第五話 関所越え
随分間が開いてしまいました、すいません。
来週からまた水曜日更新いたします。
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サントアリオを北上し、いくつかの宿場町を抜けた先にクティノス国境の関所がある。本来であれば日の出ている時間でなければ通り抜けることができない場所であるが、宵闇が迫り、人も殆ど居なくなった関を見下ろす影が在った。
「……お腹減りました」
道すがら拾ってきた木の実や野草を食みながら関を見下ろすは、聖サントアリオ学園魔法科Sクラスの黒姫オニキス=マティ。もとい、フェガリ王オニファス=アプ=フェガリその人である。
「うぅ、モグモグ、お財布忘れて出てきてしまうとは、私とした事が。何という失態もぐもぐ……」
文字通りの道草を食むその姿に、学園のアイドルとしての可憐さも、王としての威厳もかけらほども残っていないが、生活魔法を使い、体だけは清潔に保っているのは、彼女の人としての最後の挟持なのだろうか。兎に角、王として、いや、人として、ギリギリすぎる悲惨な状態であるのは間違いない。
「流石に正面から関所を通れば、夜藝殿下に私の行動が筒抜けになってしまいますからねぇ、もぐもぐ。あ、このキノコ美味しいですね。しかし、正規の手続きを踏まないとなると、関所破りですか。国王が関所破りなんかしたら国際問題ですね、流石にそこまでやってしまうのはまずい気がしますが……まぁ、今はその辺のことは考えないで……ゴフッ!!ゲホッゲホッ……キュ、解毒!」
キノコを飲み込んだ瞬間体に痺れが走り、呼吸困難に陥るオニキス。彼女がこの手の毒物を飲み込むのは、ここ数日は割と良くあった事である。体に異変を感じてからの治療も最早手慣れたものである。たとえ毒に犯されようとも、食の欲求には逆らわない。
「白くてフサフサしたこのキノコは毒キノコ……と。味は非常に美味でしたが、呼吸ができなくなるのはいただけません。次はこのワシャワシャした感じのキノコ行ってみましょうかね」
オニキスが茂みに身を隠しながら毒キノコパーティをしているのは何も度胸試しの一人闇鍋大会を開いているわけではない。
オニキスは秘密裏にクティノス潜入を果たすため、関所の兵の動きを一日見張っていたのである。幸い関所から少し離れた場所に身を隠すことの出来る森が在ったため、ここに身を隠しながら遠視の魔法で観察を続けていたのだ。
「やはり正面から関所破りというのは難しそうですねえ。とは言え……」
一日観察した結果オニキスが感じたのは、やはり国境の警備は固く、ここを武力を使わずに突破するのは難しいと言う結論だった。
そうなると、オニキスの取る手段は限られる。国境を仕切る防護柵には魔力が流れており、これを無理に越えようとすれば、すぐに衛兵が駆けつけ捕縛されてしまう。関所から離れた場所であっても一定間隔に国境警備隊の詰め所が配置されており、もしこれを無理やり押し切れば一瞬でクティノスに侵入者ありの報が届いてしまう。
しかし、クティノス国境には一箇所だけ、国境警備も、防護柵も一切配置されていない箇所がある。
――…… 御剣山脈
剣のように鋭く尖った岩山が連なり、植物も殆ど育たない過酷な岩肌。サントアリオとクティノスを大きく隔てる天然の防壁と呼ばれる山脈である。
切り立った岩肌はただ登るだけでも困難ではあるが、この山脈には更に恐ろしい者も住み着いており、ここを踏破してまで密入国するような命知らずはおらず、ここには監視の目が敷かれて居ないのだ。
「うーん、山越えする為には水は魔法で作り出すとして、もう少し食料は欲しい所ですけど仕方ないですね。できれば虫を食べたりはしたくないのですけども……」
パンッと頬を叩き、オニキスは目の前にそびえる山脈に視線を向ける。その頭部からは黒い角が伸び、オニキスの体に魔力が満ちていく。本来の力を開放したオニキスは素早く移動を開始し、誰の目にも触れずに御剣山脈へと向かった。
「まぁ、急げばなんとかなるでしょう」
お気楽国家フェガリの王は今日も深く考えず、取り敢えず行動を起こす。その先に待つのは果たして……。
――――…… 同時刻
クティノスとサントアリオを結ぶ街道、そこを行く乗合馬車。普段は商人や冒険者といった旅慣れた服装の客が多い馬車であったが、その日は場にそぐわぬ美少女たちが4人乗り込んでいた。
「おかーさん、すごい、お馬さんだよ」
「ふふ、シルエラちゃん大はしゃぎですね~。学園の外に出るのは久しぶりですものね~」
「ふふ、じゃねーのですよ?なんでピンクと王子まで付いてきやがったですか?」
はしゃぐシルエラを膝に乗せたまま、いつもの無表情で悪態を吐くシャマ。何故かその横にはリーベとリコスの姿があった。
「そう言わないでよ、シャマちゃん。僕たちだって大和君や月詠ちゃんが心配だし、オニキスちゃんの手伝いをしたいんだよ」
「シャマは一人の方が良かったんですけどねぇ。そもそも、マリア=トライセンは何をあっさりピンク達にも休学を許可してるんですか。あの学園ちょっと自由過ぎやしませんか?」
「えへへ、私達はそれなりに良い成績残してきましたから、模擬戦よりも実戦を経験するべきだろうって学園長は言ってましたよ~」
「実戦というかクーデター起きてる国なんですけどねぇ」
「学園長もクティノスの情勢は未だつかめていない様だったからね。クーデターが起きてるなんて分かっていたら流石に許可は下りなかったと思うよ」
ヘラっと軽薄な笑みを浮かべるリコスに、シャマはため息を吐く。
「今までのお遊び依頼とはわけが違うです。王子とピンクは今からでも帰ったほうが良い……」
「シャマちゃん!!」
突然大きな声を上げるリコスに驚き、シャマの言葉が止まる。リコスは笑みを消し、真面目な表情になると真っ直ぐにシャマの目を見つめた。
「さっきも言ったけどね、ボクは大和君や月詠ちゃんやオニキスちゃんを心配しているんだ。これは遊び半分なんて気持ちじゃない」
「シャマちゃん~、私も一緒だよ?シャマちゃんと違って、私はあまり強くは無いけれど。それでも何かの役に立てるかもしれないから……」
二人の真剣な眼差しにシャマは大きく目を見張る。
「それに魔狩祭の時言ってくれたじゃない?」
「何をです?」
「”シャマの友達をよくも……っ”て、私は意識なかったんですけど、あの後ディアマンテさんが教えてくれたんですよ~。シャマちゃんがそう言ってくれたって聞いて私凄い嬉しかった~。私もお友達の為に頑張りたいんだよ?」
「……覚えにねーですね。そんな記憶捏造するなんて、ピンクの頭の中には脳みその代わりにタラの白子でも詰まってるんじゃねぇですか?取り敢えずあの白鳥は次あったら折檻フルコース確定ですね」
満面の笑みを浮かべるリーベと対象に、この世の負の感情をすべて集めて凝縮したような気を放つシャマ。リコスは自らの兄の未来を想像し、身震いするのだった。
今回はちょっとスケジュールミスってしまい、この様な短さに、申し訳ありません!!!
更新もだいぶ開けてしまったので見限られてしまわないか不安でございましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。




