第三十六話 シャマのと……達に何してくれてるんですか?
感想欄にて「オニキス視点が見たい」と、言われた気がしたので書いてみました。
後で読み直してみたら、感想欄には「シャマ視点が見たい」と、書いてありました……。
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――――side オニキス=マティ
私はその時のシャマの行動にとても驚いていました。
「取り敢えず赤犬、その殊勝な心がけに免じて褒美を取らせましょう。これを持っていきなさい。」
こんなセリフを聞いてしまった私は思わず「ほぅ……。」と口から声を漏らしてしまいました。
シャマの渡した炎の形の飾りは、シャマの実家であるフォティア家の者が臣下に命令を下し、任務に向かわせる際、その臣下に渡すお守りなのです。この飾りは所持者が生命に関わる傷を負った際に、その傷を多少肩代わりして砕け散る性質を持ち、更には飾りを授けたフォティア家の人間に砕けたときの音を届けることによって、所持者の嬉々を知らせる機能を持ちます。
肩代わりできる効果は小さなもので、即死だったものが瀕死で済む程度のものではあるのですが、これが所持者の人生の明暗を分けるという話は少なくないのです。
物としては貴重な物というわけではないんですが、シャマがこれを持たせるということは、シーザー=トライセンの事を少なくとも自分の配下であると認識しているという事なんですよね。お仕置きしている間に情が移ったのでしょうか、ちなみに私はあの方は少々苦手です。
意外そうに見つめる私の視線に、シャマは無表情なまま目を逸らしましたが、良く見たら耳が赤いです。
この娘は何時も巫山戯ていたり傍若無人に周りの人間をいじったりしますけど、本当は心優しく仲間思いなんですよね。実は極度の照れ屋でもあるシャマは、そう言う部分を見せるのを非常に恥ずかしがるから、照れ隠しに色々悪戯をしてしまうんですよね。その事を知っていると、非常に行動が可愛らしいんですよねシャマって。
逆に言えば、シャマが悪戯を仕掛ける相手はシャマのお気に入りという事なんですよね~。もう少し素直に感情を表現できると、皆に愛されると思うんですけどね。……あ、今でも充分愛されてましたね。何かシャマのファンクラブみたいな物もあるって聞きました、我が従者ながら鼻が高いというものです。
「……オニキスちゃん、なんですかぁ、その目は~」
私の視線に気がついたシャマが、いつもの眠そうな目を更に半目にしてジットリとこちらを睨んできました、あまり変化してないように見えますが、この表情は照れつつもちょっと怒ってる感じですね。表情が乏しいのに顔に出やすい、この子の顔ってどうなってるんですかね?
「いえ、シャマは可愛らしいなと思いまして」
「ッッ……!!」
あ、後ろを向いてしまいました、からかい過ぎましたね。耳が真っ赤です。
他の人にからかわれると苛烈な仕返しで照れを隠すのですが、私にからかわれると一応主君であるために上手く仕返しを出来ないみたいなんですよね。だからこういうシャマを見れるのは私の特権とも言えます。
――ふふふ、眼福、眼福。
でも度を超えてからかい過ぎると、私に対しても情け容赦無い仕返しやお仕置きがあったりもするので塩梅が大事です。具体的に言うと、へそを曲げるとシャマはおやつとご飯を作ってくれなくなってしまいます。
私にとってシャマの料理は何にも勝るご馳走なので、これを絶たれるという事態は、この世に生きる喜びの半分を失うようなものなのです。でも今日はうまい塩梅です。ニヤニヤと眺めているだけですからね、特にやりすぎという事も無いでしょう、顔は真っ赤ですが。今回は上手く可愛い姿は拝みつつもリスクは避ける事に成功し……
「……オニキスちゃん、今日の晩ごはんのおかずは沢庵のみです」
「ほぇっ!?」
「沢庵のみです……良いですね?」
「ア、ハイ……」
……やり過ぎでした。
――――――……
何とかお仕事をしながらシャマのご機嫌をとった甲斐もあり、午後の休憩時間に入るときにはシャマも機嫌良さそうに一緒に屋台巡りをしてくれました。横ではシルエラが幸せそうにもむもむと綿あめを食べています。……カワイイ。
小さい手で一生懸命ご飯を食べる姿はそれだけで可愛らしいですね。こういうのは城に居たときには見ることが出来なかったので学園に来てよかったと素直に思います。
それにしても、屋台通りは人が多くて歩くのも困難だから気をつけてとリコスさんが言ってましたが、案外歩きやすいものですね。リコスさんは少々心配性さんのようです。小さなシルエラですら人にぶつかったりしてませんし。
……むむっ、あれは!?
「シャマさん、シャマさん、見てください!烏賊焼きですよ!烏賊が丸ごと網焼きにされてます!醤油の匂いが殺しにかかってますね!」
あれはクティノス名物IKAYAKI!まさかサントアリオので店でお目にかかれるとは!こうしては居られません、すぐにもあの至高の料理を手に入れなくては!!
「オニキスちゃん、シルエラちゃん、まずはその両手に持ったりんご飴と綿菓子を食べ終わってから次を買うんですよ」
「「はーい」」
うう、シャマは意地悪です……でも確かにあまり浮気症なのは良くないですね。お菓子にも敬意を払って味わって食さなければなりません。……むむ、これは、甘い、美味しい、……はふぅ、幸せです。
肩に乗せてあげたシルエラが烏賊焼きに大興奮してます。ああ、この子は本当に存在が天使のように愛らしいですね。おとーさん、シルエラのためなら何でもできちゃうぞぉ?
私とシルエラは烏賊焼き”様”を前に、両手に持っていたお菓子を、急ぎつつもしっかり味わい尽くしました。これで烏賊焼き様を迎えるのに何の問題もありません!!
「シャマさん、シャマさぁん、食べ終わりました!烏賊焼き、はやく私に烏賊焼きを買ってください~」
「おかーさん、シルエラにもください~」
「むぐぐ……」
「!?」
シャマさん、貴女……一体何を……それは……。
「……シャマさん……それは一体?」
「焼きハマグリと焼きサザエ、それに焼海老の海鮮焼き物セットですよ?」
ぐふっ、ここに来てまさかの伏兵!しかも烏賊焼き屋さんも何やら対抗して……あれは!つぶ貝串にウニ!?うう、対抗で烏賊焼きセット、おやじさん、そんなご無体な……オニキスの心はもう、海鮮焼きセット様に傾いていたと言うのに、ここにきてそんな……嗚呼。
キ゜ッ
この音は……まさかと思いシャマを見ると、彼女の表情も先程までと打って変わって真剣なものになっている。――間違いない、今の音はシーザーさんのお守りが砕けた音。
「シルエラ、すいません、おとーさんとおかーさんはちょっと大事な用事が出来てしまいましたので、リコスさんのお店に戻って貰っていいですか?」
「はーい!シルエラわかりましたぁ。――おとーさん、おかーさん、気をつけてね」
少しお小遣いを与え、頭を撫でると嬉しそうに目を細めるシルエラ。本当に聞き分けの良いいい子ですね。帰ったら色々埋め合わせをしてあげなくては。
「シャマ行きましょう」
「はいです……」
あのシーザーさんが致命傷を追うほどの事態、学園側は何をしているんでしょうか。彼ほどの手練が負傷する事態なんて普通じゃないはずです。
その疑問は魔狩祭会場についた時解消されました。先頭集団の映像が故障によって見えていない、今は復旧作業をしているようですが、恐らく先頭集団、シーザーさん達に何があったのかを、学園側はまだつかめていないのですね。せいぜい映像魔導機の故障程度に思っているのでしょう。今からグレコ先生が奈落の洞に突入しようとしているようですね。
「グレコ先生!」
「む、オニキス=マティ、それにシャマ=フォティアか、どうした?」
突然現れた私達に驚いた表情を浮かべたグレコ先生でしたが、私達の表情から何かを悟ってくれたようです。
「……これは、ひょっとして思ったよりやばい事態なのか?」
「はい、中の人達に危険が迫っていると思われます。中には私達が向かい、先頭集団の元へ行きますので、グレコ先生はこの事を学園長に伝えてください。私達が向かい事態は終息させるつもりですが、念の為その他の階層の避難を進めてください」
グレコ先生は一瞬、生徒にそんな真似をさせる事に難色を示したが、彼は私達の力を把握しているし、学園長から依頼を受けていることも知っている。事態の解決を効率よく行うために、私達の突入に納得してくれました。
「本来なら生徒に頼むことではないが、頼む。俺も学園長に報告し次第すぐに後を追う」
「はい、それでは行ってきます」
今は一刻が惜しい、私とシャマは全速力で奈落の洞の入り口を潜り、どんどん奥へ進む。4階層からは地上に映像が送られていなかったので、4階層に着き次第”角”を開放する。久しぶりに体中に巡る魔力を感じ、体が羽のように軽くなる。
角を開放したらすぐに、予め用意しておいた般若面を被りました。これを被ることで角を誤魔化せると言うアイデアはシャマ発案でしたが、我が従者ながら実に賢い作戦ですね。これなら誰もが私達の角に違和感を覚えることはないでしょう。シャマも山羊の骨の面をかぶっているのが見えます、うん、完璧に違和感がない。
でもシャマ……確かに角が目立たない仮面ではありますけど、その禍々しさは女の子としてどうかと思いますよ?
私が声に出さずにシャマの仮面のセンスの無さを考えていると、シャマもじっとこっちを見ていた。何でしょう……なにか言いたげに見えますね?
「――シャマ、なにか奥から禍々しい魔力を感じます。単純な魔力の大きさだけで言えば、フェガリでもそうそう居ないほどの大きさですよこれ……」
無言でうなずくシャマ、焦っているのが伝わってきます。何とか間に合わせなくては。
暫く進むと、奥から剣戟の音と怒声が聞こえてきました。どうやら間に合ったようですが、シーザーさん以外にも何人か人がいるようです、トップランナーのパーティでしょうか……嫌な予感がします。
角を曲がり広場に出た時、大きく怒鳴っているのにどこかネットリした怒声が耳を突いた。
「あぁぁ、よかった、逃げないでくれるんだぁ?あ、あ~、シーザーぁさぁぁぁんまだ遊んでくれるんだ、ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
あれは、以前戦った貴族と同じ?……いけない!あんな体をしているのに信じられないほど動きが速い。
歪な体をした男が腕を振るう、目の前でディアマンテさんとシーザーさんが吹き飛ばされました。そして男の指先から更なる魔力が溢れ出た、……させない!!
「瘴気魔砲」
男の指から黒い光が放たれ、真っ直ぐにシーザーさんへと向かう。しかし、それより早く男とシーザーさんの間に入ったシャマが、愛剣フラムヴィエルジュで受け止め、そのまま上方に光を弾き飛ばした。弾かれた光はそのまま天井を突き破り、暗闇の彼方へと消えていく。
「――たく、初任務でいきなり死にかけてるんじゃねぇですよ赤犬ぅ」
また憎まれ口を叩いてますが、明らかに安堵した声ですね。他の人にはわからない程度の違いですが。もし今、私の視線にシャマが気がついたら、また彼女の可愛らしく照れる顔を見る事ができることでしょうね。――まあ、今晩のおかずの為にも絶対やりませんが……。
シーザーさんの無事を確認したシャマでしたが、前を向いた瞬間、その安心した雰囲気が一変しました。何を見たのかと視線をそちらに向けた時、シャマが何を見たのか私にも即座に分かりました。そして私の視界も怒りで真っ赤に染まります。
そこには、ヴィゴーレさんに抱き抱えられ、ぐったりと動かなくなったリーベさんの姿が。抱き抱えているヴィゴーレさんの表情から恐らく命に別状は無いのでしょうが……しかし。
「……リーベやったのお前ですか?」
「あぁ?……なんだピン……」
「やっぱり良いです、もう喋るなお前」
直後、歪な体をした男の体が燃え上がる。
「ウギャァァッァアアアァァ!?」
底冷えするような雰囲気を纏いシャマが一歩前に出ます。
「オニキスちゃん、ごめんなさい、コイツはシャマに譲ってください」
「……私も怒ってるんですよ?」
「分かってますけど、こいつだけはシャマにやらせてください。シャマの……達をよくも……」
驚きました、ここまで怒り狂っているシャマを見るのは初めてです。最後の方は声が小さくてよく聞こえませんでしたが。仕方ないですね、私だって友達を傷つけられて頭に来てますが、シャマは何時もリコスさんとリーベさんと一緒にいることが多いですから、私よりも怒り心頭なのでしょう。
私はシャマに頷くと、急ぎシーザーさんの状態を確認して緊急性は無いと判断し、リーベさんの元へと急ぐ。
その時、男の口から、ノイズ混じりの奇妙な声が発せられた。
「ガ……ギィ……ザザッ……驚イタナ、マタ、オ前カ、おにきす=まてぃ」
体を焼かれ、先程まで悲鳴を上げていた男は、今は無表情に奇妙な声を垂れ流している。
「チョウド、イイ、コレノ、試運転ニ、オマエホド相応シイ贄ハ居ナイ」
直後男は咆哮を上げ、体に纏わりつく業火を消し飛ばし、炭化した皮膚を剥がし、それを貪り始める。
思わず顔を顰める光景でしたが、それよりもその後の変化に私は目を奪われました。
剥がれた皮膚の下から肉が盛り上がり、その体からどんどん魔力が溢れていく。信じられない、大きさだけなら、シャマに匹敵するかもしれない程の魔力だ。
「今マデ散々邪魔シテクレタンダ。最後ニ役ニタッテクレテモ罰ハアタラナイヨ……ああぁぁぁぁ、有難うございます!!流石あの御方、俺の体に力があふれて行くぅぅぅ!!」
男は突然流暢な口調に変わったが、その言動には相変わらず正気を感じさせない。
「ふむ、ふむ。お、おお、そうなのですか、この力は魔王や勇者に勝ると?……はい、はい、分かりました!!必ずや、このローガン、ここに居るすべての豚を屠殺してみせます!!」
何かと会話をするかのように叫びながらよだれを撒き散らすバケモノ。見ているだけで吐き気がする。
が、今はそれどころじゃないですね。聞けばヴィゴーレさんは魔力を使い果たしてしまい、何とかリーベさんの一命は取り留めたものの、コレ以上の治療ができないらしい。
私はヴィゴーレさんの肩に手を置き、魔力の譲渡を始める。
この術はフェガリではよく行われるのですが、サントアリオでは一般的な技術ではないらしく、ヴィゴーレさんは驚いていたが、今はありがたいとリーベに治癒術をかけ始めました。柔軟で冷静な判断をできる方ですね。
「ヴィゴーレくぅん、こんなときに言うのもなんなんだけどねぇ。君、ぶん殴らなくても人を治癒できたのかぁい?」
「……筋肉式治癒術は戦闘中には向いているが危篤患者の治癒には向いていない。患者を揺らしてしまうからな」
「何その怖い名前ぇ!?」
相変わらずヴィゴーレさんとディアマンテさんは仲が良いですね、リーベも大丈夫そうですし、一安心でしょうか。
でも……魔力譲渡ってすごく効率悪いんですよね……正直いくら私でもちょっと目眩がします。あ、だからサントアリオには無いのか。などと私が埒外な事を考えていると、室内に醜く濁った怒声が響き渡った。
「何をしてんだぁぁぁぁお前ら?そいつはおれのボールなんだよぉおぉぉ?触るんじゃ……グオヶオアオォォェエェ!?」
「お前こそ何勝手に喋ってるです?」
男がこっちに向かって叫んだ瞬間、シャマの大剣が男の脇腹を薙ぎ、その大きく肥大した体を壁まで吹き飛ばし、更に着地と同時にその体に再び業火が上がった。シャマの愛剣フラムヴィエルジュに込められた特殊能力”死に至る慚愧の炎”、地獄から流れ出ると言われるその業火は、並の魔物であれば骨も残さず一瞬で焼き尽くす。
でも、男の体は見る見る焼かれている様だけど、その下からどんどん肉が盛り上がっているのが見えますね……何なんでしょうあの力は。
「お前が殺してくれって言うまで切り刻んでやるですよ?」
わぁ……シャマってば本当に大激怒してますね。あちらは任せて置いて大丈夫そうです。
「……ん、う?」
「あ、リーべさん気が付きましたか?」
ヴィゴーレさんに治癒術を施されたリーベさんから小さな声が上がりました。どうやらもう大丈夫そうなので魔力供給を止め、リーベさんの顔を覗き込みます。
「あ、え?お姉さ……ふえええええ!?」
む、目を覚ましたリーベが再び気を失ってしまいました……何ででしょうか!?
「……オニキス姉さん、寝起きにそのお面見せられたら僕でも気を失うッスよ……」
「あ……」
ごめんなさいリーベ、でもこのお面、”角”出している間は外せないので、もう暫く眠っていてください……。
……――うう、何やら周りからの視線が痛いです。
あの、あの、皆さんまだ安心しちゃ駄目ですよ?バケモノがまだ居ますからね?だから……ね?皆でシャマを応援しましょう?
「フエエェェエェェエェ……」
あ、シャマもこっち見てますね……。
オニキスは不器用なので”オニキス”で過ごすときは脳内までオニキスです。
逆に”オニファス”になると脳内も尊大な物言いに変化します。
ブックマや評価いつもありがとうございます。
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