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お母さん! 魔法と言いつつも結局は肉弾戦でした

 ミーレとレミーの二人の魔法少女達を救うと宣言したのはいいが、俺はそこから固まってしまう。

 

 で、どうやったら助けられるんだ?

 

 ミーレとレミーはハンヌに操られているのだから、その洗脳を解かなくてはいけないという事は分かるのだが、じゃあ、洗脳を解く方法とは?


 腕組をしながら熟考しているとアホな俺を見かねたリズが助言をくれた。


『ハンヌってやつを倒せば洗脳は解けるよ。まあ、そいつの元に行く為にはあの子たちを倒さないといけないんだけどね』


「倒すか... ...。何か策はあるのか?」


『うーん。それがね... ...』


「あんた! 何、ボソボソと喋ってんのよ!」

 

 ミーレは俺に作戦を立てる時間も与えずに激昂しながら今度は直径3mほどの氷塊を魔法で作り、こちらに向かって火球を飛ばすように放ってきた。

 火がダメなら氷ってか... ...。


「甘い!」


 火球を打ち消したように今度は氷塊を一瞬で溶かせるほどの炎の網で包みこむように消火。

 一度、魔法を出したことにより慣れていたのか、氷塊を消失させるイメージから魔法発動までの時間は先程よりも早かった。

 それが油断に繋がったのだろうか。

 先程のように右手を氷塊の進行方向に向けており、俺の懐はガラ空き。

 そこに飛び込んできたのは白髪のもう一人の魔法少女レミー。


「どっちが甘いんだか... ...」


 レミーは右手に持っている便所の棒は使わずに何も持たない左手を俺の腹部に直接当て、高速で呪文を詠唱。


「さよなら。花島君」


 薄ら笑いを浮かべたレミーがそう言い放った直後、腹部から赤い閃光が視界に入り、俺は大きく飛ばされ、石の壁に叩きつけられる。


「ナイス! レミー! これで、あいつ死んだね!」

 

 土煙が目の前を舞う中、ミーレが嬉々とした声を上げ、レミーに声を掛けるがレミーは淡々とした口調で。


「いや、手応えはあったんだけど、どうやら、まだ、リズの気配が消えてない」


「『ご名答。今、こいつの身体の中にはあたしがいるんだ。瞬時に防御する事なんて容易い。まあ、2対1の構図からフェアな戦いになったってだけだけどね』とリズは言ってる」


 右手で土煙を払い、自身の身体を確認するが傷や服の汚れもない。

 「流石、リズの力か」と感嘆の声を口にする。

 

「ふん。2対1の戦いですって?」


 レミーは腕を組みながらリズの言葉を借りて嘲笑。

 今更の事だが洗脳されている状況を考慮してもあまりにキャラが違い過ぎる。

 まあ、見た目もババアから白髪の美少女になっているから何とも言えないが。


「何が可笑しい? お前ら倒されるかもしれないんだぞ?」


「倒される訳ないじゃない。あんたらには魔女の呪いがあるんですもの」


「... ...同族殺しか。でも、それはお前らにも言える縛りだろ。なあ、どうせ、決着は付かないんだ。だったらもう、この無意味な争いはやめよう」


 リズの世界で”同族殺しは禁忌”と言っていた。

 しかし、それは魔女であるミーレもレミーも同じ事。

 いくら戦ってもこれは不毛な争い。


「アハハ! それは違うよ! あたし達はあんたのような”模造品”とは違うんだから」


「”模造品”?」


 平和主義者的な解決策を提示するとミーレは腹を抱えて笑い出す。

 この命の取り合いを行う場においてミーレが発する超音波ボイスはあまりに不適格で反響する声は耳障りでしかない。


 そして、言葉足らずの姉を補足するかのようにレミーが横槍を入れ。


「魔女は人間などの魔力を持たない種族に魔法を教えた。でも、それは慈善事業で教えた訳ではないのよ。魔力を教えた目的は魔女に忠実な従者を生むため。家畜や奴隷が主人に襲い掛からないようにあなた達人間も首輪を付けるでしょ? 私達の祖先は術式の中にある呪いを仕掛けた。それは”魔法を使うものは魔女を殺せない”ってね」


「... ...」


 薄々、勘付いていたがどうやら予想は現実のものになった。

 リズは二人の事を”本物の魔女”と呼称していた。

 本物がいるという事は偽物がいるという事を示す、わざわざ”魔女”という言葉の前に”本物”という言葉を付けたのは”魔女”という存在を区別するため。

 分が悪い事にリズは後者の存在だった。


『黙ってて悪いね。あたしも憶測でモノを言いたくなかったからね。でも、恐らく、二人が言っている事は本当だろうよ。現に防御魔法は出せるけど攻撃魔法は出す事が出来ない。二人に敵意を向けただけで頭が痛くなるんだ。まあ、家畜を飼っている人間が魔女の家畜だったなんて笑える事実だよ』


 リズが呟くように言い放つ言葉からはまるで覇気が感じられない、どうやら将棋で言うところの詰みの状態だと今の状況を悲観したのだろうか。

 確かにリズの魔力は本物の魔女に引けを取らないほどに強大。

 だが、それは限りあること。

 長期戦になれば勝ち目がないのは明白な事実。

 ミーレが遠距離攻撃をして、俺が魔法で防ぐ、その隙にレミーが俺の懐まで潜り込み、さっきみたいに近距離から魔法を打ち込む。

 それを繰り返していけばいづれリズの魔力は枯渇していくのは目に見えている。

 2対1の戦いと言いはしたものの実質、戦力差では2対1のまま、死ぬ時間が伸びただけだ。


「まあ、死ぬなら次で死んでよ。早く君達も天国に行った方がいいよ!」


 そう言いながら、ミーレは再び火球をこちらに向けて放つ。

 そして、俺は右手をかざし、火球を打ち消す。

 それと同時にレミーが先程と寸分狂わないタイミングで俺の懐まで侵入。

 

 まるでデジャブのような展開。

 まあ、前回と違うというとリズのテンションが心なしか低いことか。


「さあ! また、吹き飛びな!!!!」


 レミーは再び、俺の腹部に手を当てる。

 うむ。

 ここかな。

 レミーの手が触れた瞬間、俺の左手は弾力のある柔らかいものを掴んでいた。

 感触を味わおうとそれを揉むと。


「______きゃあああ!!!!」


 とレミーの悲鳴が辺りを包み、彼女は胸を押さえてその場にうずくまる。


「ど・どうしたの!?」


 レミーの姿を見てただ事ではないと思ったのかミーレは慌てた様子で声を掛け。


「あいつ! 絶対に殺す!」


 レミーは殺気に満ち溢れた目を俺に向ける。

 いや~。

 やはり、女子の軽蔑の視線はこの上ないご褒美だ。


 そして、俺は左手で空気を先程のように揉みながら。


「俺は魔法について学んだ覚えはねえ。だから、呪いもクソも関係ないんだよ」


 リズが攻撃ができなくても問題はない。

 ミーレとレミーを殴るという事で俺の拳と心が若干痛むがこの緊迫した状況では選んではられないのだ。

 

「クズ! 変態! 魔法の知識もないような人間がいるかよ!」


 罵倒されても俺は挫けない。

 何故なら俺はドMだからだ。

 

 さあ、俺たちの戦いはこれからだ!

 

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