第六話 鬼タックルとリーベ汁
今回もちょいグロかもです。
あとバカ貴族が妄想垂れ流すので不快な人は不快かもです。
6
翌日、何事も無く授業を終え、
教室を出ようとしたオニキスに話しかけてくる男が居た。
「オニキスさんですね?……へへ、なるほどこりゃ凄え美人だ。」
不快な笑顔を向けられ少し気分が悪い。
これと言って不潔な印象はなく小奇麗にしているにも関わらず、
なぜかこの男からは不潔な印象を受ける。
表情や態度に品がないのだ。
品のない男は返事を待たずに要件を告げる。
「然るお方が貴様に話があるそうだ。
故にこれから貴様にはある場所へ一人で付いてきてもらう。
あれだけ無礼を働いたのだから、会いに行くのは敷居があ高いと感じているかもしれぬが、
寛大なあのお方は、
その件については不問としてくださるとの事だからありがたく思え。
ちなみにこの呼出は最後の警告であり慈悲でもある。
断ったりはしないほうが身のためだぞ。」
押し付けがましい上に無礼千万な物言いではあるが誰の差し金かは理解できた。
先日のバカ貴族の従者なのだろう。
実にお似合いの輩である。
「こちらからは何の用事もございませんので、謹んでご辞退申し上げます。」
初めからこちらが断るだろうと思っていたのか、
男は顔色も変えず嫌らしい笑みを更に深める。
「まあ、こちらはそれでも良いのだがね。
その場合、先にご招待させていただいたお嬢さんに遊んでもらうことになるぞ?」
シャマも招待したのか、なんとも命知らずな奴らだ。
彼女はあんな見た目でも魔王の側近である。
その戦闘力は魔王軍の中でもTOPクラスだ。
高貴なる炎の異名で恐れられ、
その容赦の無さは味方ですら恐れさせていた。
怒れる彼女の前に立つものは押し並べて灰も残さずこの世から消えることとなる。
彼女はオニキスより容赦がないので今頃あのバカ貴族は死んでいるかもしれないな。
オニキスが呑気にそんなことを考えていると、男は聞き捨てならない一言を漏らす。
「あの金髪のお嬢さん。かわいそうに今頃は泣きわめいてるんじゃないか?
お前なんかと知り合ってしまったばかりに、不幸な話だぜ。」
――シャマじゃない。
オニキスの顔に緊張の色が浮かぶ。
「リーベさんに何かしたのですか?」
「へへ、リーベちゃんって言うのかい?まだ何もしてねえさ。
人質ってのは無事だからこそ価値があるからな。
いや~、あの娘可愛いねえ、ちんまいのにおっぱい大きくてさぁ、へへへ……。」
感情の完全に抜け落ちた表情で聞き返すと、男はヘラヘラと不愉快な言葉を並べ始めた。
「とりあえずオニキスちゃんは一人で付いてきてもらうぜ。
もちろん武器になるものなんかは持っていくんじゃねえぞ。
この間の実地訓練で見せてもらったが、お前の剣技は割と厄介そうだったからな。」
オニキスは男の言葉に頷き刀を棚にしまい丸腰でついていく。
魔法科の生徒に武装解除をさせてどうするのかと思ったが、
そのへんは何かしら対策をしているのかも知れない。
一応警戒しておこう。
――――――
裏門から外に向かい、そのまま街道を抜けた先、朽ちた家屋が並び不衛生な臭いが鼻をつく路地。
ボロい衣服をまとった住民が路上に直接座り、こちらに向かって口笛などを吹いてくる。
中には金を見せながら下卑た笑顔でこちらに寄ってくる男もいる。
――所謂スラム街という場所にオニキスは連れて来られていた。
「さあ、ここだ入れ。」
連れてこられたのはスラムの一角にある大きな建物だった。
元々は教会だったらしくその内部は広々としている。
「よく来たな、オニキス=マティ。
相変わらず見た目だけは素晴らしく美しいな。」
見覚えのある下品で黄色いカールヘア。
スクデビア=ミュル=デトリチュスだ。
「貴方と会話をするつもりはないわ。
リーベさんはどこにいるのでしょうか?」
「ふん、せっかちな事だ、育ちが知れる。」
薄く笑いながらも侮蔑の目を向けてくるスクデビア。
どうしてこの手の輩はすぐに人を見下そうとするのか。
しばらくすると先程道案内をしてきた男がロープで縛られ、
猿ぐつわをはめられたリーベを連れてきた。
その表情は恐怖によって青ざめ今にも泣きそうであったが、
見たところ外傷は無いようなのでオニキスはほっと胸をなでおろした。
「んー!んーーー!!」
何かを必死に訴えてきている。
恐らく助けを求めているのだろう。
大丈夫、私が来たからにはすぐに助けてあげるから。
するとおもむろに男が、リーベの猿ぐつわを外した。
「オニキスさん、何で来てしまったんですかぁ!!
すぐに逃げて下さい。この人達は危険です。」
――驚いた、こんなわけもわからない男たちに拉致された上に、
一晩監禁されていたと言うのに、リーベは自分の事よりもオニキスの事を心配していたのだ。
「大丈夫ですよ、リーベさん。すぐに助けてあげますからね。」
ニコリとリーベに向かって微笑みかけると同時に、
両手に魔法式を展開する。
直後、この場に居たもの全員が信じられないものを目撃する。
なんとオニキスは無詠唱で4つの上級術を行使してみせたのだ。
更にその全てが別種の魔法。
オニキスの周りに巨大な魔法陣が複数浮かび上がる。
「おい、ブルガル!こいつはヤバイ。
あの男から貰ったアレを使え!!」
「は、はい!!」
ガシャア!
ブルガルと呼ばれた男 ――道案内をしていた男が地面にガラス玉のようなものを叩きつける。
瞬間
教会内に巨大な魔法陣が現れる。
巨大な魔法陣は教会内の魔力を一気に吸い込みそれを霧散させた。
対魔法絶対防御結界だ。
本来は数人の術士が協力して4方から結界を張り発動する術ではあるが、
何年もかけて魔道具にそれと同じものを封じておき、
これを砕く事で発動することも出来るらしい。
しかし、これは非常に高価なあ戦術兵器であり、
とてもではないが一男爵ごときが所持できるものではない。
まして、このような喧嘩に使うなど以ての外である。
「あははは、知っているぞオニキス=マティ。
お前は魔法の腕と剣術はなかなかのものではあるが体力は低いだろう。
この結界内では魔法は体外に出た瞬間に霧散する。
お前に抗うすべは無いぞ!!」
パチンッとスクテビアが指を鳴らすと4人のゴロツキが奥からやってきた。
「まずはお前の手足を折らせてもらう。
お前の手癖は悪そうだからな。
その後は徹底的に犯してやろう。
私が飽きてもお前の仕事は終わらんぞ。
ここにいる男たち全員でお前の心が折れるまで犯し続けてやる。
そして完全に壊れてしまったら適当にバラしてモンスターのエサにでもしてやろう。
……いや、禁制のクスリを使って従順なペットにするのも良いな。
歯を全部引っこ抜いて性欲処理の口便所として壁に埋め込むというのも楽しいかもしれんな。
最後は殺してくださいと懇願させてやるぞクソビッチめ!」
「オニキスさん、早く逃げて!!
それらは全て私が受けます、だからオニキスさんには手を出さないで下さい!」
オニキスは正直リーベと言う少女の評価を一変させていた。
リーベはおっとりとしていて泣き虫でやさしく、とても弱々しい女の子なのだと思っていた。
しかし、それはリーベの表面的な部分に過ぎなかったのだと思い知る。
犬に追いかけられて泣きべそをかいていた女の子とは思えない。
強い心と他人を本気でいたわる慈愛の精神。
真の聖女といっても過言ではない女性なのだと。
この娘はいま泣き出したいほど怖いに違いないのだ。
突然わけも分からず攫われて、 更に狂人としか思えない妄想を垂れ流されだのだ。
これであの怖がりのリーベが怖がらないわけがない。
それでもこちらに心配をかけまいと必死に逃げろと訴えてくれている。
本当に強い女性なのだと感じた。
――スクデビアはこの結界は魔力が体外に出ると術を形成する前に霧散する結界だと言っていた。
ならば体内で運用する分には問題ないということだ。
オニキスは魔力をゆっくりと体の中で循環させる。
普段は角が自動的に行っているものを意識的に魔力を操作することによって再現しているのだ。
初めは上手く循環させることができなかったが、
魔力を少量に絞ってゆっくり回すことで擬似的な有角状態を作り出した。
もちろん実際に角を出しているときの足元にも及ばない程度の性能であるが。
次に足に魔力を溜めて強化した後、足の裏で魔力を爆発させる。
瞬間、オニキスの体がものすごい速度でリーベの元へ飛んでいった。
「かっふ……。」
素早くリーベを救出すべくぶつけ本番で行った高速移動だが、
少し改善の余地があるようだ。
超高速のタックルを受けてリーベが白目を向いている。
口や鼻から何かの汁が垂れている。
――うん、本当にゴメンナサイ。
簡単な気付けをしてとりあえず意識だけは戻ってきてもらう。
顔が真っ青なのは攫われて怖かったからだろうね、うん。
おのれーあくにんめえーゆるさないぞおー。
「な、なんだ!?貴様今何をした!!!」
状況把握が出来てないスクビデアを無視してすぐに次の行動に出る。
まず呆気に取られているブルガルとの間合いを一気に詰める。
慌ててナイフで斬りかかってくるがこれをいなしつつ腕を極めながら投げる。
全体重を、極めた関節に乗るように投げたのでブルガルの腕はあっけなく壊れる。
あまりの激痛で行動不能になったところに、掌底で顎先を打ち抜き昏倒させる。
まず一人。
4人のゴロツキは流石にもう驚きから立ち直っていた。
オニキスを4方から囲み、一定の距離を取って構える。
手には鎖分銅が握られていた。
「しっ!」
一人の男が声をあげ鎖分銅を放つ。
同時に残りの男たちも鎖分銅を投げてきた。
狙いは手足のようだ。
オニキスはそれらを回避すると、最初に投げられた鎖を握り一気に引き寄せる。
流石に魔力で補助をしているとは言え、
元の筋力が10歳児並のオニキスの力では男を引き寄せることは出来ないが、
それでも重心をずらして体勢を崩すぐらいのことは出来た。
男が鎖を引き戻そうとすると今度はこれには逆らわず一気に間合いを詰める。
そのままの勢いで頭を両手でつかみ足をかけて押し倒す。
倒した際に全力で頭部を方地面に叩きつけられた事によって男は意識を手放した。
これで二人。
即座に3人目にかかろうと後ろを振り向く。
そこにはいつもの死んだ魚の眼をした従者シャマが立っていた。
シャマの足元には意識をなくした男が三人倒れていた。
「思った以上に早い到着でしたね。」
「幸いいつもの日課の最中でしたからね。
すぐ後ろをついて行ってたんですよ。」
事もなさ気に表情を変えずにそう告げるシャマ。
正直、オニキスですらもその尾行には一切気が付かなかったので色々と恐ろしい。
「え、あれ、オニキスさん、シャマさん……え、え?」
状況が理解できずに口をパクパクさせているリーベ。
「な、なんなのだ貴様ら!!バケモノか!!!」
突然ヒステリックな男の声が響く。
そういえばもう一人、親玉が残っていることを忘れていた。
「オニキスちゃん。この蛆虫はどうしますか?
バラしてモンスターのエサにしますか?
洗脳して一生奴隷として働かせるのも良いかもしれませんね。」
などとシャマが物騒なことを言う。
いや、その内容だとほとんどそのバカ貴族の妄想といっしょだからね?
ドクンッ
突然その場の空気が変化する。
原因はスクデビアが懐から取り出した赤い宝石のせいだ。
「こうなったらお前らを飼うのはもう止めだ。
とりあえずお前たちは全員死ね!
生まれたことを後悔させてやる。この切り札でな!!」
そう叫ぶとスクでビアはその赤い宝石を飲み込んだ。
――あれはマズイ。
直感でそう感じた。
「この魔石は、使用者に無限の力を与えるそうだ!
あの男がいざという時はこれを使えば確実に相手を殺せると言っていたからな。
楽し、み、ンゲ、ンゲゴォォォォ。」
そんな生易しいものである訳がない。
あの石から感じた禍々しさは明らかに異様だった。
あんなものを体内に取り込んで、軽くパワーアップ?
そんな程度のことであるはずがない。
――変化はすぐに現れた。
スクでビアの体がミシミシと音を立てて形を変えていく。
まず顔が縦に裂けそこから牙が無数に生えてきた。
更にその口で倒れているブルガルをバリバリと食べ始めた。
飲み込むごとに体も大きさを増していく。
「シャマさん、リーベさんのロープを解いてあげてください!」
「オニキスちゃんはどうするのです?」
「あれは人を捕食して巨大化をするようです。
なので他の人を食べさせるわけには行きません。
食い止めます!」
「それではこれを!シャマも加勢します。」
素早くリーベを自由にしながらシャマは持っていた細長い袋を投げて渡してきた。
持ち慣れた、手に馴染む重さ。
それはオニキスの愛刀”神凪だった。
「リーベ、動けますか?多分アレの相手をするとなると、
シャマとオニキスちゃんの二人がかりでも多少無理をすることになります。
貴方は学園に行って救援を呼んできてください。」
「で、でも!」
「今の疲弊した貴方ではここにいても邪魔になるといってるのです。急いで!」
リーベは何かを言いたそうにしていたが、
確かにシャマの言うことは正しいのも理解出来たので何も言わずに頷いた。
「すぐに戻ります。お二人とも無理はなさらないでください。」
リーベは自分が成せるベストを瞬時に理解して実行に移した。
走るリーベに反応したスクデビアがそちらに顔を向ける。
「させません!」
一閃
オニキスの剣閃がスクデビアの腕を切り落とした。
痛みと怒りで叫びながらオニキスにターゲットを定めるスクデビア。
「さて、人間やめてしまった貴方には手加減の必要もないでしょうから、
久しぶりに全力で暴れさせていただきますよ。」
人間離れしたモンスターに成り果てたスクデビアを前にオニキスは可憐な笑顔でそう告げるのだった。
戦闘シーンって難しいですね。
ご飯のシーンのほうが楽だし平和だなあ。