表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王で♂ですが、JKやってます。  作者: ドブロッキィ
第三章 クティノス動乱編
86/90

第七話 真龍 対 魔王

84




 ―――― 真龍 ゼルザール


 御剣山脈の主。


 遥か古の時代より生き続ける、世界にも数体しか居ない真の龍。翼竜などの亜龍はもちろん、火竜などの一般的なドラゴンとすら一線を画す存在。強靭な体、無尽蔵な魔力、人を超える高い知能、その存在は最早”天災”の類と認識されており、嘗て一国を滅ぼした真龍もいたと聞く。


 ゼルザールは数百年前からこの御剣山脈に居を構える真龍にしては珍しい有名な龍だった。基本的には山から下りることはないが、一度その縄張りに踏み込もうものなら、踏み込んだ人間は、生物でありながら”天災”と呼ばれるその所以を知る事となる。その力は魔王や勇者ですら容易く勝てるような生易しいものではないと言う。


 それ故、ここ御剣山脈は国境線としてこの上なく便利であった。壁を築く必要もなく、また、兵を配置する必要もない。正に自然の城壁、ここを通り抜ける愚か者など、ここ十数年間(・・・・)は誰も居なかった。


「ふむ、真龍ゼルザールよ、言葉は通じますか?私はオニファス=アプ=フェガリ。フェガリの王です。貴方の縄張りに入った事、まずは謝罪致します。が、どうかここを黙って通らせていただけませんか?」


 オニキスは空で羽ばたく巨大な龍の目を見つめ言葉を投げかけたが、龍の表情には何も変化が無い。


「言葉は通じませんか?それとも話し合いをするつもりは無いですか?」


 龍は高い知能を持つと聞いたが、オニキスの言葉に龍が何かを反応する素振りは見られなかった。それどころか、高度を下げてきたゼルザールの目には徐々に剣呑な光が宿り、その喉からは低く地鳴りのような音が鳴り始めていた。


 黒く岩のようにゴツゴツとした鱗に覆われ、とても宙に浮いていられるような体には見えない巨体のゼルザールだが、その大きな羽ばたかせるとオニキスに向かい滑空した。


「むむ、問答無用とは、思ったより短気なのですね。暴風障壁(インパクトゲイル)!」


 荒れ狂う風が塊となり、真龍の顎を直撃する。人間であれば肋の数本もへし折れる威力の暴風障壁(インパクトゲイル)であるがゼルザールの勢いは止まらない。暴風障壁(インパクトゲイル)を気にもせずに弾き返し、そのまま大きく口を開け、地面を削りながらオニキスに向かう。


「たじろぎもしませんか、流石ですね・・・と、ブレス!?」


 勢いのまま自分を飲み込むかと思われたゼルザールの口。しかしその中央に急速に魔力が集中していく。ゼルザールの狙いは噛みつきによる奇襲ではなく、ブレスによる決着だったのだ。


「結界……は、詠唱が間に合わないですね!」


 既に眼前いっぱいに広がった口には爆発寸前といった感じに魔力が膨れ上がっている。今から龍のブレスを防ぐほどの魔法を発動させるのは、”角”を出している状態のオニキスでも間に合わない。オニキスは即座に防御は不能と見切りをつけ、己の身長程もあるゼルザールの口に向けて前進する。


「こう言う時は神薙じゃなくてこれ(・・)を持ってきていてよかったと思えますね。まあ、神薙を持って来て良かったと思うことは稀ですが……えい!強縋斬撃(フォルサシュラーゲン)!!」


 演習に於いてパーティメンバーだったカマラダ=キャマラードが使っていた鈍器の一撃。”角”によって全身の強化が万全のオニキスの放つそれは、振るう手が見えぬほど早く、そして……。


「グワォォォォッ!?」


 圧倒的な体格差を無視し、真龍の顔を叩き落とし岩盤にめり込ませる。直後、オニキスに向けて指向性を持って放たれるはずだった膨大な魔力は行き場を失うことになった。ゼルザールは目を見開き、慌てて顔を岩から抜こうとしたが、そこにもう一発オニキスの強縋斬撃(フォルサシュラーゲン)が叩き込まれた。流石に神竜の龍鱗を砕く程の威力ではなかったが、その衝撃は再び龍の首を地面に埋めるのには十分な威力だった。


「ンギィオッッ!?」


 行き場を失った魔力は巨大な爆発音を伴い爆発し、龍の口内を容赦なく焼いた。流石の真龍も口の中に硬い龍鱗が生え揃っているわけではない。たとえ自分の魔力とは言え、その衝撃はゼルザールの口の中をボロボロにするのには十分な威力を持っていた。


 ……起き上がったゼルザールの目には、先程までとは違い、狂おしいほどの憤怒の炎が燃え上がっているのが見て取れる。流石に致命傷とは程遠いだろうが、とは言え気にならない程度の傷である訳もない。先程までは、縄張りに入った小さな虫を追い払うくらいの気持ちでいたゼルザールだったが、今の攻防と口腔内の痛みで、完全に本気になってしまった様だった。


「うーん、流石に頑丈ですね。あのブレス、相当な威力だったと思うんですが。鱗のない部分ですらあの程度のダメージなんですか……」


 上手く機先を制したオニキスであったが、その表情に油断はなかった。いや、寧ろその顔は緊張に引き締まっている。確かにブレスで口腔内に数多の裂傷と火傷を負ってはいるが、頭部に二度叩き込んだミスリル釘バットの強縋斬撃(フォルサシュラーゲン)は、殆どダメージになってい無いようだった。つまり、今の所、オニキスの攻撃はゼルザールに一切の痛痒を与えていないということになる。これはオニキスが想定していたより遥かに高い驚異的な頑強さであった。オニキスは今の攻防でゼルザールに対する警戒心を更に一段階上げることにした。


「……多重貯陣(ラーガマギー)展開」


 オニキスのつぶやきにあわせ、光り輝く魔法陣が宙に現れた。


「術式形成開始」


 オニキスの魔力が流れ込み、魔法陣に次々文字が浮かぶ。


ていきゅう魔法プロミネンスジャベリン……くっ!?」


 視界の端に黒いものが走る。オニキスは突然感じる死の予感に咄嗟に反応し、釘バットを盾に見立てて防御を行った。……が、防御の上から強烈な威力の尾撃をもらい、体が後ろに吹き飛ばされてしまった。


 オニキスの体が吹き飛ばされると、宙に展開されていた魔法陣は魔法を発動することはなく、すべて炎が消えるかのように消えていった。


「ぐはっ……」


 岩壁に叩きつけられ、肺から空気が漏れる。何とか骨折などはしなかったが、防御の上からとは思えないダメージを負ってしまった。


「もう少しの間は、脳震盪なり、ダメージなりで待っててくれると思ったんですけどね」


 吹き飛んだオニキスを確認し、怒りの炎で目を染めたゼルザールがオニキスに向かい吠える。空気を引き裂き、それその物が凶器かと錯覚するような咆哮。常人であれば聞いただけで正気を保っているのは難しいだろう。


「まったく煩いですねえ、多重貯陣(ラーガマギー)術式形成開始、ていきゅう魔法プロミネンスジャベリン……」


 再び浮かび上がる魔法陣、しかしまたしてもゼルザールの尾がオニキスを吹き飛ばす。今度はそれを予期していたのか、オニキスの防御は先程より強固だった。魔法障壁を展開し、更に釘バットを使って尾の威力を受け流す。それでも威力は相殺しきれず、体の軽いオニキスは吹き飛ばされてしまったが、今度は壁に叩きつけられることもなく、足から着地する。


 ダメージは少ないとは言え、同じ失敗を繰り返すオニキスをゼルザールは侮蔑を込めた目で見る。初撃では痛い目を見てしまったが、やはり自分と比べて、目の前の人間は自分の敵ではないと思ったのだろう。


「さてさて、どうしましょうか……」


 人の身では決して抗えない”天災”真龍ゼルザール。その力は、真の力を開放した魔王をして、難敵と呼ぶに相応しいものだった。


「それにしても、その場から動かず尻尾を振り回すだけって言うのは、ちょっと舐められているようで腹立たしいですね。」


 汗を拭うと、オニキスの手にぬるりとした感触があった。いつの間にか切ってしまっていたのだろう。額から赤いものが一筋オニキスの顔を伝っていた。


「とは言えやっぱり手強い。本気を出した状態で血を流す経験なんて久しぶりですね、流石は真龍です」


 ……ですが。


 声には出さずオニキスの口が動く。


 と、同時に地を蹴りゼルザールの背後に回ったオニキスは、スキルを込め、全力で釘バットを振りぬいた。突然の動きにゼルザールは全く反応できず、その技をまともに食らうことになってしまった。しかしゼルザールには確信があった。おそらく先程よりは威力のあるスキルを使うだろうが、この人間の一撃で自分に致命傷を与えることは出来ないと。


極破砕槌(ナサロークモロト)ォォォ!!!」


 硬い岩盤にめり込むほど力強く踏み込み、油断しきっていたゼルザールの横っ腹に渾身の一撃を叩き込んむ。ゼルザールの巨体が浮き、その顔に驚愕の表情が浮かぶ。


「吹き飛びなさい!暗愚な巨龍よっ!!」


 更に力を込めオニキスが腕を振り抜くと、飛ばされまいと踏ん張っていたゼルザールの巨体が吹き飛ばされていく。真龍は今まで体験したことのない衝撃を感じながら地面を転がった。硬い鱗に覆われたゼルザールに大したダメージは無いが、為す術無く吹き飛ばされ、地面を転がされた真龍の誇りは痛く傷つき、いまだ嘗て無いほどの怒りを覚えていた。


「グゥォォォォォッ!!」


 ダメージなど無いと、素早く起き上がり吠えるゼルザール。先程の威嚇の咆哮とは違い、今度は怒りの籠もった咆哮だった。


「……本当に頑丈ですね。いくら何でも今のでダメージが入らないなんて、ん……?」


 ピシリと乾いた音が聞こえ、オニキスの手を僅かに震わせる。


「……結構お気に入りでしたのに、残念です。お疲れ様でした」


 右手、音のした方を見れば、そこには縦に大きく罅の入った釘バットが見えた。神木をベースに硬化魔法をかけ、無数のミスリル銀を突き刺したお手製武器は、ついに限界を迎えていたのだった。


「グッグッグ……」


 魔法は潰され、頼みの武器も折れたオニキスに、ゼルザールは今度こそ侮りの笑い声をあげる。先程までですら、ギリギリの攻防を繰り広げていたこの小さな敵は、最早自分の驚異たり得ない。無詠唱で行使する魔法で自分を殺すことは出来ないし、詠唱を開始したら自慢の尾で貫くのみ。最早ゼルザールは自分の勝利を微塵も疑ってはいなかった。


「濁った嫌な笑い声ですね、真龍の名が泣きますよ。まあ、この状況ですから慢心するのもわかりますけど。なまじ知性が高いだけに、こう言う所は人間ぽくて嫌ですね」


 勝利を確信し、歪んだ愉悦を抱える様は、伝説の真龍と言えど実に醜悪な姿だった。


「そのねじ曲がった根性は私が叩き直してあげましょう。感謝なさい」


 どうやらゼルザールは言葉を理解しているようで、オニキスの言葉を聞くと一層醜く笑っていた。オニキスはため息を一つ吐くと目を瞑る。


「よく覚えておきなさいゼルザール、勝利を確信した瞬間という物は……」


 パンッ!とオニキスが手を合わせる音が響く。


「最も危険な瞬間でもあるのですよ……」


 目を開いたオニキスから魔力が立ち上る。異変に気がついたゼルザールが動いたときには既に彼の前後には無数の魔法陣が展開されていた。


多重貯陣(ラーガマギー)発動、ていきゅう魔法プロミネンスジャベリン開放」


 宙に展開されていた魔法陣が再び光り輝き。青い閃光が無数に射出された。一発一発はゼルザールの体に致命傷を与えるものではないが、兎に角数が多い。全面背面から同時に射出されるていきゅう魔法プロミネンスジャベリンは、ゼルザールを挟み撃ちにする形で襲いかかっていた。


「そも、相手が失敗した事を懲りずに繰り返していた事に無警戒というのがありえません。生まれ持っての強者というものはこれだから駄目なんです。勝つのが当たり前になりすぎていて、相手の策への警戒もせず、勝利を確信すれば慢心する。まったくもって度し難い……うっ」


 嘗て勝利を確信した一瞬の隙を突かれ、友人にへし折られた肋が少し疼く、傷は完治しているというのに。完治したはずの傷の疼きに、直近の勝負でオニキスの骨をへし折った友人の腹立たしい笑顔が脳裏をかすめた。


「ま、まあ、過去のことは気にしても仕方ないですね。とどめです」


 何とか弾幕を耐えきり、息も絶え絶えにこちらを見る真龍に向けてオニキスが手を翳す。


岩葬潰(ロッシュクレマシオン)!!」


 交流試合にて友人に勝利した”それ”をゼルザールに叩き込んだ。


「別にこの魔法を使ったのは、八つ当たりではないですよ?」


 巨岩で潰れる真龍をながめながら、誰も聞いていないのに言い訳をするオニキスだった。



多重貯陣(ラーガマギー)の説明は次回で。

偶には全力戦闘を描いてみたかったのですが地味だったでしょうか~?


物語開始当初からの相棒、釘バットさん殉職です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ