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魔王で♂ですが、JKやってます。  作者: ドブロッキィ
第二部 学生満喫編
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第三十七話 殺せない者を殺す方法

今回もちょいグロかもです。

74




 赤い剣閃が煌めき醜悪な肉を斬り裂く、小さな部屋の中ではこの世のものとは思えぬ悍ましい悲鳴が響き渡る。


「シーザーさん。あの魔物、あれは何処から来たのですか?それにそこに居るドラゴンも。そのドラゴンは確か奈落の底のボスですよね?」


「ドラゴンの方は分かりません、ただ、僕らがここに来た時には、あれがここに居座ってました。もう一体の、今シャマネキが戦っている方は……」


 そう言いながら顔を顰めたシーザーにオニキスは色々と悟った。”あれ”はやはりあのときの貴族と同じなのだろうと。先程まで原型のあった顔に見覚えはないが、おそらくはシーザーの友人だったのだろう。


 この人を魔物に変える所業は許しがたい行為ではある。が、サントアリオで暗躍するこの一団は、その全容が謎に包まれていた。先日捉えたミルコという男も、本来その一団の中ではそれなりの地位であったはずなのだが、記憶を改竄されているようだった。マリアの指揮の元行われた物理的、魔術的”尋問”にも、重要な情報は何一つ答えられなかったのだという。


「オニキス姉さん、彼を……人に戻すことは出来ないだろうか?」


「……恐らく、無理ですね」


 シーザーに懇願されるまでもなく、オニキスもその可能性を模索していた。しかし、彼の体内の魔力は、最早人間のものとは言えない状態になっていた。通常、人間の魔力というものは血液の様に一定の法則を以て体内を循環している。これを意図的に動かす事で、身体機能を強化したり、変質放出させることで魔法として使用することができるのだ。


 だが、今目の前で戦う異形と成り果てた彼の体内では、見覚えのない質をもった魔力が増殖と循環を続けていた。魔力が増えるたびに彼の体内の循環は乱れ、方向を歪められた魔力は体外へと進路を変え、肉体を破壊する。しかし、その直後に治癒術と強化術を足したような術式が発動し、裂けた肉を不自然に塞ぎ、その部分の筋組織を無理やり強化する。


「凄まじい勢いで破壊と強化を繰り返しています。もし原因を取り除いても、あの体はもう元に戻せるとは思えません、ごめんなさい」


「……そう、ですか」


「戻せないのは仕方がないとしてぇ。あれ、シャマちゃんは大丈夫なのかぁい?ローガン君の方、徐々に動きが早くなっているようだけどねぇえ?」


 確かに、ディアマンテの言う通り、ローガンの体は破壊されてもすぐに修復され、その都度動きが早くなっているように思える。普通に考えればシャマの置かれている状況は窮地である。


「は、ハははハ!防戦一方だね雌豚ァ?お前が豚肉らしく肉片に変わるのも近いんじゃないかぁ?」


「……」


「それに僕はねぇ、あの方のお陰で不死身なンだぁ、あの御方のチからは本当ニ素晴らしいぃぃぃぃっ!!」


 最早シーザーたちと戦っていた頃の面影はなく、頭部に僅かな名残を残しただけの異形がシャマにその豪腕を振り下ろす。その勢いは凄まじく、肩から先の動きはシーザーですら見切ることは難しく、先程から攻撃を受け続けるシャマからの反撃も無くなっていた。


「おら、どうした?雌豚ァ、反撃してみろよ?さっきみたいにさぁああ!!」


「……」


 醜い笑みを浮かべながら、勝利を確信するローガン。その慢心からわずかに腕の振りが大きくなった。激しい暴風のような攻撃にほんの一瞬だけ見えた隙ではあったが、それを見逃すシャマではなかった。


「黙ってるんじゃね……プギィ!?」


 赤い剣閃がローガンの首を捕らえ、下顎だけ残して頭部が飛んでいく。


「やったか!?」


「赤犬ぅ、フラグたてるのはやめるですよぉ!!」


 頭を斬り飛ばされたローガンは、流石に一瞬その動きを止めたが、即座に顎から上が盛り上がり再生を始める。それを確認したシャマからため息が漏れるが、その心中は表情から推し量ることは出来ない。ただ、その眠そうな双眸はジっとシーザーを睨んでいた。


「人が喋ってる途中デ、何しやがるんだこの豚!もうイい、もう死ね!!」


「とりあえず頭では、無い、と……」


「んんん?何言ってるンだぁ?ンギィッ!?」


 喚くローガンに構わず再び首を飛ばすシャマ、今度は切り口を赤い炎が覆った。しかし、再生と同時に燃え尽きると思われた頭部は、傷口からは再生せず、少しずれた位置に再生した。更には、炎が燃え盛る部分を自らの手でこそぎ落として鎮火すると、何事もなく戦闘を再開するのだった。腕や足も同様に斬り落とし燃やしてみたが、同じ様に別の場所から生えてくるだけで、効果は無いように思えた。


 シャマとローガンの激しい戦闘を見ている三人の表情には絶望の色がにじみ始めていた。


「こいつ……本当に面倒くさいですね」


「オ、オニキス姉さん、流石にシャマネキ一人に任せるのはやばいんじゃないですか?」


「……ん、何故ですか?」


「いやいやいや、どう見たってピンチじゃないですか!?」


「え……うーん?」


 オニキスは不思議そうに首を傾げているが、眼前ではローガンが目にも止まらない速度で豪腕を振い、近場の岩を粉々に吹き飛ばしている。流石のシャマもその腕を往なすので手一杯なのか、先程から反撃らしい反撃をしていなかった。


「ほら、どんどん追い詰められてますよ!」


 今にもその豪腕にシャマが押しつぶされそうな光景に、シーザーだけでなくディアマンテやヴィゴーレも心配そうな視線を送っていた。


「うーん、私には余裕に見えるんですけどね」


「なんであれが余裕に見えるんですか!?」


「えぇ……だってシャマさん戦闘開始から殆ど動いてないですよ?」


「「「え?」」」


 全員がオニキスの言葉に驚き、シャマの方を向く。あまりに激しいローガンの動きと轟音のせいで、窮地にしか見えなかったシャマの姿がそこにあったが、確かに言われてみると彼女は未だ無傷でそこに立っていた。表情からは相変わらず何も感じ取れない。


「シャマさーん、みなさんが心配してるのでそろそろ真面目にやってください~」


「オニキスちゃん?シャマが折角足止めてバレない様に弱点探ってるんだから、そう言う事言って邪魔するのは止めてくださいよ。こいつ力だけは私より強いんですから~」


「なっ!?」


 状況にそぐわない間の抜けた会話に、呆気に取られる一同、攻めているはずのローガンも思わず声を漏らす。


「ま、そろそろ作戦も思いついたので、シャマも本気で行くとしましょう」


 今まで動きの無かったシャマが小声でつぶやくと同時に、ローガンの視界からその姿がかき消えた。今まで攻撃を全て左右に往なされていた豪腕は、その勢いのままに地面を抉りそのまま地面に突き刺さる。突然姿を消したシャマを探し振り向いたローガンだったが、その視界にシャマの姿を捉えることはなく、狼狽えた表情を浮かべた顔はに赤い刃が突き刺され、更にそこから豪炎が巻き上がる。


「ンギャアアァァァァァ!?」


「うるせえのですよぉ」


 返す刃で右肩口から斬り込み、腕を斬り落とす。こちらも即座に炎が上がり、傷口は再生することなく焼けただれていく。


「こんな、傷を燃やしたところデ、別のばしょにぃ再生すればァ……」


「……でも燃やさないときより再生するのが一呼吸遅れますよね、それ」


「ヒギィッ!?」


 振り下ろされたフラムヴィエルジュ(シャマの愛剣)は地面に触れる直前に軌道を跳ね上げ、勢いを殺さず右足も切断する。たまらず体勢を崩し、地面に崩れるローガンに更なる追撃が加えられ、苦し紛れに凪いだ左腕もシャマの一振りで宙を舞う。再生を始めた腕は、その形が腕となる前に切り飛ばされ、そのついでとばかりに体にも斬り傷を刻まれていった。更に斬り飛ばされた腕や足や頭は、地面に落ちた瞬間、炎に包まれ跡形もなく燃やされていく。


 悲鳴を上げようとしても、その都度顔を破壊され、声を上げることも出来ないローガン。しかし、再生される腕は、再生の度強化がなされているのか、さらなる強さと素早さを以てシャマに振るわれた。だが、シャマの剣閃はあまりにも正確に振るわれるため、攻撃した腕は尽く斬り落とされてしまう。しかし、攻撃の手を緩めれば、即座に本体へ斬り込んで来るシャマに対して、攻撃の手を緩めることはできず、中途半端な再生でも腕を振り続けることを余儀なくされてしまう。結果、落とされる腕の再生が次の攻撃に間に合わなず、強化された腕で殴ろうにも不完全な形で振ることになってしまい、その威力を完全に伝えることが出来ず、膨れ上がった膂力も全く活かすことが出来ていなかった。


「あ、私シャマさんの思いついた作戦分かっちゃいましたよ」


「あの不死身のバケモノ相手にどんな作戦思いついたんです?」


「ふふふ、流石オニキスちゃんは聡明ですね。シャマの作戦をひと目で見破るなんて」


 激しい戦闘の最中だと言うのに、オニキスの般若面(ドヤ顔)にシャマが山羊頭(笑顔)応えた。シャマのこの無謀とも思える特攻の意図を見破ったというオニキスに、男三人の視線は集まる。全員の視線が集まった事に気がついたオニキスは胸を張り、般若面の下のドヤ顔が幻視できるような声で言い放った。

 

「作戦名、死ぬまでぶった斬るですね」


「流石ですオニキスちゃん!!」


「「「そんなの作戦じゃねえ!」」」


「「えぇ……」」


 清々しい程の呆れた視線が集まる中、当のローガンが久しぶりに顔の再生に成功する。その顔は最早、人とは言い難いほどに崩れていたが、何故かその表情が悲しげなのは伝わってきた。


「い、いやだ!!そんな頭の悪そうな作戦ニ負けるのダケハ嫌だぁ!?ギヒィッ!」


「黙るですよぉ、すぐに楽に……楽には死なせないですけど、絶対に殺してやるですからね?」


「アアァァァアアァァぇあっ……」


 腕が飛び、足が飛び、首が飛ぶ、徐々にその速度は上がっていき、体はその殆どを炎に包まれていく。


「そろそろ、全身火だるまですね。完全に焼けても再生はできるのですかね?」


「ひぃ、や、やめて、ヤメデ……」


止め(トドメ)です、吠えなさい”フラムヴィエルジュ”」


「ギィィィィッ!?」


 全身を焼かれ、満足に再生すら出来なくなってきたローガン。その頭部に深々と突き刺さった大剣から、今までにない大量の炎が巻き上がりローガンを内と外から焼き尽くしていく。最早声もあげられず崩れ落ちた巨大な体は、最後に小さな光を発し消滅していった。









 ―――――― side ???




 正直ゾっとした……なんだこれは。


 今回の計画、クティノス姫暗殺と勇者候補の殺害。


 クティノス姫の暗殺は部下に任せた為に、思いの外優秀だった学園生徒によって阻止されてしまった。一応の報告は受けていたので、その邪魔をした生徒がオニキス=マティと呼ばれる魔術師なのは知っていた。魔血結晶の検体を葬ったのもこの女だったらしい。


 今回の勇者候補殺害作戦に於いても、その女の影がチラチラ見えていたが、正直、学生如きどうとでもなると思っていたのであまり気にはしなかった。前回の魔血結晶の検体とは違い、今回はほぼ完成に近いそれを埋め込んだ検体が送り込まれていたからな、あれの戦闘能力は以前のものとは桁違いだ。脳に致命的な障害が起きてしまうが、その身体能力は、魔王やその側近との戦闘にも耐えられるほどの物になった。我ながら恐ろしいものを作り上げてしまった物だと自負していた。


 仮に勇者候補、シーザー=トライセンとオニキス=マティが同時に挑んだとしても、この魔血結晶の最新検体ローガン=ヒュージャには為す術がないはずだ。オニキス=マティとシーザー=トライセンの戦闘力は学園内での出来事を観察することでだいたい把握していたからな。


 しかし、今目の前で起こっている事態は、私の想像したものとは激しく乖離していた。


「な、なんだこの山羊頭女は……」


 シーザー、オニキス、両名を相手取っても容易く勝利を収めると思われていた検体が、抵抗虚しく斬り刻まれていく。彼には”再生の度に強化される”そんな反則とも言えるような能力をもたせた。欠点は、限界を超えて肥大しすぎた力に耐えきれず、その寿命が強化と反比例に下がってしまう部分だったが、ここは今後の課題として、とりあえず底なしの強化というコンセプトで作り上げた検体。生き残らせることを無視し、戦闘能力だけに特化した検体だったはずなのに何だこの状況は。見た所単純な膂力や速度はローガンの方が勝っている、しかし、この女の振るう剣術と魔力の精度は意味がわからない。こんな学生が居てたまるか!馬鹿げた戦闘能力だ。


「こんな、まさかこの山羊女、マリア=トライセンか!?いや、しかし体型が違う……何なのだ、一体」


 一瞬先代勇者の姿が頭をよぎる。しかし、それはありえない。彼女はダンジョンの外で一般人の避難をしているのを放った間諜の視界から見て取れる。


 やがて、山羊女が反撃に転じてから大した時間もかからず、ローガンの体が崩れ落ちていく。


 これ以上の観察は無意味なので監視魔術を切るとしよう。

 私はローガンと繋いでいた監視の魔術を切断する、切断する一瞬前にローガンが完全に息絶えた為、その魔力が細い光として少しだけ残ってしまったが、それも一瞬で消えたので問題なかろう。


(……逃しませんよ?)


「……ッ!?」


 頭の中に声が響く、何者だ?


「お、おおぉぉぉっ!?」


 突如私の右手から尖った岩が無数に生える。凄まじい速度で腕へと侵食する岩……ダメだ、障壁などで防げるたぐいの物じゃない!何処からこんな術を……まさか、監視魔術を辿られた?あの一瞬で!?


 私は即座に右腕を吹き飛ばし、落ちた腕から距離を取る。激痛に目眩がするが、意識を途切れさせるわけには行かない。攻撃がこれで終わるとも限らないし、何より腕からの出血が酷い。早急に治療しなければ追撃がなくても命が危ない。


 暫く息を潜め、破壊されていく腕を眺める。突然襲ってきた魔術は右腕を破壊し尽くした所でその動きを止め、霧散していった。どうやらこれで追跡からは逃げ切れたらしい。


 今のは……恐らくオニキス=マティの声か、巫山戯るなよ、想像以上のバケモノじゃないか。こんな、監視していただけで反撃を食らうなんて。こいつらの危険度は上方に修正する必要がありそうだ。それとこいつらの素性はきちんと調べ直したほうが良さそうだな、謎が多すぎる。……まさかと思うが、あちらの作戦に関与されては厄介すぎるからな。


 く、以前抱いていた謎が解けたな。何故、空間移動系の脱出アイテムを持っていたミルコが逃げられなかったのか、まさか身をもって知ることになるとは。これはサントアリオでの活動は作戦の練り直しが必要だな……。魔血結晶のデータもずいぶん取れたことだし、報告の為暫くこの地を離れるとしよう……。




 ――――――




「……うーん」


「どうしたんですかオニキスちゃん?」


 駆けつけたグレコにシーザー達が一通りの報告をしてる中、オニキスが不満そうに唸る。


「黒幕?っぽい人に逃げられちゃいました」


「ほうほう、そんなオニキスちゃんには、私の大好きな人が昔言っていたセリフを贈りますですよ……魔王からは逃げられない(キリッ)」


「うぅ、止めてくださいよぉ……」


「何の話してるんスか?」


「オニキスちゃんがウッカリさんという話ですね」


「あうあう……」


くーろーまーくー。


なんか真面目に組織とか作戦がーとか書くと……なんでしょうね……むず痒い。


何時も読んでいただき有難うございます。

ブックマークなどもとても励みになります。

最新話の一番下には採点機能なんてものもありますので気が向いたらポチっとしてあげてください。


感想などもお待ちしております。

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