第三十一話 治癒術士の嗜み
途中何箇所か視点が変わります。
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白い翼が舞う、それは恰も水の上を行く白鳥のように。
細剣の切っ先が閃き白い軌跡が通りし跡には、無残に斬り伏せられた魔物たちが転がっていた。激しい動きに呼応し美しい白翼が舞って行く。
「はっはっは極限無敵最強水鳥剣ッッッ!!!」
背中の羽を舞わせ、細剣を振るう美男子ディアマンテの剣が冴え渡る。激しい動きにあわせ、ブルンブルンと股間で揺れる白鳥の首は今日も絶好調だ。
「ふぇぇぇ~、ディアマンテさんは凄いですねぇ。あんなに鋭い斬撃みたことないですぅ~」
「……お前、着眼点が中々独特だな」
「ふぇ?」
ヴィゴーレは驚きの目で、横に立つ自分と同じ治癒術士の少女を見つめた。彼が知る限り、ディアマンテの戦いぶりを見て、こういった感想を持つ女性を見るのは初めてだった。大概の人間は、ディアマンテの奇抜すぎるファッションセンスにだけ目が行ってしまい、彼を冷静に評価することが出来ないのだ。彼女も最初は意識を失うほどディアマンテの服装には驚いていたはずだが、共に戦う間に、彼の真価を見出したらしい。聖女候補という話は聞いていたが、なるほど彼女はおっとりした雰囲気とは裏腹に、実に聡明な女性であるらしいとヴィゴーレは感心した。
服装のせいで誤解されがちだが、彼の実力は周りの評価とはかけ離れており、剣術科の中でも五指に入る実力者であるとヴィゴーレは思っている。故に彼はそんな友人の評価について、いつもやきもきさせられていた。しかもタチが悪いことに、ディアマンテ自身は周りの評価など意にも介していない為、何度忠告しても、この服装を改善しようとしないのも彼の悩みの種だった。
「ふむぅ、残念ながら一層のボスモンンスターはすでに倒されてしまっているようだねぇ。多分シーザー君かなぁ?」
リーベ達もディアマンテとヴィゴーレを前衛に、破竹の快進撃を見せていた。が、それでも勇者候補であるシーザー一人に追いつくことは困難であった。そうして張り合ってみると、彼の頭抜けた能力の高さを改めて認識させられる。
「い、急いで二層に向かいましょう。いくらシーザーくんでも一人ですから、私達も頑張れば追いつけるはずですぅ~。」
「……急ごう」
すでに空き部屋になった部屋を後に、リーベ達も二層へと歩を進める。
魔狩祭現在順位
1 シーザー=トライセン
2 ローガン=ヒュージャ
3 白鳥王子と愉快で華麗な仲間たちチーム
4 ドンブニャカマラートチーム
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―――――― side シーザー
うーん、調子に乗って先に進み過ぎたかな。順位が思わしくない感じだなあ。ここで休憩すればローガンくんや、ディアマンテくん達が上手いことやってくれるかもしれない。よし!シャマネキに今回の報酬として作ってもらった弁当をここで食べるとしよう。ふふ、今日はこれが楽しみで頑張っているようなものだからなあ。シャマネキは料理が上手いと評判だし、楽しみ……だ
弾むような期待で胸を膨らませながら、手早く荷物入れから弁当箱を取り出す。シンプルな黒い布に包まれたそれを開くと、中からこれまた何の飾り気もない黒い弁当箱が現れた。
期待感で目眩がする……。いかん、いかん、冷静に、そう冷静にならねば、弁当をひっくり返してしまうかもしれない。そんな事になったら、僕はもう……戦えない。
「……それでは……御開帳ッッッ!!」
十分に溜めを作って一気に蓋を開く。
…………中には敷き詰められた白米に海苔で「大儀である」と書いてあった。うーん、白い……。義の字が無駄に細くクォリティが高い。あ、目眩が……いかん、涙がでそうだ。
「シャマネキィ……ひどいッスよぉ……」
僕は絶望に震えながらも弁当を食べる事にした、こんなシンプルすぎる弁当でも、尊敬するシャマネキの手作りには違いないからな……オニキス姉さんにお願いすればよかった……。
悲しみを背負いつつも白米に箸を差し入れる、すると白米の下にはきちんとおかずが忍ばせてあった。この時の感動を、僕は表現する言葉を知らない。やっぱりあの人は素晴らしい人だったのだ!!
「うぉぉぉぉ!!」
美味い!美味いっす!!一生ついていきます!!
絶望のどん底に叩き落としてからのサプライズ。シャマの巧妙な罠によって、虐待されているのに忠誠心をあげるシーザー。ちなみにおかずは殆どが昨夜のご飯の残り物である。
――――――
「あ、シーザーさんです!追いつきましたねぇ」
「何か泣きながら飯を食っているな……」
「なぜだろうねぇ、唯の食事風景だと言うのにぃ、なぁんか涙がでてしまうじゃなぁいか?」
「あ、ディアマンテさんもですか?私も何だか鼻の奥がツーンとするんですぅ……何ででしょうね?」
「……兎に角進むとしよう、一位が休むなら我々は進むまでだ。」
「だぁねぇ」
リーベ達はこそこそとシーザーの居ない方の通路を進み、道すがらバルーンスライムを割っていく。割った瞬間バルーンの弾ける乾いた音が響き渡ってしまい、リーベがわたわたと慌てていたが、そもそもディアマンテが大声で技名を叫んでいるので今更である。
ディアマンテの剣とヴィゴーレの拳により道は開かれ、一行は通路を奥へ奥へと進む。やがて通路の奥に二層のボスが見えてきた。
「二層ボスはゴブリンナイトですかー。あれって普段なら5層にいるやつですよねぇ?」
「まあ魔狩祭の先頭走ってる人たちなら問題ないだろうって事だろうねぇ。そうなると5層には何がいるのか、ちょっと楽しみだぁね。」
「では早速祝福をかけますねぇ。」
リーベの祝福により、薄い光を纏い、ディアマンテが駆け出す。
「いくよ、絶招無空剣!!」
「ふんっ!!」
以前苦戦を強いられたゴブリンナイトに渾身の力で技を叩き込む。直後首を刎ねられたゴブリンナイトはヴィゴーレの拳に吹き飛ばされ、壁に赤い花を咲かせる。
「んん?再生……しないねぇ」
「むぅ……やはり以前戦ったゴブリンナイトは何かおかしかったようだな」
「ですねぇ、流石にお姉さまの魔法が必要な超回復力なんて異常過ぎますからねえ。あれはやっぱりゾンビの発生とあわせて異常事態だったんでしょうねえ。」
嘗て切り裂けども殴れども、その都度禍々しい再生を見せた強敵ゴブリンナイトであったが、今回は一撃で屠ることに成功をした。
「兎に角、これで順位は入れ替わったんじゃないかなぁ?このまま優勝まで一気にかけぬけようじゃぁないか?」
「そうですね~、シーザーさんもいつまで休憩してるかわかりませんから、このまま休憩しないで3層も攻略しちゃいましょう」
そんな会話をしつつ、三人は軽い足取りで3層に到達する。普段から授業などで利用することの多い奈落の洞、内部構造ですらほぼ把握している初心者向けダンジョン。しかし、3層に降り立った瞬間、3人の顔つきが変わった。
「……随分と空気が剣呑と言うか~、なんかここおかしくないですか?魔狩祭だからでしょうか?それにしても3層でここまで一気に空気がかわるなんて……」
「ん~。でもおかしなことがあれば学園側が気がつくんじゃないかなぁ?モニターにも映し出されているはずだし、おかしなことは無いと思うがね~」
「……取り敢えず進んでみよう」
三人は警戒を保ちつつ歩を進めていく。角を曲がり、見覚えのある通路を進むとそこには、今までの階層と同じく数匹のバルーンスライムがふよふよと歩き回っていた。
そのどこか愛嬌のある姿をみてリーベがため息を吐く。
「ふぅ、緊張しちゃいましたけど、どうやら問題なさそうですねぇ。一位になったことで緊張しすぎちゃいましたかねぇ?」
「そうだねぇ、でもまあ、何があってもリーベ君の事は、僕が守ってあげるから心配しないでいいよぉ。この股間の白鳥に誓うとも!」
そのままリーベ達は、3層のボス部屋に何の問題もなくたどり着くことが出来た。部屋に鎮座する3層のボスはジェネラルゴブリン。ゴブリンナイト以上の戦闘力を持つ上に、下級のゴブリンを召喚し、使役する特殊能力を持ったモンスターだ。
「ジェネラルは僕に任せて君たちは雑魚ゴブリンを対処してくれたまえ~。行くぞ、究極武神刃!!」
「ギィッ!?」
突然現れたディアマンテの攻撃に、慌てつつもきちんと斬撃を受け止め、ゴブリンジェネラルが声を上げる。
「キュウァァァァァァァァァッ!」
斬撃受け止められた後も、次々に繰り出されるディアマンテの剣戟を受けつつ、高音の雄叫びをあげるゴブリンジェネラル。直後、何もない空間に次々とゴブリンが召喚されていく。
ゴブリン召喚を確認し、ディアマンテは両手を全力で打ち鳴らした。空気が裂けるような乾いた音が部屋中に響き渡る。人間より聴力の高いゴブリン達は、鼓膜に軽いダメージを受け、その音の源に視線を向ける。サム=グレコ直伝、治癒術士の柏手である。
リーベも真似して治癒術士の柏手を試みるが、ペチンと可愛らしい音がなるだけで全くゴブリンの視線を集めることが出来なかった。
「リーベ=グリュック、お前は優秀な治癒術を使えるが、治癒術師としては圧倒的に筋肉が足りていない。お前があと60Kg程筋肉をつければ、治癒術師として理想的な前衛に成る事ができるだろう……」
「ふええぇぇぇ、ヴィゴーレくん。それは何かが可怪しいと思うよぉ!?」
「何を言っている、これはグレコ先生も言っていた事だ、魔狩祭が終わったら俺も付き合ってやる。筋肉をつけるんだ」
私の知ってる治癒術と違う!!リーベはそう思ったがヴィゴーレの真剣な顔に言い出すことが出来ない。
「……それより、来るぞ」
「ふぇぇぇん、助けてくださいぃお姉さまぁ!!」
「これしきの雑魚相手にオニキス=マティを頼るな!やはりお前には治癒術師の基礎が足りていない」
「そう言う事じゃ無いんですぅぅう!!」
リーベの悲鳴がこだまし、スラッシュの掛け声が響き渡り、定期的に柏手が響き渡る。やがて静かになった頃にゴブリンジェネラルはその体に大きな裂傷を負い、消滅した。
――――――(ふぇぇぇん)
「……はっ!?」
「どうしたんですシャマさん?」
オムライスにケチャップをかけるシャマは、何かを感じたかのように動きを止め、ワナワナと震えだした。
「……いま、いまシャマはまたも美味しい場面を逃したのではないか……そんな予感がしたのです」
「またですか?変なこと言ってないで、ちゃんとやってくださいね!お客様が待ってますよ」
「はーいはいですー、もえーもえーきゅーんっと」
「もっと真面目に感情込めましょうよ……」
「フエエェェェエェェエ……」
今日もちょっと遅刻しました、ごめんなさい。
いよいよコミケです……来られる方は熱中症に気をつけて。
ご感想絶賛募集です!!




