お母さん! 巨人の村に行きますよ!
「ホワイトシーフ王国城下町」
昨日あった事をゴーレム幼女に伝えると『にぱー』っと歯を出し、屈託のない表情で笑った。
「なんだよ。嬉しそうだな」
「う・嬉しくないみそ!」
「____ごふっ!」
野球部の先輩のように俺の腹を小突く。
ゴーレム幼女なりの照れ隠しなのだろうか。
まあ、ゴーレム幼女の機嫌が良くなり、ビルの工事は順調に進んでいる。
俺はその間、町の損壊状況の確認という仕事もあり、あてもなくブラブラしていると、瓦礫の上に一人で座っているホワイトを見かけた。
あの一件以来、町の住民達に怖がられる事はなくなったようだが、どことなく元気がない。
「よう! お前いつも暗いな! でっけえ図体してるのによ!」
「う・うるさいな! あっち行って!」
嫌がるホワイトを無視して「まあまあ」といいつつ隣に座る。怪訝そうな視線なんて気にしていたってしょうがないのさ。
「お前、あれだろ。うんこ出なくて元気ないんだろ? 俺もうんこ出ないと暗くなるから分かるぞ」
「は!? そんな訳ないだろ!? 花島と一緒にしないでよ!」
ホワイトは顔を真っ赤にして全力で否定。
「え? そうなの? でも、うんこ出ないと暗くはなるよな?」
「_____知らない!」
「えー... ...」
それから、1分ほど沈黙が続く。
瓦礫を運ぶ町の人々の声や音がし、みんなが働いてるときにホワイトとうんこの話をしている事に対して一ミリも申し訳ないと思わなかった。
沈黙に耐えられなくなったのはホワイトの方だった。
「... ...家に帰りたい」
「そういえば、ホワイトは迷子なんだっけ? すっかり忘れたフリしてたよ」
「フリって何なのさ!」
「家帰ればいいじゃん! 俺なんて、帰りたくても帰れないんだぞ!」
そう。
俺は異世界から飛ばされたのだ。
迷子よりもランクが上の失踪者だ。
「だから! 迷子だから、帰り道が分からないんだよ!」
ホワイトは涙目で俺にそう訴えかける。
涙がこぼれないように右手で目をこすったが、そのせいで目が赤くなり、逆に泣いた表情が強調されてしまう。
「おい~。ホームシックくらいで泣くなよ~」
そんな弱気のホワイトを茶化すとホワイトは天の邪鬼を装う。
「な・泣いてない!」
ホワイトは緊張の糸が解けたのか本格的に泣きだしてしまった。
泣いた迷子を泣き止ますという大義名分を得て、堂々とホワイトの太ももを触ってみると、想像していたよりも太ももは柔らかかった。
「おいおい。そんな泣いてたら犬のお巡りさんも困ってしまって『ワンワン』言うよ。俺が一緒に家探してやるから泣き止めよ」
「... ...う・うん」
打開策を提示したにもかかわらず、スイッチの入ってしまったホワイトの心の蛇口からは水がよどみなく溢れ出ていた。
□ □ □
「う... ...。うう... ...」
ホワイトは泣き止むという事を知らないのか、小一時間ばかりすすり泣きしている。
「もういっそ、大声で泣いてくれたほうが気持ちいいわ」と思うが言えない。
「ケツいたっ... ...」
瓦礫の上に座っているのでケツが痛くなってきた。
このままでは痔になってしまう。
「_____あー!! 何、ホワイトの事泣かしてるのよ!」
どこからともなく、シルフの怒鳴り声がし、クラスに一人はいる世話好きの女の子のようにこちらに近づいてきた。
「いや、泣かしてねえよ。こいつが、ホームシックになって泣き出したんだよ」
「うそつけ!」
さすがにここまで、信用されないのは腹が立つ。
別に日頃の行いが悪い訳でもないし、前の夜なんかは「あなたを復興に協力させて良かった」なんちゃらこうちゃらと言っていたのに、今ではこの扱い。
____まさか... ...。これがツンデレ!?
と第六感を働かせて答えを導きだそうとしたが、「いや、違うな」とすぐに結論を出した。
そういえば、最近、「ツンデレ」って言葉が死語になっている気がする... ...。
そうだ! もっと、ティーンにも受けるような呼称に言い換えよう。
「デレツン?」「ツンデレーヌ?」何か考えようと思ったが二個しか浮かばない... ...。
もう、面倒だから「ナメクジ」で良いや!
「おい! このナメクジ野郎! 少しは俺の事信用しろよ!」
「はっ!? 誰がナメクジだって!? ああ!?」
シルフが鬼のような剣幕で瓦礫を乗り越え、俺の胸倉を掴みにかかり、腕をクロスさせて首を絞めるように掴むので、頸動脈が圧迫されて息が出来ない。
「____カハッ! アアアア!!!!」
「謝りなさいよ!!!!」
「シルフ! 花島が死んじゃうよ!」
泣いていたホワイトも『これはマジなやつだ... ...』と感じたのか、泣くのを止め、止めに入る。
「... ...ちっ! しょうがないわね!」
シルフはホワイトの助言により首を絞めるのを止めたが、目は未だに殺意に満ち溢れている。
まるで、親を殺した宿敵に向けるような目だ。
首元を押さえながら「げほげほ」と俺は大きく咳をする。
なに!? この世界でナメクジって差別用語にでもなってんの!?
「シルフ... ...。あのね、私、本当にホームシックで泣いていただけなの。花島は悪くない」
「そうなの? でも、あたしの事を『ナメクジ』呼ばわりした罪は消えないわ」
マジでこいつ、ナメクジみたいな粘着質な性格だよ... ...。
「そうだよね... ...。あははは」
ホワイトは緊張したのか笑いどころを間違えた。
愛想笑いを入れるところではない、ここでは「花島が可哀想だ」と俺を擁護すべき。
「そういえば、あなた、迷子だったの?」
「だった... ...。というか今もそうだよ」
「そう... ...」
シルフは顎に手を当て、少し考える素振りを見せる。
何も喋らなければ実に美しい生き物だと思うよ。
... ...本当。
「そうだわ! これから、街を本格的に復興するにあたって、人手が圧倒的に足りないわ! あなたを家族のもとまで案内するから、あなたの家族にも復興を手伝ってもらえないかしら!?」
「ほ・本当に!? でも... ...」
「ん? でも? そんなに悪い条件ではないと思うのだけれど?」
「う・うん。そうなんだけど... ...」
何か心に引っかかるものがあるのか、ホワイトは困った顔をする。
俺は首を絞められたショックで声がガラガラになりながらも迷っているホワイトの背中を押す。
「おいおい! 家に帰れるんだぞ! 素直に喜べ!」
「そうなんだけど... ...」
「何か心配事でもあるのか? 帰り道に凶暴な獣がいるとか?」
「いや、そんなの一捻りで潰せるんだけど... ...。家族が説得できるかどうか... ...」
... ...今更だけど、女の子が潰すとか言っちゃダメよ。
「自分の娘を送ってあげた人の頼みなら少しは聞いてくれないかしら?」
シルフは恐らく、正論を言っている。
自身の娘が失踪に近い、迷子になっているのだ。
それくらい協力してくれてもいいはず。
「う・う~ん」
「まあ、とりあえず、行ってから考えよう! ここで考えてもラチがあかない!」
「そうね! あんたと初めて意見が合いそうだわ!」
機嫌が多少良くなったシルフも俺の意見に賛同してくれた。
「う・う~ん」
せっかく、家に帰れるっていうのにホワイトのこの悩みよう。
相当、家族に問題があるのだろうか。
まあ、巨人の家族には巨人の家族の悩みとかがあるんでしょうよ。
半ば強引にホワイトを家族のもとまで送る事が決まりました。




