表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王で♂ですが、JKやってます。  作者: ドブロッキィ
第二部 学生満喫編
77/90

第三十八話 終わらぬ危機

先週は例大祭原稿締切日で更新できず申し訳ありませんでした。

75




 ……――事の顛末の報告を受け、ため息を吐きながら机の上にある水差しに手を伸ばす。冷たく冷えた水を一息に飲み干すと、頭に上がった熱が少しだけ引いていくのを感じた。


「……起こった事の大きさを考えれば、被害は最小限と言えなくもない……しかし、な……」


 誰も居ない学園長室、明かりも点けずに一人佇む女性。マリアの眉間には深い溝が刻まれていた。ココ最近頻発した事件は、彼女の心に大きな影を落とし、重く伸し掛かってくるような物ばかりだった。


 ――はじめに起こったのは、スクビデア=ミュル=デトリチュスによるリーベ=グリュック誘拐事件。


 本年度のはじめに魔血結晶なる呪物を埋め込まれ、件の魔王によって討たれている。彼は貴族であった為、男爵家からの追求が成されるかと警戒していたが、スクビデアの継承権の順位は数多い兄弟たちの中では低めであった上、彼自身非常に問題が多く、デトリチュス家としても彼の素行の悪さには常々手を焼いていた為、逆に男爵家の人間が人をさらって魔物と化したと言う醜聞が広まるのを恐れた為、病死として扱われた。病死であるからには学園を責めるわけにも行かないという話だった。

 マリアはこの話を聞いて反吐が出る思いだったが、その貴族の”醜さ”に助けられたのも事実であったため、この件に関しては複雑な思いをしていた。


 ――続いて、天津國月詠襲撃事件。


 こちらも解決したのはオニキス、もとい魔王オニファス=アプ=フェガリ。かの魔王はマリアの仕入れた情報では、一触即発の隣国であるサントアリに潜入し、その力を測るのが目的とあった。が、彼の行動を見るに、もうその目的は忘れ去ってる節がある。

 まあ、フェガリ人とはそう言うものだ。彼の父親もまさに生粋のフェガリ人だったのを思い出すと、陰鬱とした気持ちが少し晴れ自然と笑みがうかんでしまう。見た目は全く似ていないが、あの二人は性格がよく似ている。サントアリオ貴族や王族などは、強大な力を持つ他種族を危険視する輩が多いが、正直クティノスとフェガリの二国に関しては警戒はそれほど必要ないと彼女は感じていた。特にフェガリなどは、その気になればとっくにサントアリオを蹂躙し、征服することができていただろう。だがあの国は、あそこの国民性はそういった行動を起こす発想を持たない。


「多分オニファスは私との契約もすっかり忘れているんではないかな。まぁ、色々協力してくれているので、忘れていても問題は無いんだが……」


 恐らくオニキスが色々動き回ってくれていたりするのは契約があるからではない。あれはただのお人好しなのだ。勤勉なのに大雑把で底抜けに明るく優しい。まさにフェガリ人の王である。


 話がそれてしまったが、こちらの事件では他国の姫に傷を負わせてしまう結果になってしまったが、犠牲者は0、ミルコが用意した死体も彼が殺害したものではなく、墓を暴いて用意したものであったらしい。


 そう、ミルコと言えば、あれを捕らえたのもオニファスであった。ミルコから得られた情報は魔血結晶の名称と、彼自身が受けた任務の内容程度であったが、あの結晶の用途と効能、そして危険性などは彼の話からもある程度伺えた。


「聖学祭、一応外部からの干渉には気を張っていたのだが。どうやって侵入したのか、まさかまた堂々と生徒に手を出されるとは……」


 底冷えのする低い声、もしその場に他の人間が居たら震え上がり動けなくなっていたことだろう。それほどの怒気と殺気を持ってマリアは決意する。もう二度と自分の学園で勝手なことはさせないと。


「私の学園で好き放題やったんだ、逃げたからと言って無事で済むと思うなよ……」


 何時も無感情で斜に構えたような態度をとる彼女だが、その心の内は髪の色が彷彿とさせる炎のように熱い。




 ――――――





 予想外のアクシデントもあり、中止になるかと思われた魔狩祭だったが、迅速な復旧作業の甲斐があり、一時的に休止となったものの一時間もかからずに再開された。しかし、一位であった”白鳥王子と愉快で華麗な仲間たち”が、リーベの負傷により棄権。更には三位のローガン=ヒュージャも”棄権”。その結果順位は大きく変動することとなる。


 ちなみに、魔血結晶で強化されたローガンに執拗に痛めつけられ棄権したリーベだったが、ヴィゴーレの治療の甲斐もあり、体には特に異常は見られず、オニキスが最後に見た時には笑顔も浮かべており大分元気そうであった。が、念の為今日一日は医務室で安静にするようにと指示を受けたので、今は医務室のベッドの上である。


「ふええぇぇ、せっかくのお祭りなのにぃ……」


 などと言いながら泣いていたので、後で何か差し入れをしてやろうとオニキスは思ったが、どうもディアマンテとヴィゴーレがせっせと祭りの屋台で食べ物を買ってきてはリーベの餌付けをしていたので必要ないかなとも思った。途中から涙目で何かをオニキスに訴えてきていたが、ヴィゴーレに次々と食べ物を入れられて何も話すことが出来ないため、何を言いたいのかは分からなかった。……いや、本当はなんとなくわかったが、ヴィゴーレの「治療のためだ」の一言に納得したオニキスは口を出すのを止めたのだ。オニキスにとって食べ物で回復させるというヴィゴーレの主張は非常に同意できるものだったからだ。


 何故かいい顔で自分を見つめるオニキスに絶望の表情を浮かべるリーベ。


(リーベ、たくさん食べて逞しくなるのですよ!)


(ふええぇぇぇ~)


 彼女の苦難は続く。




 ――ちなみに魔狩祭の結果は。


 1位 ドンブニャカマラードチーム

 2位 シーザー=トライセン

 3位 銀翼

 ・

 ・

 ・

 ・



 まさかの優勝はシルトたちのチーム、”ドンブニャカマラートチーム”。なんでそんな名前なのか疑問に思ったので本人たちに聞いてみた所。


 シルト=”ドーン”がドン、シーカ=ブ”ニャ”ウがニャ、”カマ”ラダ=キャ”マラード”でカマラードなのだそうな。もう少しどうにかならないものかとも思ったが、本人たちが楽しそうだったので何も言わない。オニキスは空気が読める魔王を自負しているのだ。


 三位の”銀翼”はあまりオニキスと親しい人は居なかったが、どうやらAクラスとSクラスの友人同士のチームだったらしく、なかなかに堅実な強さを誇っていたらしい。それならばシーザーを超えてほしかったと思ったが、こればかりは仕方がない。


(……所で、シーカさん、チーム名の中に”ニャ”しか無いですけど良いんですかね?)


 などとオニキスが微妙な顔をしていると、そこに申し訳なさそな顔をした”二位”のシーザーが現れた。その顔は見るからに凹んでおり、三位を逃したとは言え、とても彼を責めるような気分にはなれないような空気を醸し出していた。


「オニキス姉さんすいませんッス、これは流石に想定外の事でして。その、えっと……」


「だ、大丈夫ですよ、元々無茶を言ったのはこちらですから。――それにシーザーさんの方こそ、お友達が……」


 オニキスの言葉に、シーザーは一瞬沈んだ表情を浮かべたが、すぐにいつもの爽やかな笑顔を作るとこう言った。


「……彼は、ローガン君は、特別親しかった訳ではないんですが……そうですね、色々問題はある人だったけど、知人がああなってしまったのは悲しいです」


「……」


「けど、彼は体を変質させるまでは、まともに会話が出来ていました、恐らく彼は自分の意志であの状況を受け入れていたのだと思います。なので、オニキス姉さんはそんな顔しないでください」


「……ふむ、何やらいい話にしようとしてやがりますが、シャマのお弁当を先払いでもらっておいて任務失敗は許されることではねぇですよ?」


「ゲェッ、シャマネキ!?」


 シーザーの後ろから山羊の頭を被ったままのシャマが現れ、泣きそうな表情を浮かべるシーザーの頭をガシっと掴んで引きずっていく。未だその頭には立派な巻角が輝いている。


「ちょ、聞いてくださいよぉ、俺だって色々頑張ったんスよ!?」


「……」


「無言!?超怖ぇぇッス!!」


 哀れな声を発しながらフェードアウトしていくシーザーの冥福を祈りながら、オニキスは自分のやるべきことを思い出す。


「すいませんシーザーさん、シャマの折檻はきついと思いますが、頑張って生き残ってください。私にはやらなければならないことがあるのです……急がねば!」


 そう、オニキスは未だ、あの魅惑の屋台を諦めたわけではなかったのだ。踵を返し、シャマたちが向かった方向とは逆に走り出す。先程食べそこねた烏賊焼き屋台へと向かうために。先程はシャマのマジックアイテムの知らせに邪魔されてしまったが、一刻も早く、あの魅惑の海鮮串を手に入れなくてはならないのだ。ちゃんと奈落の洞から出たときにシャマからお小遣いをもらうことも忘れていない。オニキスのお腹が鳴り、脳内でめくるめく海鮮串の妄想が止まらなくなる。もう少しで会える……楽しみだ。



 ――――



「あ、おとーさん、お帰りなさい」


 屋台の前に着くとシルエラがリコスに連れられて例の屋台の前で烏賊焼きをムグムグと食べていた。小さい口を醤油で汚しながらも一生懸命食べているその姿は天使の様に愛らしく、見ているだけで幸せになれるほど可愛いらしい。ただ、何故か烏賊を食べる速度が異様に速い気がする。


「ただいまシルエラ!良い子にしていましたか?リコスさん、シルエラのお守りありがとうございました」


「やぁ、オニキスちゃんおかえり。なにか魔狩祭(そっち)の方は大変だったらしいね、さっき兄様に聞いたよ」


「はい、でも白鳥チームの皆さんやシーザーさん達の力で何とか解決することができました。――と、失礼、私もその海鮮焼きの屋台に用がありまして、失礼いたします」


 やっと烏賊焼き”様”と再会できる、そう思って屋台を見たオニキスは異変に気がついた。あたりには相変わらず焼けた烏賊の香りが充満している、だが可怪しい……何かが先程までと違う。オニキスの目の前には先程の屋台、そして烏賊を焼いていた親父さんがいる。しかし、その目は憐憫の光を帯び、悲しいような、気まずいような、複雑な色をたたえつつ、何故か顔には引き攣った笑みを浮かべている。そしてその横には食べる速度を加速し、一気に烏賊を口に押し込むシルエラの姿が……。


「……お、おやじ……さん……?」


「――すまねえ、嬢ちゃん。そこのお嬢ちゃんが食べているのが最後の一本だったんだ」


「むぐ、むぐぐ……」


「シルエラァ~!?」


 一仕事終えて戻ってきたおとーさんとて、一口たりとも己の獲物は渡さない。強い覚悟と意志をかんじる目をしている。戦うものの目だ。先程は天使の様に見えていたその姿は、実は弱肉強食の世界を生きる歴戦の戦士の物であったとオニキスは理解した。


「あはは……シルエラちゃん、なんかおとーさんそっくりになってきたねぇ……」


 横ではリコスが苦笑いを浮かべてこのようなことを言っているが、オニキスとしては侵害極まりない。


「私はそこまで非情じゃないですよ!?」


「むぐぐ……」


 見渡せば、他の屋台には未だ商品は残っていたが、逃した魚は大きい。しかも悲しい事に、シャマの食べていた海鮮焼きの屋台も既に店じまいを始めているのが見える。


「なんで、海鮮焼き系だけ売り切れてるんですかぁ……」


「あはは……やっぱり美味しいから人気だったんだろうね。可愛そうだから僕がなにか奢ってあげるよ。だから、そんなこの世の終わりみたいな顔しないで」


 甚だ心外な評価を下してきたリコスだったが、優しい提案にオニキスは思わず涙ぐむ。


「……リコスさぁん、グフッ!?」


「よかった!黒姫様見つけましたよ!!」


「え、え!?ヴェスティさん?」


 リコスに感動のあまり抱きつこうとしたオニキスだったが背中から力強くタックルをされ、一瞬息が止まる。突然襲ってきた影を見ると、茶色いおさげにメガネを掛けた女の子がそこに居た。オニキスのゴスロリ魔法少女服の製作者にしてオニキスの狂信者(ファンクラブ会員)ヴェスティ。彼女は切羽詰まった顔でオニキスに抱きつくと、少し安堵の表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔に戻ると口早にまくしたてた。


「黒姫様、時間がありません。どうか私達を助けてください!」


 ヴェスティの真剣な瞳に見つめられ、事の緊急性を理解したオニキスは即座に頷く。


「……なにかあったのですね?分かりました、任せてください」


「あ、ありがとうございます!ではこちらに来てください!」


 どうやらこの祭り、まだまだ自分を休ませてくれるわけではないらしい。オニキスは気持ちを切り替え、何時でも戦える心構えで走っていった。



ゥワー次回ハシリアスダー。


スクビデアの爵位が男爵に変わりました。爵位詳しくなくて間違ってました……。ごめんなさい。


ブックマや点数をいつもありがとうございます。


感想いただけると喜びの力で木に登ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ