのか必死に右の人差し指を動かそうとする。

 俺の手の甲が自身の人差し指に触れるとまるで子犬を愛でるようにゆっくりと微かな力で撫で、そして、その動きは段々と遅くなり、指を折り曲げる前、ちょうど、俺の手の甲の真ん中くらいで爪を立てるようにして止まる。


「ゴーレム幼女?」


「... ...」


 ゴーレム幼女から生気は感じられず、返答もない。

 それがどういう事か理解するよりも先に俺は声を上げて泣き、小さな身体を引き寄せるように抱え込んだ。

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