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お母さん! 早速のピンチなんです!

___ゴーレムの巣 家内部___


「うお~!!!」


 条件反射的に声が出てしまった。

  俺は高校時代には家で飼ってた猫が行方不明になり、泣きながら三日間探し回った経験がある程に無類の猫好き。

 だが、目の前の猫には可愛さ、一ミリもなし。


「食べないで! シーザー《ペディグリーチャムの猫用みたいなやつ》あげるから!!」


 ... ...あれ? 少し変だ。

 猫にこの日一番の命乞いをするが襲ってくる気配がない。

 こいつ、はく製か?

 恐る恐る触ってみると死体のように体温を感じない。

 こいつ死んでない?


 ______ガチャ!


 後ろから扉が開く音がし、音程のズレた鼻歌を歌いながらゴーレム幼女が家に入ってくる。


「チャッキー! 餌はおいしいかみそ?」


「お宅のチャッキー冷たくなってますけど... ...」


 死亡宣告をするとゴーレム幼女は血相を変え、チャッキーに近付く。


「ちゃ・チャッキー!!!」


  ゴーレム幼女が走ってチャッキーの鼻のあたりに泣きながら抱き付く。

 恐る恐るチャッキーの背後に回ってみると死んだ原因が判明し、俺はプロファイリングを始めた。


 この家の小さい窓に外からのぞき込むようにしてチャッキーは顔だけ家の中に突っ込んだ形になって死んでいる。

 恐らく、死因は首が抜けなくなっての窒息死。

 

 そして、このゴーレム幼女。

 見た限りチャッキーを溺愛していたに違いない。

 この閉鎖的な空間でゴーレム幼女は寂しかった。

 心の支えはこの”猫の化物”だけ。

 こいつはゴーレム幼女の家族だったに違いない。

 それを知った俺の目には薄っすらと熱い物が... ...。

 

 俺は刑事ドラマのベテラン刑事でかのような佇まいでゴーレム幼女の肩をポンと叩く。


「まー! 気持ちはわかるよ! とりあえず落ち着こうな」


 肩を震わせているゴーレム幼女。

 最愛の家族が死んだのだ。

 すぐに立ち直れる訳がない。

 三日___いや、一ヶ月は引きこもってしまうかもしれない。

 

 しかし、俺の心配をよそにゴーレム幼女はくるっと反転し、パアッと明るい笑顔を向けながら。


「チャッキー死んじゃったからお前が3代目チャッキーだみそ!」


 突然、若者と呼ぶには微妙な年齢の俺を3代目チャッキーに任命する美しき幼子。

 2代目って何か一般的に雑に扱われるのかな... ...。

 と目の前にいる2代目チャッキーに同情した。


「え!? 嫌だよ! しかも、立ち直るの早いな!」


「えー!!! 逆らったら石にしちゃうみそ!」


 『石にする』

 ここで、突然、ゴーレム感を醸し出すワードをチョイスした幼女を俺は痛烈に批判。


「何をいってるんだ! 幼女よ! 大人をからかうのも大概にしなさい! お兄さんは気の長いほうだけど、キレたら幼女でも思い切りぶん殴れるくらいカス人間だよ!?」


「... ...う・うあああん! 怒らないで~!!」


 年相応に泣き出すゴーレム幼女。

 傍から見れば、まるで、幼女虐待しているようにも見えるだろう。

 だが、よくよく考えてみて欲しい。

 俺はこの残虐非道な幼子の面を被った奴にペットのエサにされかけたのだ。多少の意地悪は世論も支持してくれるだろう。


 だが、俺は美女に泣かされるのは好きだが、美しい幼女を泣かす趣味はない。

 こいつのやった事は決して『こら! メッ!』で済ませられる話ではないが俺は大人である前に一人の紳士なのだ。

 幼女の泣いている姿を放っておく訳にはいかない。


「ハイハイ。怒ってませんよ」


 おばあちゃんの真似でゴーレム幼女をあやそうとした時、ゴーレム幼女は泣きながら指を円を描くようにして空中で回す。

 すると、目の前のチャッキーの亡骸が足元から段々と石化し、10秒も経たずに彫刻となる。


「... ...」


「みそ~」


 泣きながら今度は俺の方を見るゴーレム幼女。

 次の標的はお前だ! 

 と言わんばかりのオーラを放ち、ここで回答に間違えば瞬時に石化してくるのは容易に想像出来る。


 俺にはプライドというものが一切ない。


 ”生きる事に対して貪欲であれ”

 それがプライドなのかもしれない。

 幼女が指を回そうと手を上げるほんの数秒のじかん

 人間を辞めるぞ俺は!

 という考えに達するまでには十分過ぎる時間であった。


「にゃお~ん! ちゃお~ん!」

 

 二回目のにゃお~んは噛んでしまった。

 だが、これも愛嬌あいきょう

 女子が初めて作ったクッキーに砂糖と塩を間違えて入れてしまったアクシデントに匹敵するくらいに可愛い間違い。

 

 俺はすでに猫となった。

 人間のような恥じらいの心はすでに失われている。


「 ぐすっ... ...。今度はワンちゃんが良いと思ってたみそ... ...」


 やれやれ。新しいマスターは中々、ワガママな性格のようだ。

 犬? 御安い御用さ!


「キャン! キャン! キャン!」


 どうだ! 犬になってやったぞ!

 しかも、幼女の家が女の子っぽい家だったので、それに合わせてマルチーズ風な小柄で可愛らしい犬になってやったぞ!

  考えながらプライドを捨てられる男。

 それが花島。


「柴犬が好きだみそ... ...」


 おっとこれはイカンイカン!

 あまりに先を読むばかりに読み過ぎてしまった... ...。

 憶測で物事を判断してはいけない。

 大人には重要なスキルだ。

 ここはあくまで普通に、そして、丁寧に。


「わん! わん! わーん!!!!」


「可愛いみそ! おいでみそ~」


 俺は両手両足を縛られているので床を這って幼女まで近づく、世間では俺のような健気な犬を忠犬と呼ぶ。

 恥ずべき気持ちは既に跡形もなく消え、飼い主の元まで早く行きたい! 

 という感情だけが俺を突き動かす。

 

 途中、2代目チャッキーが吐いたと思われる毛玉が口に入り、そのまま吐き出したのはご主人様には内緒だ。

 『ご主人様に余計な心配をさせてはいけない』

 これは忠犬界のスター”ツン”の有名な言葉だ。


「くう~ん... ...。くう~ん... ...」


 幼女の壊れそうな細い足に必死に擦り寄る。

 俺は確かにロリコンではない。

 ランドセル姿の小学生に興奮した事も無ければ、スクール水着を神器として崇めたこともない。

 ただ、多少M気質ではあるのでこの状況に薄っすら喜んでいる自分がいる。


 この一連の出来事をお話にするとタイトルは... ...。

『異世界に来たらゴーレムの幼女に飼われてしまった件』

 でいかがだろうか?


 ん?

 そもそも、今更だが、ここは異世界という認識で合っているのか?

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